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4 生命倫理⑦

 『風』は確実に自分を家まで運んで行った。降り立ったのはあの緑の丘。墓石の前で。捧げた汚れ無き白薔薇の前で。

「アーデルハイト……」

 そこに眠る彼女の名を切なく、愛しく呼ぶ。本当は、もうここに立つ資格など無いのだろうけれど。それでも愛している――。

「……!」

 身体中がばらばらになりそうな痛みが急に彼を襲った。解き放った嵐が中で暴れているようだった。喉が、その奥の気管が、肺が、ぜいぜいと空気を通すだけで嫌な振動を伝える。

 何度か激しく咳き込んで、それはようやく治まった。口元を覆った右手を、ゆるゆると外す。

「……」

 血溜りが、出来ていた。

 彼は、イリヤ・エヴァレットはしばらくそれを黙ったまま見つめていたが、やがて何を思ったのか純白の薔薇の上でその手のひらをぶん、と振った。

 びしゃりと鮮血が飛び散って、白かった花びらが真紅に染まる。白薔薇が赤薔薇に。その変容は何を意味するのか。

「――アーデルハイト……」

 全ての答えの代わりに彼はもう一度その名を呼んだ。もうこの場所で彼女の名を呼ぶことは叶わない。彼女の生きていた七年前、たった数分前、そしてこの墓石の前、それらはもう戻れない場所。それでも行かなくてはならない時が有る。幕を開けた全ての舞台に向かう為に。そして目の前に広がるただ一つの道の為に……。

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