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89【これからのこと①】*

 先のことで不安を感じ、心を落ち着かせるために小さくため息をついた。けれど、そのせいでどうやらデオンさんを困らせてしまったみたいだ。


【すまない、シア。知りたい情報がなかったようだな。私が知り得ていないだけのことももちろんあるだろう。心配しなくてもきっといい方向にいくさ】


「あっ、すみません、デオンさん。せっかくお話をしてくれているのに――、少し不安になってしまって……」


【いや、いいんだ。それにシア、本当なら君が話をしたかったはずなのに私が時間を奪ってしまったな】


「いいえっ! こうしてお話を聞くことができて本当によかったです。それに、私が話したいことにも関係していることなので頭の中で整理することができますし……」


 デオンさんから侯爵家のことや魔力の話を聞けたことで、話をするときに頭の中にその内容が入りやすくなったと思う。今までは"わからない"、そればかりだったから。


【他にも気になることがあるなら遠慮なく聞いてくれてかまわないぞ。さて、原因もわかったことだし、侯爵が聞きたいのはこの子を治す方法だったな?】


「あぁ。シアの中にある、その――黒魔力、か? それを完全に取り除く方法だ」


【ん? どうしたんだ、トワラ】


 デオンさんの言葉でトワラさんを見てみると、トワラさんはどこか申し訳なさそうに私へと視線を向けていた。


【そのことについてシアに謝らないといけません】


「え? トワラさん、謝るだなんて……」


【あなたの中にある魔力がただの魔物の魔力ではないと気が付きませんでした】


「そんな、トワラさんは薬の中に魔力が混ざっていることを教えてくれました。だからこそ、今こうしてわかったことがあるのですから。なのでトワラさん、私の話を聞いてくれて、協力までしてくれて……ありがとうございました」


【そう言ってもらえると私の気持ちも軽くなります】


 トワラさんがいたからこそ、こうして真相を知る機会ができたのだから。私が感謝をすることであってトワラさんが謝ることなど何もない。


 もしかすると、あのまま気が付くことすらなかった可能性だってある。今日こうしてお父様たちと話をする機会すらも。


「それで、どうしたらいい。浄化だけではだめなのだろう?」


【あぁ、そうだ。トワラが吸収したのは魔物の魔力だからな。完全に吸収できないと感じたのはそれが黒魔力だからだ。黒魔力を完全に無くすには聖獣の力が必要だが、まずは侯爵、お前が少しずつ浄化をすればいいだろう】


「……私にできることはそれだけか?」


【今すぐはな。この子の魔力が回復して聖獣の実体化ができるようになれば聖獣に浄化をしてもらえばいい】


「そうか……」


 お父様は安堵したように小さくため息をついた。


【気を付けないといけないのは一度にやりすぎないということだ。汚染されてすぐに浄化するのとは違い、シアのように長い期間混ざり合った魔力をいきなり分離するのは危険だからな】


「わかった、そうしよう」


「お父様、ありがとうございます」


「シア、これはお礼を言われるようなことではない。……むしろ私もお前に謝らないといけない」


「え……?」


「すまなかった、シア。……私は何も知らなかった、知ろうともしなかった」


「いえ、いいえっ! 違います! そんなことはありません。悪意を持った人の……せいですから……」


 お父様はそれが誰がしたことなのか問い詰めたいはずなのに、今はまだそれをせずにいてくれた。近いうちに話をしないといけない、ということはわかっているがやはり不安でしかたがない。娘が一度死んでいるなんて聞いたらお父様はどう思うのだろう。


【ほぉ、この男も謝罪という言葉を知っていたんだな】


「おいデオン、茶化すな」


【……こほん。さて、他に聞きたいことは?】


 公爵様にジロリと睨まれたデオンさんはすっと顔を背けた。


「聖獣のことだ。侯爵家が聖獣と契約ができなくなったのは、コンフォート家とクローディス家がしてきたことが原因なのだろう?」


【あぁ、そうだ。治癒と浄化を司る聖獣たちが侯爵家のすることを見過ごせるはずはないからな】


「聖獣たちは何もしなかったのか」


【なんだ、聖獣たちのせいだと?】


 デオンさんの低いトーンで聞こえたその言葉でこの場に少しだけ緊張感が漂った。お父様も言葉を間違えたと察したようですぐに言い直した。

 

「いや、そうではない……ただ、まともな侯爵家の人間もいたはずだ。知らせることぐらいはできたはずでは」


【あいつらだって、それができればとっくにしていたさ。侯爵家の人間たちは聖獣に見放されるなど思ってもいなかったんだろうな】


「シア、お前が会ったというその聖獣と今話をすることはできないのか?」

 

「すみません、私はまだ聖獣の気配を感じ取ることはできないんです……」


 さすがにこんなすぐに会話をすることはできない、よね。


【聖獣は循環し始めたシアの魔力を調整することに専念しているので今は会話をすることはできませんよ。シアの体に影響がでてはいけませんからね】


「そうか、聖獣が……」


 お父様はそう小さく呟いた。

 聖獣が身近にいるということにまだ実感ができていないのかもしれない。


【聖獣に関してはここで話すよりも領地へ行くべきなのでは?】

 

 領地、ということはコンフォート家が治めているクラウス領のことだろう。私たちの名前にも入っている"クラウス"とは領地の名だ。


【前当主にでも話を聞いてみることだな。それに、あそこならシアの聖獣も魔力を回復させるのにちょうどいいだろう】


「はぁ……」


 お父様はデオンさんの話を聞きながら難しい表情をしていた。それがどういう意味なのか聞かなくてもわかってしまう。


 お父様がお祖父様たちに会いたくないということを。仲が悪いとかそんな言葉で片付けられないほど関係がこじれてしまっているということを。


 そして、祖父母に私やルカお兄様を会わせたくないということも。


 お会いしたことがないから本当のことはわからないけれど、お母様のことをよく思っていなかったという話は耳に入っている。


 お母様の葬儀にも来てくれないほどなんだもの、お父様が怒るのも理解できてしまう。けど――。


【侯爵、お前の知らなかったことが聞けるかもしれないんだぞ?】


「そうだぞ、レオ。……お前の知らない、聞かされていないことがあるんじゃないか? お前の父親が早々に爵位を渡して引きこもるなんて何か理由があるとのかと思っていたが……そういうことじゃないのか?」


 お祖父様はまだまだお元気だったというのに、お父様の結婚を機に領地へとこもってしまった。結婚を強行したお父様と顔を合わせたくなかったと考えていたけれど……もしかすると別の思いがあったのかも――。


【今日の話で侯爵家がどういうものなのか少しは知ることができただろう。だが、本当のことは侯爵家にしかわからない】


「レオ、会いたくないのは俺でもわかる。けど、お前はシアちゃんたちの父親としても侯爵家の当主としても、一度ご両親に会ってみるべきだ」


「わかっている……だが、あんなやつらに子どもたちを会わせたくない」


「別に無理して合わせる必要はないだろう。連れて行く必要は……いや、聖獣はシアちゃんと一緒にいるんだもんなぁ……それなら話をするのはお前だけで、シアちゃんたちはどこか別のところに泊まってもらってもらうとか――」


 お父様と公爵様で話が進められていく。

 このままだと、お祖父様たちとお会いする機会がなくなってしまうかもしれない。そう考えると、自ずと言葉が出ていた。


「私、会います、会いたいです」


 私がそう話すと、お父様も公爵様も驚いて同時にこちらへと視線を向けた。


連載再開のはずが、久しぶりの更新となってしまい申し訳ありません!

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