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47 【ルカと専属執事エドワード】



 コンフォート侯爵家の長男であるルカは呆れていた。


 騎士に調べさせていた使用人の報告を受け取ったが、その内容があまりにもひどかったからだ。


 出身地不明どころか、身分詐称に推薦状の不正まで明らかになった。親族間の借金や離婚歴を隠していた者がまだまともに見えてしまうほどに。


「前の雇用先で問題を起こした者までいるじゃないか……。清廉潔白とまでは言わないが、まともな者はいないのか?」


 ルカは報告書を見ながらため息をついた。


「公子様、彼らだって一応人間ですから。隠し事の一つや二つありますよ」


「エドワード、そういう事を言ってるんじゃない。ん? これは……? お、女癖が悪い……メイドに手を出すのが早い、だと!? なんなんだこいつは!」


「ちょっと公子様、もうすぐ十歳のお子さまが何言ってるんですか」


 エドワードは表情を変えずに淡々と応えた。その言葉遣いに若干難がある気がするのは気のせいではない。


 エドワードはルカの専属執事だ。そして貴族出身のため魔法が使える。


 二人は年齢が近い為、主従関係のはずなのにエドワードはルカに対して遠慮がなかった。いや、なさすぎた。


 ちなみにエドワードの魔力の高さとルックスの良さ、それを際立たせる金色の髪の毛が視界に入る度にルカは苛立っていた。


 エドワード本人が自身の恵まれた容姿と能力を自覚していることがさらにルカを苛立たせている。


「お前もまだ子供だろ! それにこれは報告書に書いてあることを……!」


「私は子供ではないですけどね。まぁまだ成人はしていませんけど。あぁ、それよりもこっちを見て下さいよ。この人、家族が病気だそうですよ。薬を買うのにお金がかかるみたいで、賃金のいい侯爵家でなんとか働きたかったんでしょうねぇ」


「だが、出身地で嘘を書いた」


「まぁ、そうなんですけど。侯爵領だと書けば雇ってもらえると思ったんでしょう。でも、嘘とも言えないですよ? たしかに生まれは侯爵領内です。そのあとすぐに越してますが」


 この者の両親が以前侯爵家の領地で暮らしていたことは確かだ。


 けれど——。


「その越した先で出生届を出しているのだからだめだろう」


「えぇ〜、公子様厳しいですね〜。他の者たちよりまともな人物だと思いますけど」


「他が酷すぎるだけだ」


 そう言ってルカは分けられた書類を見る。片方は不採用。もう片方は要検討。ちなみに不採用が圧倒的な量だ。


「家族の面倒を見るのに度々休んでしまい、前の仕事先を解雇されたそうです。でも読み書きできますし平民の学校もちゃんと出ていますよ? 働きぶりは真面目で、仕事仲間たちからの評判は良かったですね。自分のことは後回し、家族思いですね〜」


「……はぁ、なら一応候補に入れておけ」


「え、いいんですか? 休みがちの人ですけど」


「お前が勧めたんだろう!」


「いや、別に勧めてないですよ? 公子様はお優しいですね〜」


「だまれ。働く時間は調整すればいいだろう」


「そんな怒らないで下さいよ」


 ルカは頭を押さえた。見た目は子供なのに仕草が疲れ切った大人のようだ。


 ルカの目の前には報告書の山。そこにいるだけでなぜか苛立つエドワード。頭痛の原因はそれだろう。


 まだまだある書類の数々を見ながらルカは大きくため息をついた。


「もういい、次だ。これは——。仕事面での問題なし。若干のアルコール中毒あり……」


 いくら仕事ができても酒で問題を起こされては困る。


「執事はアルコールに多少強いのが理想ですが、さすがに中毒者は何をするか分からないので雇えませんね」


 主人に出されたお酒を代わりに飲まなければいけないこともある為、執事はアルコールに免疫があったほうがいい。


「さすがにまだ子供の公子様やお嬢様にお酒を出す人はいないと思いますが、今後の事を考えればアルコール依存の人はやめたほうがいいですね」


「は? あいつに執事をつけるのか? 女だぞ?」


「公子様のように、いずれお嬢様も公女様となられるでしょう。さすがにメイドだけというわけにはいきませんよ。あと、お嬢様の護衛騎士もそろそろ候補を選ばないと」


「はぁ……」


 実に面倒くさい、と顔に出ている。あいつのことまで考えていられるか! といった表情だ。


「公子様、顔に出ていますよ」


「はぁ……次はどれだ?」


 まだまだ書類は山積みだ。


「はい、これです」


 そう言ってエドワードは厚みのある書類の束を渡してきた。


「……なぜ他の屋敷で働いている者が応募してきてるんだ? おい、まさかこれ全員か?」


「そのまとまっているのはそうですね。侯爵家での雇用が決まったら今のところは辞めるつもりなんでしょう」


 知らずに雇っていたら侯爵家が何と言われていたか。


「条件の良いところで働きたいのは当たり前ですよ。こんなク……いえ、このような国で働く平民にとっては死活問題ですから」


「だが信用問題になる」


 貴族出身者と平民では雇用の仕方が違う。言い方は悪いが、この国では使用人は貴族の所有物という扱いになる。


 契約があるのだから他の貴族が口出しをすることは出来ないし、勝手に雇うことなどできるはずがない。


 もちろん、この侯爵家では所有物などというような扱いはしない。そのため多くの者がここで働きたいのだろう。


「ちなみにこっちの人はダメですね。自分の病気を、あわよくば侯爵家の能力で治してもらおうとしています。いくら侯爵家に特別な力があるとはいえ、出来ることと出来ないことがあるって知らないんですかね」


「他でも働けないようにそいつの推薦状は捨ててしまえ」


「はいはい〜」


 そう言ってエドワードはその場で推薦状を魔法で燃やした。残りカス一つ残らず推薦状は消えた。


 エドワードは実に涼しい表情だ。


「ちょ、あっつ! おいっ。危ないだろう!」


「大丈夫ですよ、私の能力の高さはご存知でしょう? それにしても旦那様はなぜこんなことを公子様に任せたのでしょうか?」


「さぁな。父様は忙しいから使用人のことまで手が回らないんだろう。以前なら母様が——」


 そこまで言いかけてルカは言葉を飲み込んだ。


 母親がまだ生きていた頃をふと思い出す。


「………」


「公子様もやはりまだまだ子供ですね。まぁ、こんな大人びた子供が他に何人もいたら嫌ですけど。六家の子供たちってみんな公子様みたいなんですか? それより調べるの大変だったんですからちゃんと情報は活かしてくださいよ?」


「分かっている」


 実際に調べてきてくれたのはエドワードと専属の護衛騎士、それに情報ギルドだ。


「エドワード、執事長に使用人の再募集をするよう伝えてくれ」


「そんなにいなかったです?」


「あぁ、残るのは数人だけだろうな。面接などする価値もない」


「そうですか、かしこまりました」


 そのままエドワードは部屋から出て行った。



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