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60【フィペリオン公爵家】

 

 エドワードの手を借りて起こしてもらい、ドレスについた埃を手で払った。エドワードは「いいえ〜」と目を細めて笑っているが、やはりその表情はどこか胡散臭い。


 先ほど助けてくれた女性のところへお礼をしに行きたいけれど、この姿のままではかえって失礼になってしまうから着替えてきたほうがいいだろう。


「お兄様、少し席をはずしますね」


 その場を離れようとした時、光の糸が私の周りをくるくると包み込んだ。ドレスについた血も汚れも消え、あっという間に元の綺麗な状態になっていた。


「あ、ありがとうございます。お兄様」


 そうお礼を言うと、お兄様は「あぁ」と小さく呟きそのまま行ってしまった。


「ちょ、公子様〜。待って下さいよ〜」


 エドワードはわざとらしく私に一礼すると、急いでお兄様の後を追って行った。


 女性を探すため辺りを見渡してみるとすぐに見つけることができた。そこには私のお父様もおり、そのせいかその場の雰囲気は他とは違って見えた。


 あそこに行くのは少し――、かなり気が引ける。


 息を整えながらゆっくりとお父様たちのところへ行くと、一人の男性が私に気が付いた。


「おや?」


 この場にいる人たちに丁寧に挨拶をし、お父様には先ほど助けてくれた女性にお礼を言う為にここへ来たのだと伝えた。


「まぁ、私に会いに来てくれたのですか?」


「はい、お礼がしたくて……。改めまして、私はコンフォート侯爵家のシアと申します。先ほどはありがとうございました」

 

 慣れないドレスでたどたどしく挨拶をする私に、女性は「まぁっ」と目を細めて微笑んでくれた。


「いいえ、大丈夫ですよ。私はフィペリオン公爵家のロゼリアと申します」

 

 えっ、えぇ!?

 フ、フィペリオン、公爵家……!?

 それならこの方は公女様のはずだ。


「公女様、申し訳ありません、私っ……」


 どうしよう、公爵家の方だったなんて!


「シア様、気にしないで下さい。同じ六家なんですもの、爵位は関係ありませんよ。それと、私のことは公女ではなく名前で呼んでいただけると嬉しいです。ロゼ、と呼んでもらえると嬉しいわ」


 ふわりと微笑んだ笑顔がとても素敵だった。


「あのっ、ロゼ、リア様、正式にお礼をさせていただきたいのですが……」

 

 さすがにいきなり愛称で呼ぶ勇気はないから、ロゼリア様とお呼びすればいいかな?


「シア様、本当に気にしなくて大丈……」


 ロゼリア様がそう言いかけたところで一人の男性がひょっこりと現れた。


「……!?」


「ロゼリア、ここまで言ってくれているのだから断ったら可哀想ではないか」


「あら、お父様!」


 お父様!? ということはこの方がフィペリオン公爵様なのね。


「いや〜、近くで見るとますます侯爵夫人にそっくりだね」


「え……?」


 侯爵夫人ってことは私のお母様のことだよね……?


「うんうん、ここまでそっくりだと侯爵が表に出さないのも納得できるね」


 公爵様は私の顔を興味深そうに見ている。

 たしかに私とお母様はそっくりだけど……。


「勝手なことを言うな」


 それはお父様の声だった。

 こちらのことを気にしていないと思ったけれど、公爵様が話しかけてきたことで会話に耳を傾けていたようだ。


「これだけ可愛いければ心配で外に出したくないのもわかるな。それにしても本当にお前は娘のことを何も教えてくれないな」


「あ……」


 それはお父様が私に興味がないだけで、決して公爵様が考えているような理由ではない。


「お前には関係ないだろう……」


 お父様はため息をつく。

 仲が良さそうに見えるけれど、お友達なのかな?

