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59【時間が遡る前のルカとエドワード】※視点変更

「公子様は先ほどの件、どのように思われます? 本当にシアお嬢様がフレイア様を階段から突き落としたとお考えで?」


 エドワードはルカへと聞く。


「なんだと?」


「シアお嬢様に一言ぐらい声をかけてあげてもよかったのではないですか? 公子様ってばそのまま行っちゃうんですもん。お嬢様かわいそう〜」


「なぜ俺がそんなことを……」


「では、あのメイドの言う通りシアお嬢様が原因だとお考えなのですか?」


「あいつは……」


 ルカは学園の授業で使っている教科書を眺めながら黙り込む。


「そんなことをしでかすようなバカではない。それに、突き落としたと証言したのはあの女が連れてきたメイドだろう?」


「そうですね。下働きを含めれば何人もこの屋敷に入り込んでますね」


"本当、目障りだ"とエドワードはぼそりと呟いた。


「"奥様"……か。メイドはあの女のことをそう呼んでいたな。この屋敷で奥様などと呼ぶとはな」


「相当図太いんでしょうね?」


「まぁ、時間の問題だろうが――。あの女が目を覚まして何を言うか楽しみだ」


「ははっ! たしかに楽しみですね。なぜ無実のお嬢様に罪を着せるのか。ほとんど本邸に来ないお嬢様と、離れにいるはずのフレイア様とその娘のソフィア様。三人がたまたまあの時だけ集まるなんておもしろいですね〜?」


 エドワードはシアのことをはっきり無実だと言い切った。

 それはルカにとって少し意外なことだった。


「お前はあいつ……シアのことが嫌いなんじゃなかったのか?」


 エドワードは「はい?」とポカンとする。

"何を言ってるんだこの人は?"という表情を隠そうともしない。


「別に嫌いではないですよ。好きでもないですけどね? どうして私がお嬢様のことを嫌いだなんて思ったんです?」


「はっきり言うな……。一応あいつだって侯爵家の人間だぞ。エドワード、お前あの時嫌味を言っていただろう?」


「あの時……?」


「シアが……十歳をすぎて何ヶ月か経った頃だったか、庭で会っただろう? その時だ」


 エドワードはルカが一体いつのことを言っているのか分からなかったが、「あぁ!」とエドワードは思い出した。


「あぁ〜! ありましたね、そんなこと。でもあの頃は公子様の方がよっぽど態度が悪かったと記憶していますが」


「な、なんだと!? いや、あの時は……。くそっ」


「ほら態度が悪い。侯爵家の後継者なのですからもう少しその態度はなんとかなりませんかね」


「まずお前が俺に対する態度を直せ」


「無理ですね」


 エドワードのこの態度は今後も変わらないと確信している為諦めた方がいいだろう。


「はぁ……。あの時お前は何であんな事を言ったんだ?」


「あぁ、あれですか? つい嫌味が」


 エドワードは悪びれる様子もなくけろりと言った。


「はぁ……」


 ルカはエドワードの態度に再度ため息をついた。


「お前な、大人げないぞ? 子ども相手に何をしているんだ……」


「そうなんですが……あの時は私がお仕えする公子様が日々寝る間も惜しんで勉学に勤しんでいる中、シアお嬢様は当時十歳になるというのに幼学部レベルの計算すら出来ていなかったのですよ?」


 ルカがピクリと反応をみせる。


「六家ならば当然、相応以上が求められます。それでつい、嫌味を言ってしまったのです。今思えば確かに大人気ない言動でした。シアお嬢様の処遇を考えればあのような事を言うべきではありませんでした。申し訳ありません」


 そう言ってエドワードは深々と頭を下げた。


「いや、ちょっと待て」


 エドワードがめずらしく真面目に謝罪をしているが今はそんなことはどうでもいい。

 ルカがエドワードの顔を真剣な表情で見る。


「あの、公子様? そんなに見つめられては……」


「シアが、あいつが幼学部の計算すらできないだと?」


「あぁ、はい。そうみたいですよ? たまたまシアお嬢様の教師の方をお見かけしまして。かなり苛ついたご様子でしたのでお話を聞いてみたんです。課題を見せてもらったのですがほとんど真っ白でしたね。簡単な問題も解けなかったようです」  


 ガタン、と音を立ててルカが椅子から立ち上がった。


「…………」


「いかにシアお嬢様の出来が悪いか、教師の方は顔を真っ赤にさせてそれはそれは必死に仰ってましたよ。教えることなどできない、と」


「…………」


 ルカは無言だ。


「あー、公子様? シアお嬢様の頭の出来、いえ、勉強の進み具合を聞いてショックかもしれませんが、別に公子様が気にすること……」


「ありえない」


 ルカがエドワードの言葉を遮った。


「はい? ありえない、とは?」


 エドワードはルカが何を言いたいのかよくわからない。


「あいつは、計算だけは得意だったはずだ……」


「計算が得意? シアお嬢様がですか? 一体いつの話をしているのです?」 


「たしか、五歳の頃だ」


「五歳って……公子様、そんなに小さい時では計算が得意も何もないのでは? 当時五歳にしては少しぐらい出来たかもしれませんが、現に今は……」


「いや……」


「公子様?」


 ルカは当時のことを思い出して暗い表情になる。


「恥を承知で言うが、あの時の俺はあいつに嫉妬していた」


「はい? 急に何を……」


「シアは五歳にして学園への入試問題を難なく解いてみせた」


「いや、入試問題って……そのレベルは十四歳ですよ?」


「そうだ。当時の俺でもまだ解けなかったのに」


「はぁ〜、本当ですか? あの学園の入試問題なら一般の学校の十四歳とはそもそものレベルが違うのですよ?」


「そうだ、だから認めたくなかったんだ……」


「公子様。それで何の罪もない小さな女の子に八つ当たりをしてきたんですか? 最低ですね。……でも、それは私もですね」


「だから恥を承知で、と言っただろう! それにあの時は母様が……。な、何でもない! というよりお前に言われたくない!」


 ルカは顔を赤くしている。


「まぁ、私もひどいことを言ってしまったので……ですが、それが本当ならなぜシアお嬢様の勉強の進みが遅いのでしょう? 他の教科は分かりませんが……」


 なぜ、計算が得意だったシアの出来が悪いと言われているのか。


 シアの家庭教師は誰なのか? 

 何の教科を勉強をしているのか?


 ……まともに教えてもらえているのだろうか。


 全く見当がつかない程、ここ何年も妹への関心が無さ過ぎたことを今更ながらにルカは自覚した。


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