S級勇者「お前は追放だ」俺「待ってくれ!実は俺は縁の下でめちゃくちゃパーティに貢献してるんだ!」
「ねぇルークぅ。あたし、困ってることがあるのぉ」
「なんだ、エマ」
「アルマにセクハラされて困ってるのよぉ。ゲスい顔で身体中まさぐってきて、怖くて泣いちゃうわぁ」
「そうなのか!? ――むぅ。それはパーティリーダーとして看過できる問題ではないな……」
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「今回の狩りも楽勝だったな!」
時刻は夜。
遠征帰りの酒場で、ライアンが高らかに声を上げる。
ルークとエマもそれに続いて、酒の入ったグラスを掲げた。
「お疲れ様。今回もあたしが大活躍だったわね」
「何言ってんだ! 俺の筋肉が勝利に導いたんだよ!」
パーティリーダーのルークは、じゃれあう二人を見て頬を緩めている。
一週間に渡る長旅だったが、今回も無事に全員で帰ってくる事が出来たのはやはりチームとしての団結力あってこそ。全員で得た勝利だ。
「……なに一緒になって呑んでるのよ、アルマ。あんたは偉そうに酒なんて呑めるような働きしてないでしょ」
「そうだぞ! 勝利の美酒に酔えるのは、勝利に貢献した者のみだ! お前は違うな!」
エマとライアンは俺への当たりが強い。
ただまぁ、それも不器用なコミュニケーションというか、仲良しの裏返しみたいなものだろう。
仲間内のジョークにいちいち腹を立てるのも無粋だし、いつも通り聞き流してやるのが吉だ。
「なににやけてんのよ、気持ち悪い」
「なんでもないよ」
「――ところでだ。アルマ、お前に話がある」
と、いつになく真面目な顔でルークが俺に向き直る。
こう改まって話を振られることは少ないので、他愛もない雑談が始まるわけではなさそうだ。
「アルマ。お前は今日も持ってこのパーティから抜けてもらうことにした。追放だ」
「――は!?」
ルークの口から飛び出た言葉は、予想外の方向から俺をぶん殴ってきた。
追放だなんて、またまたそんな。
全くもって理由に心当たりがない。
「お前はパーティに何も貢献していない。攻撃魔法すらまともに使えず、荷物持ちだって言われなければやらない。実力を弁えないのは、見苦しいぞ」
おいおい、冗談だろ。
確かにあまり使う機会はなかったが……俺は攻撃魔法を使えない訳じゃない。荷物持ちだって、俺が進んで手を上げる意味がわからない。
ライアンが持てよ。筋肉が自慢なんだろ。荷物運びに最適だ。
俺が追放だなんて、お前らの目は節穴なのか。
――などと言うのは、傲慢だろう。
なぜなら、俺の能力についてこいつらに何も説明していなかった俺にも非があるからだ。
いかに俺がこのパーティに貢献していようが、それを認識してもらえていないのなら俺の伝達不足だ。
補助魔法なんてのは、目に見える強さではないからな。
言わなければ、伝わらない。
「待ってくれ! 実は俺、補助魔法でめちゃくちゃパーティに貢献してたんだ! お前らが最近怪我を負わないのも、敵が弱く感じるのも、朝目覚めがスッキリなのも全部俺が補助魔法を使っていたからなんだ――!」
「――は、戯言ね。そんなの、あたしたちが信じるわけ……」
「そうなのか!? ……すまん、知らなかったとはいえ、お前の名誉を傷付けることを言ってしまった。どうか許して欲しい。この通りだ」
そう言うと、ルークは深々と頭を下げた。
それを見たエマとライアンは、信じられないものを見たように目を丸くしている。
それにしても、真偽すら問わずにそんな誠実に謝られると逆にこっちが反応に困るな。
「ちょっと! こんな役立たずの戯言を信じるの!? そ、そうだわ! あたし、こいつにセクハラされたのよ!」
