18 【招待客の男の子】
誰もいないこの庭で、悲しくて私は一人でこっそり泣いていた。いつの間にか泣き虫になってしまったみたい。
誰もいないし、今だけいいよね?
けれどその時、パキッと枝を踏む音が聞こえた。誰もこんな場所に来ないだろうと思っていたため、急なことで驚いて振り返った。
そこには私と同い歳ぐらいの男の子がいた。招待客の子供だろう、服装からして上位貴族だと思われる。
男の子は不思議そうな表情をしていた。
私がこんな場所で一人で隠れて泣いていると侯爵家の人に知られたら恥ずかしいので、急いで立ち上がった。
「大丈夫? どうして泣いてるの?」
「あ……」
男の子は特に表情を変えることなく聞いてくる。見られたことが恥ずかしくて私は急いで涙を拭いた。
「どうしてこんなところにいるの?」
「そ、それは……」
「みんなが言ってる事、気にしてるの?」
「…………っ」
恥ずかしくて顔が熱くなる。この子は私の事を知っている。私が陰口を言われてこっそり泣いていると思ったんだろう。
心配をしてくれたんだろうけど、初めて会った子とそんな話はしたくない。
「…………」
私は急いでこの場を離れるため、くるりと体の向きを変える。
「あ、ごめん……違うんだ! 待って!」
男の子が焦ったように謝ってくる。
「あなたも、あの人たちと同じことを言うの……?」
「ご、ごめんね。そうじゃないんだ。さっき泣きそうな顔で会場から出ていくのが見えたから……。その、君のことが心配で……」
居心地の悪さに耐えられなくて、会場から逃げ出してきたところを見られていた。
この子が気付いたということは。もしかすると私に気が付いた人が他にもいるかもしれない。
「あの、あなたは早く会場に戻った方がいいと思いますけど……」
私を早く一人にして欲しい。
「君は、戻らない……?」
「あそこにいても嫌な思いをするだけだから……」
「そっか、それなら僕もここに一緒にいるよ」
「……………え」
え、どうしてあなたまで……? なぜなのか分からなくて、ほんの少しだけ怪訝そうにしまった。そのことに男の子は少しショックを受けたような表情をした。
「あ、ごめんね……」
「僕たち、前にも会ったことあるんだけど覚えてないかな?」
「え、会ったことがあるんですか……?」
「うん。といっても、子供の頃の話なんだけどね。あ、今よりも小さな頃って意味だよ」
でも、今だってまだ十二歳だ。
うーん、昔……? 思い出してみようとしたけれど、この男の子のことを思い出せない。小さな頃の記憶はお母様とのことばかりだ。
「ごめんなさい、幼い頃の記憶はあまり……」
「そっか、残念。でも何年も前だから覚えていないのも仕方ないよね。ねぇ、僕もここに一緒にいてもいい? あそこにいても挨拶ばっかでつまらないからさ」
「それはちょっと……。私は別のところへ行くのでここはあなたがどうぞ」
そう言ってこの場を離れようとした。
「えっ!? ちょ、待って! えーっと、そうだ! あれ! あれをまた見せてあげるよ!」
男の子は私を引き止めようと、必死な様子で何かをアピールしてきた。
「あれ、って、何のことですか?」
「僕の魔獣を見せてあげる」
「ま、魔獣……?」
「前に見せた時はとても喜んでいたんだけどな。そっか、やっぱり覚えていないんだね……」
「えっと、ごめんなさい」
まさか魔獣なんて言葉が出てくるなんて。
しかも、まだこの男の子は子供なのに。
「ねぇ、気になる?」
「う、うん」
正直、とても気になる。魔獣に会いたいと思ってもなかなか会えるものではない。
前に見せてくれたってことは、この子はそんな小さな頃からすでに魔獣と契約していたの? それはとてもすごいことなのでは?
私はまだ魔法すら使えないのに……。
その事実に少しだけ嫉妬してしまう。
「あの、魔獣ってことは、もしかしてあなたも六家?」
「うん、そうだよ。僕も六家なんだ。僕の家は公爵家だから魔獣と契約ができるんだよ。君の家は聖獣だよね? でも……あ、ごめん……」
侯爵家は現在、誰も聖獣と契約できていないことを思い出したようだ。
「ううん、いいの。あの、本当に魔獣に会わせてもらえるの? 実はずっと会ってみたかったの」
「もちろんだよ!」
男の子は嬉しそうな表情へと変わった。その無邪気な笑顔につられて、私も頬が少し緩んでしまう。
そして男の子のすぐ目の前に小さな魔法陣が現れた。