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3 君への回帰④

 大事なものが増えるたびに、ひとはぼろぼろと弱くなっていく気がした。――何よりも、自分がそうだったのかもしれない。

 唐突に王妃に部屋に呼びつけられて、真実を告げられた6歳の時。

『――私の王子は貴方一人ですのよ……』

 言って抱き締める腕に、自分は何も言えなかった。何を言えば良かったのか。生きる為だ、全ては生き抜く為だ。王妃の命で強引にマクドゥール伯の義息に収まっていた自分に、伯が辛く当たったという事は特に無かった。だから余計苦しかったのだ。今までの場所にそれなりに満足していたのが、突然光の溢れ出す源を指差されて、あそこが貴方の本当の場所よ、と言われる。ただし、そこに立つにはまだ時間が必要なの。仮初にあの場所を他人に明け渡しておかなければならないの。時が満ちるまで、貴方は黙ってそれを見つめることしか許されない。そして、その時まで真実を誰にも告げては駄目――でないと、命を落とすかもしれません――。

 ふと見れば、仮初にその場に降り立った彼は、それが自分のものであると信じて疑わず、心ゆくまでそれを享受している。そして、王宮の教育は何と行き届いたものであったのだろうか。純度の高い水晶のような心を持つ人間を見事に作り上げた。――いや、最初からその心は原石であったのかも知れぬ。磨けば必ず光る可能性を孕んだ――。

 母上。父上。

 そう、てらうことなく呼びたかった。その思いが芽吹いた時から多分自分は弱くなった。同じ心で、死にたくないと痛切に願った。池でほんの一瞬溺れかけて、どんなにもがいても空気はどんどん失われて、苦しさは一向に和らがぬどころか激しさを増して行き、死ぬと言うのはこんなに苦しいことだと悟っていた。そんな目に合うのはご免だった。

 そして、自分の居場所を占めていた王子。リドゥ・エル・フォーディーン。何も知らずに彼は今日も澄んだ言葉を、笑みを、投げかけて来る。自分の場所で。自分の受けるべき恩恵を受けて。自分のするべき行いをし。

 ああ、いいじゃないか。神から預かった言葉を。違えさせてやろうじゃないか。そして全ての逆転を。――勝つんだ。そう何度呟いたか知れない。予感はある、彼がここにたどり着くと言う予感は。繰り返し、繰り返し、この胸を駆け巡る予感。それは自分が翻弄された――いや今も尚翻弄されている――『預言』に近しいものだった。確信、なのかもしれない。自分が生きない証である彼の存在を、自分の人生から残酷に削り取って、そしてその時こそ自分が神に、そして今までの人生全てに勝つ時だ――。

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