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53【サラへの聴き取り③】



「サラ、あなたは今まで通りここで働いて欲しいの。そして私にその薬を飲ませているふりをして」


「お、お嬢様……」


「今はそれが一番いいの」


「あ、ありがとうございますっ、私はもう二度とお嬢様を裏切るようなことはしません!」


 サラが安心したように、安堵から表情が柔らかくなった。それとは反対にリリーの表情は不安そうだ。


「サラ、私が毒を飲んでいるフリをする間は子供はその施設にいてもらうことになるけど大丈夫かしら……?」


「は、はい、大丈夫です。その方が危険はないんですよね……?」


「うん、だから私に知られてしまったことを誰にも気付かれないようにしないといけない。もしかすると、他にもその男と接触している人がこの侯爵家にいるかもしれないし……」


「は、はい」


「もし知られてしまえばあなたも子供も命の保証はない。かならず口封じされるわ、これは確信」


「そんなっ……」


「大丈夫、そんなことにはさせないから。だから、サラも……どうかもう私を裏切らないで」


「絶対に、二度とお嬢様と奥様を裏切るようなことはしません……!」


「うん、約束よ?」


「はい、ありがとうございます……お嬢様」


「サラ、まだ聞きたいことがあるけどいいかしら?」


「もちろんです、なんでも聞いてください!」


 落ち着いて話をするため、リリーにお茶を入れ直してもらう。


「その白い粉のことについて知りたいんだけど、どれくらいの頻度で飲ませていたの?」


「最初は極少量でした。まだお嬢様が幼かったので……それから成長されるに連れて量が増えていきました。ただ、その代わり次に服用するまでの期間が長くなりました」


「今はどのくらいなの?」


「一ヶ月から一ヶ月半に一度、一袋です」


「それがちょうど今だったのね。ちなみに失敗したことはある?」


「いえ、ありません……申し訳ありません……」


「サラ、もう謝らないで」


 このままだとサラは話をする度に一生謝り続けそうだ。


「サラもこれを飲んだと言っていたよね?」


「はい、健康に関わるようなものではないと確かめたくて……。確認をしたくて薬師に見せたところ、どこにでも売られている魔力を抑える普通の薬だと言っていました。あ、身体にいいものも含まれているから栄養薬とも……」


「……え、誰かに見せたの?」


「はい、平民街で薬を扱っている人に……」


「他の人には?」


「いえ、怖くてとても……。その人だけです。で、ですがちゃん隠れて行きました」


 ……その薬師の人はもういないかもしれない。


「危ないからこれからは絶対他の人に見せたりしたらだめだよ?」


「はい、もちろんです」


 うーん、どこにでもある普通の薬か……。

 

 テーブルの上に置かれたくしゃくしゃの紙を見る。その紙についている白い粉。


 何度見てもただの白い粉。けれど、もしこの白い粉に魔力が込められていたとしても私には分からない。


「サラ、子供に飲ませている薬は……さすがに持っていない、よね?」


「あります!」


 え、持ってるの!?


「私の部屋に置いてあります。なくなると困りますし、子供が勝手に触らないよう私の部屋で保管しているんです。あの、すぐに持ってきます!」


「えぇ、よろしくね」


 サラは急いで部屋へと取りに行った。サラが部屋から出て行ったのをリリーは不安そうな表情で目で追った。


「あの、お嬢様、本当にサラを許すのですか……? いくら子供を人質にとられていたからって……こんなことをして許されるはずが……」


 リリーは言いにくそうにしている。言いたいことは分かる。それに私はサラを本気で許したわけではない。


「リリー、私はそこまで善人ではないの。サラのことを本当に心から許したと思う……?」


 私の手はまた小さく震えている。その手を見てリリーは悲しそうな表情をする。


「ごめんね、リリー。でも、今の私には手掛かりがサラしかないの。だからサラには今まで通りここにいてもらわないといけないの……。それも私の味方で……」


「お嬢様……」


 サラがいなくなれば違う手段で侯爵家に何か悪いことが起こるかもしれない。


 サラを問いただした事も正しかったのか……。


「今の私にはサラの立場や子どもを利用するしか……。でもいつか本当に許せる日がきたらいいな、とは思うの」


「そんなこと言わないでください……お嬢様は何も悪くないのに……。それに、リリーや子どものことを心配しているのは本当のことじゃないですか」


「ありがとう、リリー」


「でもお嬢様……。その、サラですけど、ちょっと気になるというか……どう説明すればいいのかわからないんですけど……」


 リリーは言いにくそうに下を向いている。リリーも私と同じことが気になっているのかもしれない。


「サラのことが少し、引っかかるんだよね?」


「えっと、そう……です」


「サラは私に怪しい薬を飲ませることができないから自分で飲んで確かめたって言っていたじゃない? でも、守らなければいけない大切な子供がいるのにそんなことをするかな」

 

「……はい」


「子供の話も、私たちが確認する術はないしね……。その施設に近寄ることだってできないもの。どこで監視されているか分からないから」


「はい、サラのことをどこまで信じていいのか……。切羽詰まって後先考えずに行動してしまったかもしれないですし……それに、嘘をついているようには……その……」


「そう、見えないん……だよね……。だから今は信じるしかない、かな」


 サラが嘘をついているようには見えない、というのも私とリリーの願望から盲目的になっているだけかもしれない。


 私はサラが出て行ったドアをじっと見つめた。


「お嬢様、サラを一人で行かせて大丈夫でしたか? こんなことを言いたくはないのですが……」


「うん、待ってみよう」


「お嬢様がそう言うなら……」


 もしかするとこのままサラが戻ってこない可能性もある。


 本当のことなら、子供の命が危険に曝されるかもしれないのだから。


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