第七話 「狼少女 あげいん」
こんにちは、白野斬夜です
前回の書き直しをしながら構成を考えてたおかげで早く書き上げることができました
今回も楽しんでもらえると幸いです
俺がこの世界に来てから1ヶ月ほど経ったある日の朝
「ん……ふぁ……朝か……」
目を覚ました俺はすぐに違和感に気づく
「ん?ローリエちゃんは……?」
そう、ローリエちゃんがいないのだ
いつもなら俺より早く起きて俺を起こしに来てくれるのに……
「何かあったのか…!?」
俺は急いでローリエちゃんの部屋に行き、扉を開けた
「ローリエちゃん!?」
部屋に入るとローリエちゃんはベットの上にいた
「すぅ………すぅ………」
とても気持ちよさそうに寝息を立てている
「なんだ…まだ寝てただけか……」
しかし、珍しいな……
今まで一度も寝坊したことなんてなかったのに
「もしかしてローリエちゃん、疲れてたのかな……」
思えば最近討伐クエストを頻繁に受けてはローリエちゃんに頼っていた
疲れが溜まっててもおかしくはないだろう
「ごめんね、ローリエちゃん……」
今日はこのまま寝かせておいてあげよう
ただ、生活のためには少しはお金を稼いどかないと何かあったときに困る
よし、今日は久しぶりに一人でクエストに行くことにするか
そうと決まればまずは準備……の前に、ローリエちゃんへの書き置きを残しておくとしよう
「ローリエちゃんへ……今日は俺一人でクエストに行くことにしますので、ゆっくり休んでいてください。昼までには戻ります……っと」
書き置きを目立つところに置いておく
「じゃ、行ってくるねローリエちゃん」
ローリエちゃんを起こさないよう、小声でそう言って俺は自室に戻り出かける準備を始めた
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一人でのギルド協会
今日も今日とて冒険者たちでごった返している
「もうこの雰囲気にも慣れたなぁ」
などと呟きながらクエスト板に向かって歩き出す
「あの、すいません」
「はい?」
不意に横から声をかけられる
見るとギルド協会の制服を着た若い女性が、なにやら書類を持って立っていた
「ギルド協会登録冒険者のカイ様でしょうか?」
「あ、はい、そうですけど」
女性は持っていた書類を俺に手渡す
「先日ギルド協会本部にて行われた審査会にて、あなたのランクアップが決定いたしましたので、そのご報告とギルドタグの配布を行います」
「ランクアップですか?」
「はい、通常の冒険者であれば半年ぐらいかかるものなのですが、カイ様は異常遭遇の生還及び遭遇モンスターの討伐という二つの功績により貢献度が追加されていたので通常より早くランクアップの貢献度へ到達されたようです」
あの異常遭遇でそんなにボーナス貰ってたんだな……
「というわけでそちらの書類にサインと拇印をお願いします」
「あぁ、はいはい」
俺は書類にサインと拇印を押し女性に手渡した
「はい、確かに確認しました、ではこちらがギルドタグになります」
ギルドタグ……その名の通りギルドから配布されるドッグタグのようなものだ
名前などの個人情報が刻印してあり、死亡した際などの身元特定などに使う
また、ランクによってタグの色と材質も違う
一番下のランクのEではタグは無く、Dのみ黒枠に入っており素材は鉄、Cは銅、Bは銀、Aは金、そしてSはプラチナらしい
今回もらったのは黒枠に入った鉄、つまりDランクのギルドタグだ
「では、私は仕事に戻ります、これからも頑張ってください、では」
そう言って女性は自身の仕事場に戻っていった
「うーん、ランクアップかぁ……実質俺じゃ無くローリエちゃんのランクなんだけど……」
まぁ今更気にしても無駄か……
せっかくだしDランクのクエスト板を見てみるかな……
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というわけで来ました!Dランククエスト!!
え?内容?採取クエストですが何か?
「まぁ一人ならこれ一択だわな」
しかもEランクの時と違って一回で1000Gも稼げるから割りもいい
今回の場所は前採取クエストした森から数分離れた場所にある湿地帯だ
取ってくるものは毒消し草、薬草とそう難度は変わらない
Eランクと違うのは場所の遠さと危険度のみ、その危険とはここら一体に吹き出す毒性の沼だ
気をつけていればまず踏むことはない
俺はなんなく目的の毒消し草を手に入れ帰路についていた
「うん、この調子ならしっかり昼前には帰れそうだ」
と、意気揚々と帰ろうとした時
「………あれ?」
来た道を振り返ってみると通った時にはなかった毒沼が湧いている
「え……この沼って満ち引きみたいのがあんの?」
参ったな……このままじゃ帰れない
と思ったその時だった
足元にツンツンとつつくような感触
「ん?うわ!?」
足元を見ると泥でできた手の魔物がいた
「も、モンスター!?今日はローリエちゃんいないのに……」
とりあえず杖を構える…が、魔物が襲ってくる気配はない
それどころか手招きと指差しで何か誘導しようとしている
「こ、こっちに来いって?」
とりあえず俺は少し警戒しながら指示に従うことにした
しばらく魔物についていくと少し開けた場所に出た
そこまで来て魔物はどこから出したのか泥だらけの地図を出して俺に見せる
どうやらこの場所から東の方にしばらく行けば毒沼を通らずに出口に着くらしい
「おぉ、助かったよありがとう」
俺は持ち物の中からクエスト中の食事用の干し肉を取り出しして魔物に渡した
「こんなのしかないけど、良ければもらってくれ」
魔物は干し肉を掌から取り込むと「アイルビーバッグ」とか言いそうな感じでサムズアップしながら地面に沈んでいった
「ふぅ……この辺の魔物も割と人に友好的で助かるな、さて帰るか」
と歩き出そうとしたその時だった
「わん!」
…文章だと犬の鳴き声かと思うだろうが、今のは確実に人の……ってなにこのデジャヴ!?
