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77【穢れた黒い魔力①】


 私が今いるのはトワラさんと初めて出会ったあの温室だ。

 トワラさんに私の魔力を見てもらうためだ。


 どうやって二人になれるようにしてもらうのかなと心配したけれど、トワラさんはまさかの直球だった。


【アイシラ、今からシアを温室へ連れて行きます。とても大事なことなのです】


 ロゼリア様とユーシスには聞こえていないようで、一瞬ぽかんとした。


 アイシラ様は「そうね、夕食に間に合わなくなってしまうといけないわね」と言って、何も聞かずにトワラさんとここから離れることを許してくれた。


 ユーシスやクロが付いて来てしまったらどうしようかと思ったけれど、そのような心配は必要なかった。


【ではシア、始めましょう】


 トワラさんはまっすぐにこちらを見て立っている。すぐにでも始めてくれる様子だ。けれどまだ心の準備……もだけれど、今から自分がどうなるのか不安だった。


 何をどうするのか、そもそもそう言った話をしていない。


「あの、トワラさん……私は何をすればいいのでしょうか?」


 痛いのかな? とか、トワラさんの体に負担はないのかな? と心配になる。


【シアはただそこにいてくれればいいのです。痛くはありませんが少し苦しく感じるかもしれません】


「私は大丈夫です。それとトワラさんには――」


【私への負担はありませんので心配いりません】


「本当ですか……?」


【はい、魔力を使うだけですから】


 トワラさんが大丈夫だと言うのならそれを信じよう。少しくらい苦しくても私は大丈夫。力を取り戻すためならそれくらい我慢できる。死ぬ時に飲んだ毒より苦しいことなんてきっとないはずだ。


【では、始めます。驚かないでくださいね】


「は、はい。よろしくお願いします」


 そうして私が立っている場所を中心に魔法陣が現れた。それを見て私は少し驚いてしまった。魔法陣の色が黒かったからだ。


「え、あ……」


 少しだけ怖くなってしまう。今まで見てきた魔法陣に黒色はなかったから……。


【大丈夫です、落ち着いて】


「……うっ」


 急に体全体が不快感に襲われた。この不快感をどう表現したらいいのだろう? 全身の血管を何かが這っているような、異物を流し込まれているような……。


 私はその場に立っていることができずに地面へと膝がついてしまった。手をついて前屈みになる。


【シア、大丈夫ですか】


「……うぅ、……くっ」


 大丈夫です、と言葉にできずに頭を上下に振って意思表示をする。言葉を発すると口から何かが出てきそうで口を開くことができなかった。


【思っていた以上に良くないですね。もう少しだけ我慢できますか?】


 頭を振って大丈夫だとトワラさんに伝える。それと同時に魔法陣の光が強くなる。ばちばちと電気のような黒色の光。最初は少し怖かったけれど、トワラさんの魔力はとても温かかった。


 不快感が強くなっていく。気持ち悪い、吐きそうだ。


【シアの身体に根付いている黒い魔力を取り出したいのですが、なかなかうまくいきません】


 トワラさんが説明をしてくれるけれど、私は口から出そうになっている何かを我慢するので精一杯だった。


【もう少しです、頑張ってください】


 何を頑張ればいい……?

 気持ち悪い、苦しい、苦しい――。


 まずい、出そう……。


【シア、我慢せずに吐き出してください】


「………っ!?」


 え、吐き出す、って何を……!?


【大丈夫です。さぁ】


 待って、トワラさん! さぁ、と言われましても……! 

 吐くということに抵抗があるため、吐き出せと言われてそう簡単に人前でできるものではない。


 けれど、あまりの不快感と気持ちの悪さに我慢することなどできる訳もなく――。

 

 小さく咳き込んだ拍子に吐いてしまった。誰かの前で吐いてしまったことに恥ずかしさを感じてしまう。


【シア、うまく吐き出すことができましたね】


 え? と思い、恐る恐る吐き出したものを見てみると想像していたものとは違った。あまりにも違った。


 胃から出たものではない。


「いっ、え、こ、これ、これは……」


 目の前のものを見てひどく動揺してしまう。


【シアの中にある穢れたもの――黒い魔力を吸い出した時に残ったかすのようなものです】


 それは真っ黒く、異様なものだった。こんなものを吐き出したのかと、体が震える。


【シア、すみません。先に説明をするべきでした】


「い、いえ……」


【体調は大丈夫ですか?】


「はい、大丈夫です。あの……これで終わった……のでしょうか?」


【とりあえず今日のところは、ですが。残念ながら、思った以上に良くない状態だったので、あと二回ほど同じことをする必要があります】


「トワラさん、本当に……ありがとうございます」


 小さな一歩かもしれないけれど、前へ進めていることが嬉しくて涙が溢れた。


【シア、お礼を言うのはまだ早いですよ。一度で終わらせることができず申し訳ないです。私の魔力を受け続けるにはあなたの体が持ちませんから、今日できるのはこれが限界のようです】


 もちろん、そんな簡単なことだとは思っていなかったからここまでしてくれたトワラさんにはただただ感謝しかない。


「いえ、本当にありがとうございます。トワラさんも体調は大丈夫ですか?」


【はい、むしろ気分が良いですから】


「それはよかったです」


【シア、何か変わったところはありますか?】

 

「変わったところ……違和感といいますか、全身を血が流れているような感覚があるというか……そう感じるかも、という程度の違いですが……」


【それなら大丈夫そうですね。固まっていた魔力が少しずつ動き出したのでしょう。あと二回もすれば、魔力の循環もよくなるはずです。そうすれば魔法が使えるようになると思いますよ】


「え、ほ、本当ですか!?」


【えぇ。魔力の使い方を習った方がいいですね。それは侯爵家で可能ですか?】


 そう言われて考えてしまう。以前は魔法の授業が途中でなくなってしまった。


 今はまだ能力の発現どころか、魔力を感じられないから魔力を使うという授業はないし、そう言った話を聞かない。

 

 きっと、無意識に避けている話なんだろう。


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