「そうだったな! ……アルマ。さすがにそれはどうかと思うぞ。エマも怖がっているし、同じパーティに置いておくわけには……」
「それ嘘だよ。俺エマを異性として見た事一瞬たりともないし。騙されてるよ、ルーク」
全くの事実無根だ。エマは同じパーティの仲間だとは思っていたが、そういう目で見たことなどない。
それにしても……なるほど、読めてきたぞ。
エマがルークを唆して俺を追放させようとしたんだな。
なんだ、今までのエマの暴言って本心じゃん。ちょっと悲しくなってきた。
「そうなのか!? ――騙したのか、エマ! 仲間を欺くとは、よほど性根が腐っていると見える! 俺はその背信だけは断じて許さぬぞ!」
「う、嘘じゃないわ! ほ、ホントにアルマにセクハラされたんだから。こいつが嘘をついているのよ! ほら今だって、こんないやらしい顔して!」
「どっちなんだ!? 俺を弄んで悦に浸っているのか!? 俺の事を単純で扱いやすい馬鹿な奴とか思ってるんだろ、いい加減にしろ! もういい! 俺が抜ける!」
「そ、そんなこと思ってないわ! 私が嘘を付いていたの! パーティから抜けないで、ルーク!」
阿鼻叫喚である。
というか、エマが勝手に自爆している。
なんかもう、この場に俺いらないんじゃないかな。
だってほら、エマが泣きそうな顔で必死だし。
これならエマは、引き止めるためにルークの御機嫌を取るだろう。もう俺が追放されることはなくね?
「でも……そうよ! 補助魔法っていうのは嘘に違いないわ! そんなの、適当言ってもバレないと思ってるのよ!」
「そうだな。アルマ、証明してくれ。お前が今まで強力な補助魔法で俺らをサポートしていたという事実を」
少し落ち着いたのか、声のトーンを下げたルークが俺にそう言った。
わかった、この場でサクッと証明しようじゃないか。
俺は、ポーチから紙切れを2枚取り出した。
これはステータススクロールと言って、魔力を込めると自分のステータスが数値になって浮き出てくるというもの。
自分の魔力から読み取れる数値なので、改ざんなどはできない。信用性はバッチリだ。
ルークがその紙を手に取る。
じんわりと光が発生し、滲んだ字が浮かび上がってきた。
「そうだな……HP、攻撃力、防御力の数値だけ覚えておいてくれ。それが素のステータスだ」
「212、185、203だ」
「よし、じゃあ補助魔法をかけるからもう一度試してみてほしい」
補助魔法の発動に大掛かりな魔法陣や膨大な詠唱などいらない。俺がルークに手をかざしておしまい――本来なら手をかざす必要も無いのだが、今回は「はい、今使いましたよ」と視覚的にわかりやすくするためにそうした。
ふたたび光が収まると、ルーク本人と――覗き込んだエマとライアンが驚愕の表情に変貌した。
ついでに、エマの『驚愕の表情』があまりにゴブリンに瓜二つで俺も驚愕した。
メンバー全員の顔が縦に伸びている。なんなんだこの集まりは。
「……1017、996、1002だ」
「そんな……ありえない……」
「……本当に申し訳なかった。真に実力を弁えられていなかったのは俺たちの方だった。数々の無礼、どうか許して欲しい。その上で、これからアルマがどうしたいか決めてくれ。パーティを去ると言うのなら相応の対価を支払おう」
改めてルークは、深々と頭を下げたのだった。
だが、俺の考えは変わらない。
別に、ルークだけが悪いわけじゃないのだ。
「俺がちゃんと言っておけばよかったことでもある。別にお前らを責めるつもりはないよ。これまで通り、仲良く冒険をしていきたい」
「……すまなかった」
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「ってなるのが理想だと思わない?」
「涙吹けよ。俺んとこ来るか?」
「うぅ、やっぱり持つべきものは友達だなぁ」