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8 【シア、九歳】



 コンフォート侯爵家の長女、シア。九歳。

 誰も来ない庭の片隅で一人、悩んでいた。





 「はぁ……どうしよう……」


 あと二ヶ月で、私の十歳の誕生日がきてしまう。もうすぐ誕生日なのに全然嬉しくないし、楽しみじゃない。


 メイドさんたちがこの前話しているのを聞いてしまった。


"シアお嬢様、大丈夫なのかしら? もうすぐ十歳でしょう?"


"いやぁ、誰も言えないだけでもう諦めてるんじゃない?"


"でも、お披露目パーティー、なのよね?"


 こんな話をしていたの。


 大丈夫なのかって? そんなの全然大丈夫じゃないよ。諦めてるって……誰が? 何を?


 今年の私の誕生日は、たくさんの人たちを招待してパーティーをするんだって。


 私の"お披露目"だからって。


 でも、まだ私……"発現"していないのに。


 お兄様が言ってた。侯爵家の子供は必ず十歳までに能力が発現するということを。侯爵家特有の、癒しの力が使えるように覚醒するんだって。


"お前はいつになったら発現するんだ?"


 お兄様に会うと、いつもこればかり。そんなの私が知りたいよ。


 お兄様は自分が七歳で発現したから、いつまでたっても発現しない私のことが気に入らないんだと思う。


 私だって、早く発現したい。


 私だって侯爵家の人間なんだもの。


 だから、何かコツみたいなものがないのかなぁと思って聞いてみたんだけど……。


"人に聞くな"


 そう言って、お兄様に睨まれてしまった。


"こんな簡単なこともできないのか"


 できないから聞いているのに。自分が魔法を使えるからってひどいよ!


 庭で体を動かしてみたり、何か感じ取れないか考えて集中してみたけれど——。

 昨日と同じようにやっぱり今日も何も起こらなかった。どうしよう? もう時間がない。


 どうして私は、お父様やお兄様みたいに発現しないの……? 私のなにがいけないの?


 部屋に戻りたくない……。


 はぁ。


 庭の砂を木の枝でいじりながらため息をつく。薄い茶色の砂はまるで私の髪色と同じだな、なんて思ってしまう。


 お父様とお兄様は青みがかった綺麗な銀髪なのに。私のこの髪色は好きだけれど、どうしても髪色が違うから能力もないのかなと考えてしまう。


 私はまたため息をつき、誰にも聞いてもらえない悩みを抱えながら部屋へと戻った。






 ——後日。


「娘の様子はどうだ?」


 侯爵家の当主が三週間ぶりに帰宅して発した一言目がそれだった。


「はい、シアお嬢様は今日も元気に庭を走り回っておりましたよ。外で遊ぶのがお好きみたいで、午後からは——」


「そんな話が聞きたいのではない」


 侯爵は執事の言葉を遮った。


「……何もお変わりはありません」


 それを聞いた侯爵はため息をついたあと、何かを考え込む。


「——今週末のパーティーは中止だ」


「中止ですか!? ですが、もう三日後です! 遠方からお越しになる方もいらっしゃいますし……」

  

 執事は突然の中止という言葉にひどく驚いた。

 それがどれだけ大変なことか考えただけで頭が痛くなる。


「大勢の前で恥をかけと? 中止にする方がましだろう。あの子の体調が良くないとでも言っておけばいい」


「いえ、それは……。ですが、シアお嬢様は」


 侯爵は執事を睨んだ。


「私はまた明日からしばらくここへは戻らない」


「……かしこまりました」


 侯爵はそのまま子供たちに会うことなく執務室へと行ってしまった。






「シアお嬢様、週末に予定していたパーティーが中止になりました。ですので代わりに授業が追加されております。後程ご確認下さい」


「あ、うん……。確認するね……」


 そうして私の十歳の誕生日を祝うパーティーはあっけなく中止になった。

 結局私は、誕生日を過ぎても能力が発現することはなかった。


 誕生日はお父様にもお兄様にも祝ってもらうことはなかった。


"おめでとう"の一言も。


 メイドさんたちが、パティシエが作ってくれたケーキを持ってきてくれたけれど、"祝ってもいいのかしら"と言っていたのを知っている。


 私を気遣ってのことか、お父様に叱られないかの心配なのかは私には分からない。


 けれど、この日を境に周りの人たちが少しずつ私から離れていったのは嫌でも分かった。


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