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30 【リリーの行方②】



「あら、こんな所で大きな声を出してどうしたのかしら?」


 急にフレイアさんが現れた。フレイアさんがどうしてこんな場所に?


「シアさん、体調はもう大丈夫なの?」


 表情だけを見れば心配そうにしているように見える。けれど、その瞳の奥の本心を見ることはできない。


「はい、大丈夫です。ご心配をおかけしてすみません」


「いいのよ、迷惑だなんて思っていないわ。だって私たち家族なんですもの」


 フレイアさんとの会話は相変わらず噛み合わない。私は"迷惑をかけた"とは言っていないのに。


 それに家族ですって? お父様はこの人と本当に再婚してしまったのだろうか。お父様は私には何も言わないから。フレイアさんが公式の場に出ているとは聞いていないけれど、本当のところはどうなんだろうか。


「私が家族、ですか……?」


「えぇ、もちろんよ。あなたとは血の繋がりはないけれど、本当の娘のように思っているわ」


「そう、ですか」


 フレイアさんはにっこりと微笑むが、やはり私はこの笑顔が不快で仕方がない。


「それで、こんなところでどうしたのかしら?」


「それは——」


 この人にリリーの話はできればしたくない。でももしかして何か知っているかも……?


「あぁ、そうだわ、シアさん。あなたのメイドが一人減ったでしょう? 私のところからメイドを送ったほうがいいかしら」


 え?


「リリーのこと、何か知っているのですか!?」


「あら、あのメイドはリリーという名前だったのね。それなら私が辞めさせたわ」


「なぜそんな勝手なことをしたのですか!? リリーは私の専属メイドです!」


「シアさん、あなたの専属メイドであっても侯爵家の使用人よ? あなたをあのような目に合わせたんだもの、解雇されて当然でしょう?」


「私はどこも怪我をしていませんし、それに悪いのは私でリリーのせいではありません! リリーは巻き込まれただけです……!」


「理由はどうあれ、危ない目に合わせたことに変わりはないのよ」


「そんな、違います! 解雇だなんてひどいわ!」


「私から侯爵様にお話ししたらすぐに了承してくれたわ。手続きをしたのは私だけれど、決めたのはあなたのお父様よ」


 そんなはずは……。だってお父様は、リリーは事情があってお母様が直接メイドとして雇ったと知っているはずなのに。本当にお父様が許可をしたの?


「リリーは、どこに行ったのですか?」


 探しに行かないと。リリーには身寄りがいないから。それに、私と同じように外へ出たことがほとんどないから知り合いもいないはずだ。


「あなたが心配しなくても大丈夫よ。別に無一文で追い出したわけではないわ」


「リリーには頼れる人がいないんです! それなのに勝手に追い出すなんて! リリーは」


「まぁ、追い出すなんて人聞きが悪いわ。今まで長いこと働いてくれたんだもの、ひどい処分はしていないわ。身分証もちゃんと持たせてあるし、紹介状だって書いたわ。さぁ、シアさん。もう部屋へ戻った方がいいわ。ここであまり騒ぎを起こさない方がいいと思うの」


「……っ、」


 廊下を通る使用人たちがこちらの様子を見ている。私は別に騒ぎを起こしているつもりはない。


 フレイアさんはいつものように微笑み、そのまま本邸へと行ってしまった。


「待ってください! フレイアさん!」


 私の声が聞こえているはずなのに。


「……お嬢様、戻りましょう」


「サラ。どうして私に本当のことを言ってくれなかったの? 早く知っていればリリーを引き止めることだって……」


「も、申し訳ございません。私も知ったのが今朝なのです。お嬢様のお身体に障ると思い、言えませんでした……」


「そう」


 あの部屋はいつ片付けたの? 私の気付かないうちに……? リリーは昨日まで本当にあの部屋にいたの? 

 それになにより、リリーが私に何も言わずに出て行くなんてあるわけがない。

 言わなかったのか、言えなかったのか。


 私はすぐにお父様に会いに行ったけれど、会うことができなかった。

 執事長に確認をすると、お父様は皇室からの要請で遠征に行ってしまった。

 まさかこんなタイミング悪く家を空けるなんて。遠征に行ってしまえばどれくらい家を空けることになるのかすら分からない。


 執事長にも、リリーがどこへ行ったのかは分からないと言われてしまった。使用人のことなのに、執事長が知らないなんてことありえるの……?

 けれど、「どうか侯爵様を信じてください」とだけ言われた。


 信じる? 何を? お父様を? どうやって?


 何か知っているのなら教えてよ!

 

 リリーは子供の頃から侯爵家にいたのだから、執事長とも長い付き合いなのに。どうしてそんなにも他人事でいられるのか。


 お父様も、執事長も、サラも。


 他に頼れる人のいない私は、持っていた数少ない宝石をこっそり換金し、情報屋と呼ばれる人たちに依頼をした。そういった場所に行ったことのない私にはとても困難なことだったけれど、どうしてもリリーを見つけたかったから。


 けれど、やはり何も分からなかった。


 メイド一人の情報が何一つ入らないなんてことある? 六家で働いていたメイドなのに。


 もう自分で探すしかないと思った私は学園へ行かず屋敷を抜け出して探し始めた。けれど、そのうち侯爵家の騎士に連れ戻された。


 それからはこの侯爵家から外へ出ることすら出来なくなってしまった。お父様の命令なんだろうか。


 私一人ではこれが限界だった。何の力もない私にはどうすることもできなかった。見つけることが、できなかった。


 ごめんなさい、リリー。


 リリーの行方はずっと分からないまま。






 リリーが侯爵家からいなくなって数ヶ月後。今度はアメリアが仕事を辞めてしまった。


 私には何も言わずに突然だった。


 サラに聞いた話だと、母親の体調が良くなく看病するためだと。


「それなら仕方ないわね……。せめて最後に会いたかったのだけれど……」


「お嬢様が学園に行かれている間に急に知らせがきてそのまま……。アメリアも残念そうにしていましたよ。それに、心配もしていました。落ち着いたら手紙を送ると言っていたのでそれまで待ちましょう」


「今の私ではアメリアのためにできることは何もないわね……」


「お嬢様……」


「あの、アメリアが言うには旦那様が治癒魔法士を送ってくださると言っていたそうなので心配はないと思いますよ」


 お父様が……?


「それならよかった」


 そしてしばらくしてからアメリアから手紙が届いた。嬉しくてすぐに返信をしたのだけれど、その後アメリアから手紙が届くことは二度となかった。



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