 公爵様にお前って言えるなんて。


「お父様、シア様がぽかんとしてしまってますよ」


「ん? あぁ、すまない。それでだ、シアさんはお礼をしたいと言ってくれているのだろう? ならその代わりにシアさんを我が公爵家に招待するというのはどうだい?」


「まぁ、それはいいですね!」


「あぁ、そうだろう!」


「お父様、せっかくなのでシア様と……」


 公爵様とロゼリア様はなんだか楽しそうに二人で話を進めてしまっている。

 私がお礼をしたいはずなのにどうして私が招待される側になっているんだろう……?


「断る」


 そう言ったのはお父様だった。

 楽しそうに話していた二人の会話がピタリと止まった。


「なぜだ?」


 公爵様は不満そうにお父様を見ており、ロゼリア様は少し気まずそうにしている。


「娘はまだ八歳だ」


「歳なんて関係ないだろう」


「ダメだ」


「お前な……」


 やっぱりお父様は私を外に出すのが恥ずかしいのかな。

 六家なのにこの歳でまだ魔法が使えないんだもの……。


 一人で勝手に落ち込んでいる私を見て公爵様は不憫そうな表情を浮かべた。

 公爵様は私に聞こえないよう、何かをお父様に耳打ちをした。



「レオ、お前な……それは過保護か? 娘が周りからなんて言われているのか気付いていないのか?」


「……関係ないだろう」


「私の妻が心配している。この子のことを少しは考えろ。先ほどあのような事が起きたのはお前に責任があるはずだ」


「………」


「まぁなんだ……とりあえず、まずは外に出せ。いつまでずっと家から出さないつもりだ?」


「それは……」



 お父様と公爵様が話をしている間、お父様はとても機嫌が悪そうに見えたり、どこか気まずそうにも見えた。


 そんなお父様の表情を見て心配していると、公爵様がぱっとお父様から離れてにっこりと微笑んだ。


「ということで、決まりだな。まさか公爵家の招待を断ったりしないだろう?」


「……ちっ、わかった」


 お、お父様……? 今舌打ちしませんでした?


「わぁっ、それでは後日正式に招待状を送りますねっ」


 ロゼリア様はお父様の舌打ちに気が付いていないのか、嬉しそにしている。


「ふふ、母があなたにずっと会いたがっていたんですよ。今日は体調が優れずパーティーに来られなかったんです。とても残念そうにしていました」


 公爵夫人がどうして私に会いたいんだろう。

 不思議そうにしている私にロゼリア様は微笑んだ。


「私の母と、シア様のお母様はお友だちだったんですよ」


「えっ、そうなんですか?」


 お母様が公爵夫人と友人だったなんて知らなかった。


「まだ侯爵夫人……クレア様がお元気だった頃、お会いしたこともあるんですよ? シア様はまだ幼かったので覚えていないと思いますが……」


 クレアは私のお母様の名前だ。

 八歳の今よりも幼い年齢だといつのことだろう?


「弟もまたあなたと遊びたいって言っていたので、我が家に遊びにきてもらえると喜びますわ」


「え……? あ……」


 どうしてすぐに結び付かなかったんだろう。

 フィペリオン公爵家、ユーシスのことを。


 泣いていた私に魔獣を見せてくれた優しい男の子は――。

 皇子と皇室の騎士団から私を庇ってくれた男性は――。


 ユーシスはロゼリア様の弟だ。


「ユーシス……」


「まぁっ、もしかしてユーシスのことを覚えていますか?」


 口からこぼれた名前に、ロゼリア様が嬉しそうに微笑んだ。


「あ、いえ、その……すみません、あまり覚えていなくて……」


 私がユーシスのことを認識したのはソフィアの誕生日パーティーからだ。

 だからそれより前の、今の年齢でのことは覚えていない……。


 幼い子どもの頃の記憶を覚えていないのは仕方のないことかもしれないけれど、ユーシスは覚えていてくれて声を掛けてくれたのに。


「あ……シア様、大丈夫ですよ。覚えていなくても仕方ないですわ。だって弟がシア様の後をくっついていただけですもの。ふふ、招待の日を楽しみにしていますね」


 ロゼリア様は少し寂しそうな表情をしたけれど、すぐに優しく微笑んでくれた。


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