32 【ソフィアのペンダント】
「ソフィア、ちょっと見せて!」
急いで確認をすると、ソフィアのペンダントが熱を帯びて光っていた。
赤黒く、禍々しい光り方。まるで魔力が暴走しようとしているようにも見えた。魔力のない私でも、それがいいものではないとすぐに分かった。
「ソフィア! そのペンダント、急いで外して!」
「う、うん……」
ソフィアはなんとか自分で外そうとするが外せない。苦しかったのは先ほどの一瞬だけだったようだ。
「お、お姉様……これ、とれないっ」
遠巻きに見ていた生徒たちが、私たちの異様なやりとりを見て騒つき始めた。
今は周りのことなど気にしている場合ではない。
「なんで、どうしてはずれないのっ」
ペンダントの金具が外れず、ソフィアは焦ってしまい手が震えている。それでは余計に外しづらいはずだ。
「私に見せて」
自分では金具が見えにくいからだと思い、代わりに私が外そうと金具を見る。けれど何かがおかしかった。
「どうなっているの……」
金具は簡単に外れそうな物なのにピクリとも動かない。というよりも、ペンダント自体が首のところで不自然にとまったままだ。
赤黒い光を発しながらソフィアの胸元にあるペンダントはとても不気味に見える。
その時、急に光が増した。
「お姉様! 私から離れて下さい!」
ソフィアも嫌な予感がするのだろう、自分から離れるよう私に言い、手で遠ざけようとする。
そう言われてこの状況から逃げ出すことなど私にはできない。
ソフィアのペンダントを掴んで無理やり引きちぎろうとしてみたけれど、やはりできなかった。
「あっ……!」
ペンダントはとても熱くなっていた。手のひらを見れば火傷をしたように赤くただれてしまっている。
「え、お、お姉様!? 大丈夫ですか!?」
どうやらソフィアはこの熱は感じないようだった。私の手のひらを見てとても心配そうな表情になる。
「お姉様、やめてくださいっ、危ないです!」
「ソフィア、あなたの魔力でこれをどうにかできない?」
「それが、できないんです……! さっきから試しているんですけど……何の魔法も使えないの……!」
これは一体何なの!? どうみてもただのペンダントではない。
フレイアさんが私に渡したかったペンダントが消え、ソフィアがいつも身に付けていたペンダントはおかしなことになっている。
とにかくソフィアからこのペンダントをはずさなければいけない。手がとても痛いけれど、もう一度引きちぎろうとしたその時、男性の怒鳴るような大きな声が聞こえた。
「おい! ソフィア嬢から離れろ!」
声のした方に顔を向ける。そこにはソフィアといつも一緒にいる友人たちが心配そうにこちらに駆け寄ってきていた。
あの人たちなら、これをどうにかできるかもしれない。私はこの状況を説明しようとしたけれど、私の目の前に現れた男性に驚いて動くことができなかった。
突然その輪の中から出てきた一人がとても目立つ格好をしていた。
ここにはいないはずの人が怒りに満ちた表情で立っている。
そう、皇族。この国の第一皇子。
すでにこの学園を卒業している人がなぜここに? 一瞬、頭が回らなくなった。
「おい、離れろと言っているのが聞こえないのか!」
「殿下、落ち着いてください」
ソフィアの友人たちは皇族を押し退けてまで前に出ることができずに困惑している。
皇子のその声と同時に、ペンダントに付いていた魔石が一層強く光った。目を開けていられないような光と、ひどい風と熱と音。
だめだ、爆発する……。
私は魔法を使えないから、防御することができない。せめて、ソフィアだけでも——。
もうダメだと思った時、微かに声が聞こえた。
「クロッ!」
私の視界の隅に、とても綺麗な黒色の毛並みをした生き物が見えた気がした。