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誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る  作者: 水瀬月/月
第二章 二度目の人生

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63【魔獣】

——結界が消滅する前。



◆◆◆



 案内をしてくれていたメイドとはぐれてしまったため、私はそのまま一人で温室へと向かった。


 出入り口から中の様子を伺ってみたけれど人の気配はなさそうだった。


 ロゼリア様が言っていたから入っても大丈夫だよね……?


 中へと入り上を見てみると一面がガラス張りとなっていてどうやって支えているのかとても不思議な構造になっていた。


 外から見た時よりも、中に入ってみるとさらに大きく見えた。天井は高く、陽の光がとても心地良い。


 周りにはたくさんの見たことのない花があり、つい見惚れてしまう。


「綺麗なお花……」


 花を見ているといきなり背後からガサッという音が聞こえ、驚いて尻餅をついてしまった。


「いたた……」


 なんだろう、と音のした方を見てみると、何かがすごい勢いでこちらへと向かっていた。


「き、」


 悲鳴を上げるよりも早く、その何かが私へと飛び付いた。


 その何かは私の顔をペロペロと舐めてはなぜか嬉しそうにはしゃいでいた。ゆっくりと持ち上げて見てみると――。


「い、犬……?」


 少し硬い灰色の毛並みに、所々艶のある黒い毛が混じっている可愛らしい子犬だった。多分、犬……のはず。


 ゆっくり地面にとおろすと、私と目が合った犬らしき動物は目をキラキラと輝かせながらまた私へと飛び付いた。


「ちょ、まって……! あははっ、くすぐったいわ」


 人懐っこくて可愛い子犬を撫でてあげると気持ちよさそうにしていた。


「うーん、わんちゃんはこのお家で飼われているのかな?」


 なんてね、ここにいるのだから公爵家と無関係なわけないよね。


「きゃぅ?」


 子犬は不思議そうに首を傾げた。うん、可愛い。


「ふふ、私の言うことがわかるわけないよね」


 立ち上がり歩き出そうとすると子犬が私から離れようとせず、足元にいるので踏んでしまっては大変なので抱っこをすると大人しく腕の中へ収まった。


 そのまま温室の奥へと進んでいくと、イスやテーブルなどが置かれている開けた場所へと出た。


 ゆっくり休憩ができそうな場所だった。


 少し大きめのクッションが隅に置いてあるのがふと視界に入った。そのクッションの上にはもふもふした丸まった何かがいた。


「あ……」


 そのもふもふがむくりと頭を起こした。


「………!?」


 よく見るとお腹の大きな黒い犬だった。


 黒い犬と目が合ってしまった。

 そして黒い犬は私が抱きかかえている子犬を見た。


 あ、これはまずいかも……。

 この子犬のお母さんなんだと直感した。


「ごめんなさいっ、決してこの子に危害を加えようとかではなくて……」


 そのまま子犬をゆっくりとおろした。

 けれど、子犬は悲しそうに必死に鳴いて足にすり寄ってくる。


「ごめんね、早くお母さんのところにいかないと」


「きゃぅ、きゃぅ、」


 必死にすり寄ってくる子犬に、なんだか悪いことをしている気分になってしまう。抱っこして、慰めてあげたい気持ちに。


 母親と思わしき黒い犬はそこから動かずにじっとこちらを見ていた。尻尾をタン、タン……と動かしながら。

 

 も、もしかしてあれは怒っているのでは?

 絶対そうよね!?


 刺激をしないようにゆっくり後ずさるが、子犬も一緒についてきてしまう。


「ど、どうしよう……」


 このまま急いで温室を出ようかとも考えたけれど、子犬は外までついてきそうな勢いだし、いきなり大きな音を出したり走り出してはお腹の大きな黒い犬が驚いてしまうだろう。


「よし、」


 私は思い切って、子犬を抱きかかえた。

 嬉しそうに私の手をぺろぺろと舐めている。


 そしてゆっくりと黒い犬の元へと足を進めた。


 唸ることもなく、威嚇はされていないようだ。

 少し手前でゆっくりとまた子犬をおろした。


「あの、ごめんなさい」


 私の言葉がわかる訳はないけれど、せめて気持ちだけでも伝わればいいな。


【大丈夫です】


 ……ん?

 今何か聞こえたような……?


「気のせいよね……」


 ふぅ、と息を吐きながら立ち上がる。


【あら……?】


 聞こえた! 絶対聞こえた!

 不思議な声が!


「だ、誰かいるのですか!?」


 少し恐怖を感じながら周りを見てみるが誰もいない。

 ま、まさか……ゆ、ゆう……れ――。


【目の前ですよ】


 目の前って……。

 私の目の前には大きな黒い犬と子犬しかいない。


 いや……まさか、ね?


 黒い犬と目が合う。

 私を探るようにじっと見つめたままだ。


 その雰囲気に圧倒されてしまい、私はその場にぺたりと座り込んでしまった。


 その隙にと言わんばかりに子犬が私の膝の上にすかさずのった。しっぽをぶんぶんと左右に振っていてとても可愛らしい。


 撫で回したいところだけれど今はそれどころではない。


「い、い、犬がしゃべ………」


【犬ではありません。人間からは魔獣と呼ばれています】


「ま、魔獣……!?」


 魔獣って、話せるの!? 知らなかった……。

 それにしても不思議な聞こえ方だ。


【心の中で会話をしているからでしょう。もちろん、あなたは普通に話しても大丈夫ですよ。これができる魔獣は私たち以外にはあまりいませんが】

 

「心の中で会話ができるんですか!? 魔獣ってすごいですね……」


【正しくは心の中というよりも私たちの能力の一つ、ですね。それにしてもなぜ驚いたのですか? あなたには聖獣がいるでしょう】


「え、?」


【あなたの聖獣とは会話をすることができないのですか?】


「あ、あの、ちょっと待ってください。私は聖獣と契約しておりません。それどころか私は魔法も使えませんし……」


【契約をしていない……? 肩にのっているその子はあなたとすでに繋がっているように見えますが】


「はい……?」


 え、肩?

 私の肩に何か憑いているの!?

 急に寒気がして鳥肌が立ってしまった。


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