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3 未だ氷の刃⑥

「――ただいまー……ってあれ?」

 勢いよくドアを開け放って、ライカは視界にリドゥがいないのに気付くと、ふと動きを止めた。訝しげに辺りを見まわす。と、ベッドの上に無防備に投げ出された身体があった。

「何だ、また寝ちゃったの?」

 小さく問い掛ける。当然の如く返事は返ってこず、ライカはゆっくりとベッドの端まで近づいて、ちょっとかがむとリドゥの顔を覗き込んだ。完全に安らか――とは言い難いものの、金の髪を無造作に散らして、何処か子供の様な横顔を晒して眠っている。あの印象的な青の瞳は、今は瞼の下に隠れたままだ。代わりに伏せられた睫毛が今はその場を占めている。

(まあ何だかんだ言っていっつもあたしより遅く寝てあたしより早く起きてたもんねえ)

 ライカはひょい、と手を伸ばして前髪をかき分けつつ、リドゥの額に触れた。伝わってくる熱は、ようやく少しは下がってきたようだった。

 妙に高額だったルビーを景気良く売り飛ばしてお金は手に入ったから、急ぐ必要も無い。さっき送った伝書鳩は期日までに余裕で間に合うだろうし。だからゆっくりしたっていいのだ、何なら彼が治るまで。

 それは何処か野生の生き物を飼いならすような感覚に似ていた――本能の赴くままに粗野に生きるのではなく、あくまでも誇り高く孤独に生きようとする生き物を。引き寄せる、こちらの方へ。

 何度見捨てようと思ったか知れない。それでも結局は振り切れなかった。それが今ようやく歩み寄りを始めている。ここで止める手は無いと言うか何と言うか。

 いや、本当はメグレス村に行く事自体が必要無くなったのだ。彼女がメグレス村に行こうとしていたのは、ひとえに借金を返す為のお金の稼ぎ方を元宮廷占い師、ジュリアードにご教示願う為だった。

「……」

 ちょっとの間と大きくついた息。

 ライカはわざと反動をつけてソファに座った。

(でも)

 本当は、もう一つ秘密の目的が有った。ほんの微かな期待が。

「……ヴァーン……」

 秘められた名前。生命の芽吹きを持つそれは、彼女の内なる宇宙でゆっくりと広がっている。

 保証は何も無かったけれど、僅かな可能性の問題が今も尚密やかに心に宿っていた。

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