45 【専属メイド、サラ】
まだ一日も経っていないのに一気に疲れを感じてベッドへと倒れ込む。お父様にもお兄様にも会うことができたし、使用人の件もなんとかなりそうでほっとする。
お父様ともお兄様とも会話らしい会話はまだできなかったけれど、まだ一日目なんだもの。大丈夫、まだまだこれからたくさん時間はあるから。
ベッドでウトウトしているとリリーがティータイムに飲み物を持ってきてくれた。
「お嬢様、しぼりたてほやほやのレモンジュースですよ! 安心してお飲み下さい!」
リリーは何やら張り切っているようにも見える。
「ありがとう、リリー。しぼりたてほやほやなの……?」
「はい、"しぼりたて"です! ちなみに隠し味にオレンジも少し混ぜてあります」
「ふふ、それは隠し味になるの?」
「なりますよ〜!」
一口飲むと、レモンのすっぱさと爽やかさに、オレンジの甘さがよく合っていてとても美味しかった。
そこへ部屋をノックする音が聞こえた。
私とリリーは無意識のうちに視線が合い、無言になる。
「どうぞ」と声をかけると部屋へと入ってきたのは私の専属メイドのサラだった。この頃のサラは、私の専属といってもリリーほど部屋へと頻繁に来ることはなかった。
「お嬢様、失礼いたします。お飲み物を——。あら?」
サラは私が手にしているグラスを見つめた。リリーがすでにティータイム用の飲み物とお菓子を持ってきてくれていた。
「ごめんね、サラ。もうリリーがくれたの」
「まぁ、そうでしたか。ではこちらはお下げしますね」
「うん、ごめんね。あ、でもお菓子は食べたいなぁ」
顔には出していないけれど、リリーが心配そうに私を見ている。大丈夫だよ、と意味を込めて微笑むとリリーは少し安心したように……はならなかった。
「かしこまりました。今日のクッキーはパティシエの新作だそうで、お嬢様の感想を聞きたいそうですよ」
「ふふ、わかった! サラ、ありがとう。もうさがって大丈夫だよ」
「はい、それでは失礼いたします」
サラはそのまま部屋を出て行った。昔と、あの頃と変わらない優しい表情だった。サラが部屋から出て言ってから少しの間、私もリリーもその場から動かなかった。
「……はぁっ、お、お嬢様っ! 待ってください!」
先に口を開いたのはリリーだった。サラが部屋から離れた頃を見計らったのだろう。
「それ、食べちゃダメです!」
「リリー、このクッキーは大丈夫だよ。多分ね」
「た、多分!? いやいやダメですよ! だってもし毒が……」
リリーが心配するのも分かるけれど、可能性が高いのは下げてもらった飲み物の方だと思う。
人目を盗んで短時間で何かを盛るならやっぱり混ぜやすい飲み物だと思うんだよね。食事に後から混ぜるのは難しいし……。
という話をリリーにしたところ、「そんなの分からないじゃないですかっ!」と怒られてしまった。
でもね、リリー。以前のサラは飲み物だけ自ら用意してくれることが多かったの。
ねぇ、サラ。
今までどんな気持ちで私に飲み物を持ってきていたの?