3 君への回帰①
旅路についてからほぼ一度も途切れることなく、ライカ・サファイアとリドゥ・エルの攻防戦は続いていた。昨日の彼の手首の怪我を慮ってライカが荷物を代わりに持つ、と言い出したのだが、リドゥは頑として応じようとせず、延々と台詞が続く。今も、本日何度目か知れないライカの苛々した叫び声が真っ直ぐ伸びた道に響いた。
「――だから、どうして人の親切を無下にするのよ、持ってあげるっつってんだからさっさと渡しなさいってば! 気分良くないの! ――ちなみに次『別に』って言ったらもう強制没収よ、ついでにごはんもあげないんだからね」
「お前さ、本人がいいっつってんだからそろそろ引いたらどうだよ?」
呆れ顔で口を挟んだヴァーンにライカは、
「何であたしが引かなきゃなんないのよ、ここまで来たらもう最後までやるしかないでしょ!」
とどこか論点のずれた発言で一蹴し、くるりとリドゥに向き直った。
「さ、というわけだから早く渡しなさいよ」
言いながらずい、と手も差し出す。リドゥはそれにため息を返して一瞬顔を背けると、
「だから何度も言ってるだろ、いいって! だいたいどうしてそんなに大げさにするんだよ? これくらいでいちいち騒いでたら面倒でしょうがないだろ!」
何かが弾けたようにぽん、と叫んだ。言われたライカは一瞬いつもとの反応の違いに呆気にとられて黙り込んだ。言ったリドゥはそんなライカの顔を見て、どこか恥ずかしげに口元を手で覆う。
「あの、ね……」
微妙に気まずい雰囲気の中、口を開いたのはエセルだった。
「これでもう終わりでいいんじゃないかしら。ね?」
どことなく有無を言わせないその力強い眼差しに、ライカとリドゥはしぶしぶ頷くと、改めてそれぞれの荷物を持ち直した。一瞬かちあった視線は、リドゥが瞳を少し伏せたことですぐに別れた。だから彼はその後ライカが不満げな顔で自分を見ているのに気付かなかった。