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10 【シア、十一歳】



 十一歳になった。


 今年も私の誕生日パーティーが開かれることはなかった。そんな気はしていたから、大丈夫。


 それに、侯爵家では誕生日を祝わないのは普通のことなんだよ。だってお父様もお兄様の誕生日も特別祝うことなんてしないもの。お母様が亡くなってから、ずっとそうだもの……。


 だから、大丈夫。私だけが祝われないわけじゃない……。


 今までは私の誕生日の日は侯爵家のパティシエがケーキを作ってくれていたけれど、今年はリリーとサラがケーキを作ってくれた。


 最近はお菓子作りにはまっているみたい。だから二人が作ったケーキを私に食べて欲しかったんだって。


 見た目はちょっとあれだったけれど、三人で食べたケーキは今まで食べたケーキよりもずっと美味しかった。

 

 お菓子作りが最近の趣味なの、なんて嘘をついてまでケーキを作ってくれたのが私のためだっていうのは分かっている。


 だから、何も言わずに「ありがとう」と伝えたら二人とも嬉しそうに笑ってくれた。私はただただ二人の気持ちが嬉しかった。


 リリーなんて、なれないことをしたからか指が包帯だらけだった。「これ、私が切ったんですよ!」と言ってたけど……リリー、フルーツをそのまま切るだけで指まで切ったのかな。心配。


 小さな怪我なら治癒魔法ですぐに治せるのにリリーの指は怪我をしたままだった。私の専属メイドだから、という理由で怪我を治してもらえないのかと気になってしまう。


 こんな時、私が魔法を使えたのなら。


 どうして私は魔法が使えないんだろう。


 リリーの指に巻かれた包帯を見て、自分のメイドさえ治してあげられないことに悲しくなった。






 十二歳になる少し前のこと。


 突然、私の部屋が本邸から別棟に移された。


 別棟といっても本邸とは渡り廊下で繋がっている。けれど、今ではほとんど使われることがなくなったため使用人たちからは良くない意味で離れと呼ばれている。


 どうして突然? と不思議だったけれど、お兄様の勉強の邪魔にならないようにとの配慮だとかなんとか聞かされて、余計分からなくなった。

 え? って思ったけれど、私が意見を言うことなどできるわけがないから、黙って従った。


 別棟で私のお世話をしてくれるメイドさんは五人しかいなくなった。


 その内の二人は、リリーたちとは仕事の内容が違うからほとんど見かけることはない。

 だから実質、専属メイドは三人しかいない。






 別棟へと移ったある日、侯爵家の書庫に用事があったので久しぶりに本邸へ向かった。


 いつも勉強で分からないことがあるけれど、私がそれを補うためには本を読むしかない。だって教えてくれるはずの先生が、教えてくれないんだもの。質問だって聞いてくれない。

 

 教える側にその気がなく、いつも適当に授業が進められてしまう。けれど私がその不満を誰かに言うことなどできなかった。


 私にとって知識を得るための手段の本はとても重要なものだ。だからどの本を読むか選びたくて今日は自分で取りに来た。


 ここは書庫にしては大きいから図書室って言ってもいいぐらい。


 書庫の中は少し複雑な構造になっている。


 どれにしようか迷いながら本を探していると、何人かの使用人が書庫へと入ってきた。


 使用人には会いたくなく思わず隠れてしまった。早く出ていって欲しいと息を殺していると使用人たちの会話がふと耳に入ってきた。


 聞きたくなくても静かな書庫の中では小さな声もよく聞こえてしまう。


「ねぇ、シアお嬢様が侯爵様の血を引いていないって噂は本当なのかしら?」


「あぁ、それ! 私も聞いたわ。もうだいぶ前から噂になってるわよね? お嬢様って奥様にはそっくりだけど、侯爵様にも公子様にも似ていないもの」


「なんでも、奥様が外で作られた子だとか」


「そういえば奥様って侯爵様とは別の婚約者の方がいたって聞いたんだけど」


 聞こえてきた会話に思わず体が強張る。


(今、なんて言った……? 私が……お父様の子供ではない……? お、お母様が……)


「それにさぁ、何よりの証拠は未だに侯爵家の能力が発現されていない事じゃないかしら? 確か公子様って七歳で発現したわよね?」


「私もおかしいと思ってたのよ! 必ず十歳までに発現するのでしょう? いろんな噂を聞いてから、正直どうお嬢様に接していいのか分からなかったのよね~」


「だって魔法も使えないのよね? 本当の貴族なら少しは使えるんでしょう? 侯爵家の血筋じゃないかもしれないのに"お嬢様"って呼ぶのはちょっとね~。ふふっ」


「もう、やめなよ~。誰かに聞かれたらどうするの?」


「どうせ侯爵様はほとんど屋敷には戻られないし、公子様は妹には興味がなさそうだし……。実際、家族って感じの雰囲気じゃないじゃない。私たちを咎める人っているのかしら?」


「まぁ、そうよね? あ、まずい。仕事しないとお昼食べる時間なくなっちゃう! 早くそれ片付けて!」


 使用人たちはそのまま自分たちの持ち場へと戻って行った。


 もちろん、私がここにいたとなど知らずに。


 力が抜けて持っていた本がバサッと床へと落ちた。それで私の手足がカタカタと震えていることに気付いた。


 私は立ったまま、しばらくここから動くことができなかった。



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