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56【お兄様のお誕生日パーティー②】


 特に何もなく、ただ時間が過ぎていった。子どもの私には誰も興味がないのだろう。だから、このまま終わるまで大人しくしていればいい。


 そう思っていたのに――。


「お前が侯爵家の娘か?」


「あいつと似てつまんなそうな顔してるな」


 いきなり話しかけられて驚いた。

 私に話しかけてきたのは二人の男の子だった。

 お兄様と同じぐらいの歳だろうか。


 このパーティーに参加しているということはそれなりの貴族の子息なんだろう。


 けれど、その態度は嫌なものだった。


 こういうのは無視をするのが一番だ。

 私は今まで散々嫌な目にあってきた。


 だから分かる。


 この二人は私のことを馬鹿にしていると。

 意地悪をしたいんだと。


「……………」


 私は二人を無視してその場を離れた。


「あ、おいっ!」


 二人の男の子は私の後をついてくる。


「無視するなよっ」


 前にもあったな、こういうの……。

 無視をされて腹が立ち、後に引けなくなるあれだ。


 私は立ち止まり、ふぅ……と息を吐く。


「私に何かご用でしょうか?」


 私はにっこりと微笑みながら余裕そうに話す。

 けれど、内心はとても怖いのだ。


 でも、それを相手に悟られてはいけない。

 相手はまだ子どもだ、大丈夫。それにここは学園ではないのだから。


「招待客を無視するとはいい度胸だなっ!」


「そうだ! そうだ!」


「おれたちのこと、ちゃんともてなせ!」


 あ、これは関わってはいけないことだとすぐにわかった。相手をしてはいけないと。


「……あの……申し訳ございませんが、私は失礼させていただきます」


 くるりと背を向けその場を離れようとしたけれど、そうはさせてくれないのが子どもの怖いところだ。


 だって、限度というものを知らないから。


 一人の男の子が私の腕を強く掴んだ。


「………いっ」


 痛い!


「は、離してください、痛いです」


 涙目になりながら二人を睨む。

 けれど、八歳の少女の睨みなど効果はない。


「なんで逃げるんだよ?」


「そうだそうだ! 可哀想なお前の相手をしてやろうと思ったんだぞ?」


「けっこうです。離してください!」


 相手の腕を掴んで離そうとするけれどできなかった。私にそんな力はない。


「父上が言ってたんだ。お前は侯爵家で誰にも相手にされないかわいそうな奴だって!」


「兄と違ってまだ魔法が使えないんだろ?」


「なんで……な、何を言って……」


 この二人は何を言っているの?


「侯爵様に見放された娘の機嫌はとらなくていいって父上が言ってたけど、お前の冷たい兄と違って俺たちは優しいからな!」


「そうそう! あいつ、俺たちのこと見下しててムカつくんだよなぁ」


「さっきだってわざわざ挨拶しに行ってやったのに無視しやがって!」


「なにが公子様だよ! すました顔しやがって腹立つ!」


 あぁ、この二人はお兄様に対する苛立ちを私で解消しようとしてるんだ。お兄様には敵わないから、それなら妹をって……? 馬鹿なのかしら。


 二人の男の子は私そっちのけでお兄様の悪口を言い合い盛り上がっている。


 今日はお兄様の誕生日パーティーだというのに。


「なぁ、お前もそう思うだろ?」


「………? 何がですか?」


「なんだよ、聞いてなかったのかよ。だからあいつ、ルカって生意気だよなって話!」


「……生意気って、何がですか?」


「だーかーらー! あいつさ、公子様〜なんて呼ばれて調子に乗ってるからさ。たまたま侯爵家に生まれて運が良かっただけだろ?」


「なのに何が公子様だよ。あいつが何かしたわけでもないのになぁ〜」


 ……運が良い?

 ……何かしたわけでもない?


 お兄様がどれだけ毎日努力をしているか。

 寝る時間も惜しんで勉強も、魔力の使い方も頑張っている。


 何も知らないくせに。


「あ、謝って下さい」


「え?」


「お兄様に、謝って下さい。お兄様が……毎日どれだけ頑張ってるか知らないくせに!」


「な、なんだよ? お前だって比べられて嫌なんだろ? みんなそう言ってるぞ!」


「比べる? 何を……? みんなって、誰ですか? 教えて下さい、誰がそんなことを言っているのですか?」


「いや、それは……み、みんなはみんなだよ! なんだよ!」


"みんなが言っている"


 よく使われる便利な言葉。

 曖昧なことでも、さもそうなんだと思わせる。


 私は掴まれたままだった腕をバシッと払い除けた。ありったけの力を込めて。


 力が緩んでいたため掴まれていた手は離れた。


「いたっ!」


 男の子は涙目になっている。

 自分より年下の女の子の力なんてたかが知れているのに大袈裟に痛がる。


 叩いたわけでもないのに。


 こういう貴族の子どもは自分が傷つけられることなんて今までなかったんだろう。


「なにすんだよ!」


「掴んで離さなかったのはそっちじゃない!」


 相手が子だもだったせいなのか、十八年間生きてきたおかげなのか。


 最初は怖いと思っていたのに、私ってこんな風に言えたんだ。ちゃんと、言えるんだ。


「年下のくせに生意気だな! あいつとそっくりだ!」


「年下とかお兄様とか、関係ないわ!」


「なんだよ!」


 私はキッと睨む。

 いつの間にか大きな声になっていたせいか、近くにいた人が心配そうにチラチラと見ている。


 あ、やってしまった……!

 これ以上騒いでパーティーを台無しにしてはいけない。それこそお父様にもお兄様にも嫌われてしまう。



「はぁ……」


「なまいきだぞ!」


 落ち着く為についたため息が、相手に誤解を与えてしまった。


「私はもう行きます。これ以上、騒ぎを起こしたくないですから」


「………っ!」


 男の子の顔は真っ赤になっていた。

 年下の女の子にこんな対応をされたことなんて一度もないのだろう。


 私も大人気なかったとは思うけれど、お兄様を侮辱されて笑って聞き流すことなんてできなかった。


 このまま解散すれば、ただ子ども同士がちょっと騒いでいただけ。他の貴族たちという目がある中、さすがにこれ以上この場で騒ぐほど馬鹿ではないはずだ。


 貴族には体面というものがあるから。


 そう思っていたのに。


 相手はまだ体裁すら繕うことのできない子どもだった。


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