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83【お父様たちとの会話】

 お父様と公爵様に今の会話を聞かれていたということに少しだけ怖くなってしまった。


「公爵、今のは以前話していた魔獣の能力か?」


「あぁ、トワラの声だ」


「魔獣の番の名だったな」


「そうだ。トワラは俺の魔獣、デオンの番だ」


「……聞き間違いでなければ、聖獣と言ったか?」


 お父様がトワラさんの方に向かって話しかけた。威圧的な雰囲気ではなく、ありえない話を聞いたような困惑した表情に見える。


 たしかに、いきなり聖獣だなんてお父様も困惑するだろう。コンフォート侯爵家には、もう長い間聖獣と契約するどころかその姿を見ることすらできないでいるのだから。


【えぇ、言いましたよ。聖獣だと】


 トワラさんはっきり聖獣だと言い切った。


「聖獣がここにいる、だと? シア、お前は知っていたのか……? いや、見えているのか……?」

 

 お父様の表情は困惑したまま、声も小さい。


「ここに聖獣がいることは知っていました。でも、今の私には聖獣の姿は見えないんです。ですが、その……一度だけ……会ったことがあります」


 私がそうゆっくり答えると、お父様の握りしめたその手は小さく震えていた。


「なにが今さら……聖獣だと……」


 お父様はそのまま黙ってしまった。その表情からは悲しみが感じとれた。「お父様……?」と声をかけると、ハッとしたようにこちらを見た。


「いや、なんでもない」


 お父様らしくないその姿に、黙ったままの公爵様もどこか様子がおかしく見えた。けれど、その理由を私が今ここで聞いてはいけないような気がして言葉にすることはできなかった。


「いつ、どこで会ったんだ……?」


「え?」


「ここにいるであろう、その聖獣に」


 死んだとき――、と言いかけそうになり慌てて口をつぐんだ。"死んだことがあります"だなんてまだお父様には言えなかった。


 一つずつ話をしないといけないけれど、いきなりその話をするのは難しい。どこから説明をしていけばいいのかと少し悩んでしまった。

 

「言えないのか?」


「いえ、その……夢の、中で……?」


「なぜ疑問系なんだ?」


「それは……」


 歯切れの悪い私に、お父様の探るような視線が突き刺さる。けれど、その視線は"なぜ話をしてくれないのか"と言っているようで責めているものではないとわかる。


「えっと、ですね……」


 話を聞いてほしいと言ったそばからすでに上手く話をすることができないなんて……。お父様に話を聞いて欲しいのに、言葉にすることがこんなにも難しいなんて。


 まずは、今日トワラさんとしていたこと。そうして、なぜそうなったのかを話して――。


 私がどう話を切り出そうかと悩んでいると、公爵様が申し訳なさそうに言葉を発した。


「あー……シアちゃん。話をしようとしているとこ悪いんだけど、まずは場所を移動しないかい?」


「え……?」


「ここでは込み入った話をするにはちょっと適さないと思うんだ。それに、外で心配している人たちもいるからね」


 そう言われて辺りを見渡せば、扉の方のガラスが割れているのが目に入った。そして、公爵様が言った"外で待っている"という言葉からまたトワラさんが結界をはっていてくれたのだろう。大きな音を聞いて、アイシラ様たちが心配しているはずだ。


「レオ、お前もこんなところで立ったまま話をするつもりはないよな? シアちゃんはまだ子どもなんだぞ。お前や息子の体力と同じだと思うなよ」


 そう言われたお父様は少し気まずそうに俯いた。


「すまない」


「え? いいえ、お父様が謝ることではありませんっ! でも、たしかに場所を移動したほうがいいかもしれません。みなさん心配しているかもしれないので……」


「あぁ、わかった」


 そうして、温室の入り口へと向かうとそこには破壊された残骸があちこちに散らばっていた。割れた破片などが危なくないかなと思ったけれど――。


「レオ、シアちゃんが怪我をしないようにしろよ」


「言われなくてもわかっている」


  どうやらお父様が魔力を使って私を守ってくれているようだった。その優しさに頬が緩んでしまう。


「お前な、こんなふうに破壊してそこにシアちゃんがいたらとか考えなかったのか?」


「人の気配がないことは確認済みだ。私がそんな愚かな真似をするわけがないだろ」


「いや、愚かな真似って……公爵家の温室の扉を破壊しておいて何を言ってるんだよ……」


 公爵様は散らばった残骸を避けながら不満そうに話をしている。破壊した本人であるお父様はまったく気にしていないようだ。もちろんこうなった原因は私にある。


「お父様、」


「……わかった、他所ではやらないよう気をつけよう」


「おいっ、公爵家ならいいっていうのか!?」


「…………」


 公爵様の言葉を無視しながらお父様はそのまま行ってしまった。私がそのあとを追いかけて行くと、お父様が先ほどよりもゆっくりと歩いてくれていることに気が付いた。


 もしかして、私の歩く速さに合わせてくれているのかな?


「お父様、ありがとうございます。温室を出る時も――」


「あぁ」


 そしてそのまま歩いていると後ろから公爵様が慌てたように声をかけてきた。


「おい、待て待て待て。そっちは屋敷の方向じゃないぞ!? まさかこのまま帰るつもりか!?」


 そう言われて気が付いた。屋敷から離れていっているということに。お父様は振り返ることなく、短く「そうだ」とだけ返事をした。


「いや、え? 本当に? シアちゃんと話をするんじゃなかったのか!?」


「娘とは帰ってからゆっくり話をするつもりだ」


「うちのトワラも関わっているからこのまま公爵家で話をしていったほうがいいだろ?」


「お前が気になるだけだろ」


 お父様は話しながらも足を止めることはなく、歩きはゆっくりだけれどそのまま行ってしまう。その後を私と公爵様が追う形となっている。


 そこでようやくお父様は立ち止まり振り返った。


「それに、ルカがいない」


「あ――。お兄様、には……」


 お兄様にも聞いてもらいたい。けれど、今のお兄様はどこまで私を受け入れてくれるかわからないから不安だ。


 お父様と公爵様が静かに私を見ている。二人から挟まれるような雰囲気となっていて少し困惑してしまう。


「レオの言うとおり、俺が気になるだけだ。けど、シアちゃんがトワラを頼って行動してしまったことからも魔獣がその場にいた方がいいはずだ」


 確かにトワラさんが一緒にいてくれると心強いし、話をしやすいと思う。それに、私の中にある黒い魔力をどうするかについては魔獣であるトワラさんの話が必要だ。


 少し前まではお父様に話すことができない、だから助けてもらうことはできないと思っていた。けれど今ならお父様が私のために力を貸してくれるとそう思えるから。


「もしお許しいただけるのでしたらトワラさんも一緒にいて欲しいです。その方が信じてもらえるかと……。お兄様にはお父様が判断して話すことにする、でもいいですか?」


「……お前がそうしたいなら」


「ありがとうございます」


 お礼を言うと、お父様は小さく頷いた。


「あぁ、よかったシアちゃん。実はデオンのやつが気になることがあるみたいでね」


「え?」


 デオンさんが……?

 公爵様にそう言われてデオンさんの方を見るとデオンさんも私を見ていた。けれど、感情豊かなクロとは違うデオンさんからは何を考えているのか読みとることはできなかった。


「まぁ、とりあえず案内するよ」


 公爵様にそう言われて私たちは屋敷へと戻ることになった。


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