とりあえず声のした方向を見る
そこにはやはり「拾ってください」と書かれたダンボールがあった……が、中身がいない
「あれ……?」
気のせいだったか?と思った次の瞬間
腹のあたりの服の裾をクイクイっと引っ張られる
目線を落とすとそこに少女がいた
「拾ってほしいのです!」
近いっ!?そしてド直球!?
「助けてほしいのです〜!」
少女は泣きついてくる
見た感じ、彼女も狼獣人のようだ
桃色の髪と尻尾、そして桃色と金色のオッドアイ以外はローリエちゃんにそっくり……というか似過ぎじゃないかな?生き写しみたいにそっくりだぞ……
と、そこまで考えて思い出す
そういえば……前にローリエちゃん、「妹がいる」って言ってたような……
「あの、君?」
「な、なんなのです?」
「君ってもしかしてローリエちゃんの……」
「姉上を知っているのです!?」
ローリエちゃんの名前を出した途端、強烈に食いついてきた
どうやら当たりらしい
「やっぱり君が噂の妹さんか……ローリエちゃんなら今俺と一緒に生活してるよ」
「そうなのですか……よかったのです、姉上が無事で……」
安心したのかその場にへたり込む
「ローリエちゃんも君に会いたがってたし、もし君がよかったら俺と一緒に来ないかい?」
「いいのです!?」
「もちろん」
「あ、ありがとうなのです!!」
ローリエちゃん同様表情は少ないが目をきらめかせ尻尾と耳で精一杯喜びを表現している
「ようやくこの辛い生活とお別れできるのです……」
この子もローリエちゃんと同じく辛い生活してたんだろうな……
「もう得体の知れない虫や泥水でお腹を満たさなくてもいいのですね……」
うお!?ローリエちゃんより酷い生活してた!?
これは早く連れて行ってお風呂や美味しいものを上げなければ……
「なら早速街に行こうか」
「あ、ちょっと待ってほしいのです」
少女はダンボールに駆け寄り何かを取り出した
ボロボロになってはいるがそれは紛れもなく弓だった
「これも修理してまた使えるようにしたいのです」
へぇ、この子は弓使いなんだな……
「あ、そう言えばまだ名前聞いてなかった、俺はカイ、君は?」
「あ、私はアニスなのです!よろしくお願いなのです、ご主人様!」
………あ、やっぱり?
「君もその呼び方なんだね……」
「な、何か問題があったのです……?」
「いや、いいんだもう……」
「?」
とりあえず俺はアニスちゃんを連れ街へと戻るのだった
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「ふぅただいm……」
「ご主人様ーーーー!!」
「へぶらいッッッ!?」
宿屋の扉を開けた瞬間ローリエちゃんに飛びつかれ吹っ飛ぶ
「ご主人酷いです!私を置いて何処かに行くなんて!」
「ろ、ローリエちゃん、疲れてたみたいだったから休ませてあげようかと思って……書き置きにも書いてあったでしょ……?」
「書き置き……?」
どうやら見てないようだ
「ごめんなさい……起きたらご主人様がいなかったのでつい取り乱しました……」
とりあえずは落ち着いてくれたようだ
「まぁ、とりあえずごめんね……それよりもローリエちゃん、君に会わせたい人がいるんだ」
「会わせたい人?」
俺は外で待たせてたアニスちゃんを呼び入れる
「お久しぶりなのです姉上」
「アーちゃん!」
ローリエちゃんはアニスちゃんに駆け寄り抱きつく
「心配したんですよ!無事でよかったです」
「私も心配したのです……また会えて嬉しいのです」
姉妹の感動の再会だ、ローリエちゃんもアニスちゃんも嬉しそうでよかった
「よし!アニスちゃんが仲間に加わったことだし、3人で銭湯とご飯行こうか!」
「はい!行きましょうアーちゃん!」
「はいなのです!」
元気よく飛び出す二人の後を追うように俺も宿屋を後にしたのだった