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26 【シア、十六歳 学園での生活】



 あっという間に月日が経ち、学園へ通うようになって三年目。私はもう十六歳になった。


 学園での生活はいいものではないだろうと覚悟はしていたけれど、予想通りすぎて逆に笑えてしまった。


 私が侯爵家の人間であっても悪口や嫌がらせをしてくる人は一定数いた。

 この学園に入る為に瞳の検査を受けた事まで知られていた。そのせいで、侯爵家にとっては重要な人間ではないと思われてしまったのかもしれない。

 誰がそんなことを外へ洩らしたのかと考えたけれど、口の軽い侯爵家の使用人たちを思い浮かべればすぐに納得した。


 正直、学園の生徒たちが私に対して不満を露わにする気持ちが理解できない訳ではない。簡単な魔法すら使えない私がこの学園に通っているのだから。彼らからしたら到底納得できないだろう。


"侯爵家の権力を使って入学した"


 否定はしない。だって私もそう思っているから。だっておかしいでしょう? 魔法は使えないし、入学した当初の成績は普通よりは良かっただけ。それなのに、他の貴族の子息子女と同じように通えるなんて。

 

 だから私はなるべく周りを刺激しないよう、問題を起こさないよう、静かに過ごした。


 魔法の実技は努力でどうにかなるものではないので、他の科目で良い成績がとれるように頑張った。三年目の今は一年、二年の時よりは成績も良くなっている。知識だけでも将来役に立つはずだし、何かしらの仕事を見つけられるはずだ。


 侯爵家の人間として役に立ちたい、という気持ちはいつの間にかなくなってしまった。今はもう、卒業したら一人でどうやって生活していこうと考えてしまっている。


 卒業した後はどうするのかまだはっきりと決めてはいないけれど、卒業すればここから解放される、そんなことを思いながら毎日過ごしてきた。






「あの、お嬢様、大丈夫ですか……?」


「え? 何が?」


「なんだかお疲れに見えます」


「そんなことないわ。大丈夫よ」


 リリーが心配そうに聞いてくる。「大丈夫」と言ったのは本当のこと。無理をしているわけではない。毎日眠れているし、食事だってとれている。

 だって、まだ私の事をこうして心配して気にかけてくれる人がいるんだもの。


 昔に比べて、私はだいぶ大人しい性格になっていると思う。子供の頃は木に登ったり、庭を走り回っていたのが懐かしい。私が元気にしているだけでお母様が喜んでくれたもの。


「お嬢様、今週の課題を持ってまいりました」  


 私の部屋までいつも課題を待ってきてくれるこのメイドはアメリア。

 主に私の勉強面でのサポートをしてくれている。十歳の誕生日パーティーが中止になった代わりに、授業が増えたことを淡々と伝えてきたメイドだ。


 リリーやサラのように常に側にいるわけではない。アメリアは私がまだ幼かった頃は領地にある別邸で働いていた。


 表情はいつも変わらず無表情。常に厳しい。けれど、冷たいのではなく私にも普通に接してくれる数少ない貴重なメイド。


「えぇ、分かったわ。ありがとう」


「先週は少し進みが遅かったので、今週は課題の量を増やしております」


「う、そ、そうなのね」


「それでは失礼いたします」


 アメリアは必要なことだけ伝えてすぐに部屋から出て行った。勉強を教えてくれる先生が変わってからはアメリアが課題のチェックをしてくれている。アメリアは私よりも優秀だ……。


「アメリアさん、もう少し優しくしてくれてもいいと思いません!?」


 リリーはアメリアが苦手なのかな? 確かに二人は合わなそう。


「リリー、アメリアは厳しいだけでちゃんとシアお嬢様のサポートをしてくれているじゃない。あなた、つまみ食いを見られて怒られたからってそんなことを言ってはだめよ」


 サラは苦手意識はないようだ。歳も近いものね。それにしても、リリーってばアメリアにそんなところを見られてしまったのね。

 想像して笑ってしまう。


「お嬢様~! 笑わないでくださいっ。サラもひどいわ、ばらすなんて」


「あら、別にいいじゃない」


「もちろんアメリアさんがすごい人だっていうのは分かっていますよ! でも、たまにしか会えないんですからもう少しこう、笑顔を……」


 アメリアは仕事量が多く、屋敷にいることは少ない。メイドという立場でありながら、執事長の補佐ができるほどの人だ。そのため領地に戻ることも少なくない。アメリアは私の専属メイドのはずなんだけどな……。


「リリー、私はアメリアのサポートがあってとても助かっているよ? それに、この屋敷の中で私に自分から話しかけてくれるメイドはあなたたち三人しかいないんだもの」


「お嬢様……」


 リリーとサラは悲しそうな表情をする。


 相変わらず屋敷の使用人は私に対して冷たいけれど、私だってもう何も言い返せない子供ではないからそこまで強気に出てくる使用人はほとんどいない。


 行き過ぎた態度だった使用人はいつの間にか見なくなっていた。アメリアか執事長が何か対応をしてくれたのかな?


 リリーもサラも、アメリアも。

 ずっと私の側にいてくれると、この時の私は思っていた。


 学園に通うようになって三年目。ということは、十四歳になったソフィアも同じ学園に通っている。

 

 ソフィアは最初、一緒に学園に行こうと誘ってくれた。けれど私はそれを断った。


 ソフィアに知られたくなかったし、見られたくなかったから。私がどのように学園で過ごし、生徒や先生にどんな扱いをされているのか。


 初めての学園で不安で心細かったはずだから悪いことをしたかな、と思ったけれどそんな不安は杞憂だった。

 侯爵家の能力を発現したソフィアを周りが放っておくはずがなかった。

 そうでなくてもソフィアは人を惹きつける魅力がある。学園で遠くからソフィアを見かけたら、多くの友人に囲まれて楽しそうに過ごしていた。


 姉としては妹に友人ができて安心した気持ちももちろんあるのだけれど、心にモヤモヤとした感情があることに気付いてしまった。でも、それ以上その気持ちを自覚してはいけない。


 お兄様やソフィアに私を見られたくなくて、学園では二人から隠れるように過ごしていた。

 友人に囲まれたソフィアと学園内でばったり会ってしまった時、なんとも言えない気まずい雰囲気が流れたから。


 ソフィアとはクラス階級が違うため、学園内で会うことはほとんどない。

 お兄様にいたっては、本当にこの学園に通っているの……? と思うほど見かけない。


 絶対に会いたくないから私にとっては問題はないけれど。クラス別の棟の敷地が離れていることに感謝してしまう。


 私が困っていた時、遠くにお兄様がいるのが見えて目が合った、気がした。けれどお兄様はそのまま行ってしまった。気付かなかったのかなと思いたかったけれど……。

 お兄様に迷惑はかけたくないから助けて欲しかったわけではないけれど、それはそれでとても悲しいことだった。


 その後はたまたま通りかかった他の生徒が解決してくれたからよかったけれど。私に親切な生徒もいるんだな、と嬉しかった。



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