公正世界をぶっ壊そう。
あの日、日本は宇宙にある兵器を打ち上げた。その名を「スサノオ」と言った。地球周回軌道上に乗ったそれらは最強のストッピングパワーとなった。
あの日、日本に向けて破滅が迫ってきた。だが破滅は起こらなかった。代わりに破滅は元凶に訪れた。世界は日本に何も言わなくなった。
あの日、日本は緩やかに穏やかに死ぬことを選んだ。あらゆる異分子を追い出し、蓄えた富を消費しながら自分たちが幸せな社会を作った。
「今日も暑い、暑すぎる。なーんでこの学校にはエアコン、ましては扇風機さえないんだ。平成でさえあったっていうぞエアコン。元号何個遡ればいいんだ。」
伊藤がうちわを仰ぎながら言う。
「伊藤、そりゃあ俺らが放流組だからな。ま、俺はこんなの何ともないけどな。」
野村は涼しげな顔をしながら言う。
「野村、とんでもない汗かきながらそんなこと言われても説得力なさすぎ。」
泉が野村の絞れそうなワイシャツを見て、若干引きながら言う。
鉄筋コンクリート打ちっぱなしのボロボロの校舎の一室で彼ら、彼女らは話していた。そこに太った中年男性が不機嫌をまき散らしながら入ってくる。
「おい、ホームルームを始めるから黙れ。暑いし早く職員室に戻りたいから用件だけ伝える。秋の文化祭の出し物について放課後に聞くから、松丸が他の奴らの意見まとめといてくれ。まあクラス全員で9人じゃできることも大してないだろうから去年と一緒でクラス展示にしようと思ってるし、他のクラスも同じだろう。一様学校のルールだから放課後に投票はするけど、な。俺も忙しいんだ、スマートにいこう。言ってる意味わかるよな。じゃ、1限から5限までは自習だから、各自勉学に励むように。」
中年男性は汗を拭いながらそそくさと帰っていった。
「くそじじいが。何がクラス展示だ。あんなのただの日記発表会じゃねえか。」
川島がコワモテの顔をさらに怖くしながらつぶやく。
「しょうがないよ。私たち放流組だからね。」
中村が下を向きながらつぶやく。
「「だよなあ」」
皆が下を向く。だが一人下を向いていない者がいた。そして彼は言った。
「文化祭、映画撮ろうぜ、映画。」