17 【ソフィアのお披露目パーティー】
今日はソフィアの十歳の誕生日パーティーが開かれる。侯爵家の能力が覚醒したお披露目も兼ねている、大切なパーティーだ。
どれだけ盛大なパーティーにしたのかは準備が進められていく会場を見ていればよく分かった。フレイアさんが相当力を入れたのだろう、東の別棟に多くの人が出入りをしていたから。それができたのはお父様も気を配ったからなんだろうな……。
ソフィアが能力を発現せさたあの日。
私は危うく、フレイアさんへの殺人未遂の罪を着せられるところだった。大袈裟かもしれないけれど、あの時は本当に怖かった。
フレイアさんが目を覚まして、メイドと同じことを言ってしまったらどうしよう? 頭を打ったせいで記憶が混乱して証言が曖昧だったらどうしよう? そんなことばかりを考えていた。
けれど、その心配はすぐに解消された。
フレイアさんから"メイドの話は間違いで突き落とされてなどいない"、"シアさんは手を伸ばしてくれた"と証言してくれたため、すぐに誤解を解くことができた。
そしてあのメイドは解雇となった。
推薦状も身分証も処分されたという。これでもう貴族の家で働くことはおろか、普通に職を探すことさえできないだろう。侯爵家で虚偽の証言をしたから当然なんだけれど、あのメイドはそんなリスクを冒してまでどうしてあんな嘘を言ったのか。
本当に見間違えたの?
何がしたかったの?
今となってはもう分からない。
お父様に、その時の事について何か聞かれることはなかった。問題を起こしたと、いつ呼び出されるのだろう……なんて、そんなのは杞憂だった。
そこまで私への関心がないのだろう。
それなのに、ソフィアのパーティーには参加しろという伝言だけがきた。私のパーティーは中止になったのに? お父様は正気なの?
発現した妹を祝う気持ちはある……。けど、発現していない私がパーティーへ参加することがどれだけ惨めなことか分からないのだろうか。
きっと、いろんなことを言われるのだろう。
いっそ部屋から出ずに人に会わせない方がよほど侯爵家にとってはいいはずなのに。フレイアさんにも、「ソフィアを祝ってほしいわ」なんて言われてしまった。
お父様は何を考えているんだろう。いや、もしかしたら何も考えていないのかもしれない。
キリキリと痛む胃を抑えながら会場へと重たい足を運んだ。準備していた時よりもさらに豪華な会場となっていた。
そして心配していた通り会場内はとても居心地が悪かった。ちらちらと私を見てくる人はいるけれど、誰も話しかけてこない。けれど、私のことを話をしているのは聞こえてくる。
人前に姿を見せたのは何年振りだろう。
そもそも、私が侯爵家の娘だと分かっているのかも怪しい。唯一認識できるものは金色の瞳だけ。もしかすると親戚の子供とか思われていそうだ。
侯爵家以外の六家の貴族はとても私が近づくことなどできない場所で、お父様やお兄様と一緒にいるのが遠くから見えた。
六家は見た目に特徴があるから遠くからでもすぐに分かった。紹介をしてもらえないので、名前は知っていても誰が参加しているのかは分からない。
お父様とお兄様って、あんな表情できたんだ。
お父様がパーティーの始まりを告げる挨拶をしたのだけれど——。
大きな歓声と拍手。
お父様の横で恥ずかしそうに、でも嬉しそうに頬を染めているソフィア。そんなソフィアを見守るお兄様。
それを遠くから見ている私。
どうして私はここにいるのだろう。
私はとてもここにいられなくなり会場をこっそり抜け出した。誰も私を気にしていないのか、気付かないからなのか私を引き止める人は誰もいなかった。
誰もいない庭の隅で隠れるように座り込む。やっぱりここは静かで落ち着く。
"ソフィアを公女と呼ぶことを認める"
それは皇室から出されたものだった。
他国とは違い、この国では六家の優れた子供たちのみ公子または公女と呼ぶことが許されている。貴族の子供だからみんなそう呼ばれる、ということではない。
お兄様も侯爵家の能力が発現したので公子と呼ばれるようになった。
そしてソフィアも、今日から公女だ。
私はいつまでも、"お嬢様"のまま。
今でもお嬢様と呼んでもらえるだけまだいい方なのかな。今日のパーティーが終わればソフィアとフレイアさんは本邸で生活をすることになる。
私はこれからもずっと、離れと呼ばれる別棟で過ごすんだろう。本邸には家族が揃っている。そんな光景を想像したらなんだか悲しくなった。