第六話 「施しの杖と絆の証」
こんにちは、白野斬夜です
一度書き終わった文章データをスマホの操作ミスにより全消去してしまうというアクシデントがあり、投稿が遅くなりました
お待たせしてすみませんが、今回も楽しんでもらえると幸いです
「いただきます」
「いただきま〜す」
俺達はいつものように宿屋の朝食を食べる
「今日のお魚美味しいです〜」
幸せそうに魚のムニエルを頬張るローリエちゃん
今日も元気そうだ
「……あいつらか?」
「そうそう……あいつらだ」
ふと、他の席からの話し声が聞こえる
異常遭遇から生還したことで俺達は少し有名になっていた
しかし有名になると……
「あいつかぁ!女の子一人に戦わせて自分は何もしないクズ男ってのは」
「しかもそれで得た報酬は全部自分のものにしてるらしいぞ」
「マジかよ最低だな」
こういう連中が湧くんだ……
まぁ、ああいうのはほっとくに限る
「ご主人様、ちょっと席を外しますね」
不意にローリエちゃんが食べる手を止める
「どうかした?」
「いえ・・」
ローリエちゃんは先ほど罵倒を飛ばしていた席の方を見る
「ちょっとあそこの無礼者達を噛み殺してきます」
「ろ、ローリエちゃん?冗談にしては物騒……」
「……」
あ!?これマジで止めなきゃダメなやつだ!?目が本気だよ!?
「ローリエちゃんストップストップ!それやると色々まずいことになるから!!」
「む……ご主人様がそこまでいうなら、ここは抑えましょう……」
ふう…なんとかスプラッタは回避できたようだ
食事を終えた俺たちは出かける準備を始めた
「今日も討伐クエストに行くんですね!ローリエはいつでも準備できてますよ!シュッシュ!」
シャドーボクシングをしながら張り切るローリエちゃん
「あー、いや、今日はクエストには行かないんだ」
「あ、そうなんですね……」
ローリエちゃんは恥ずかしそうに頬を赤らめる
それを取り繕うようにすかさず質問をしてくる
「では、何故出かける準備を?」
「うん、今日は買い物に行こうと思ってね、お金の余裕のあるうちに装備や道具を揃えたいから」
「おお!なるほどです!」
納得してくれたところで準備が完了したのでローリエちゃんを引き連れ街に出た
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宿屋のある街の東側から徒歩数十分……
街の中央を流れる大河、その中央にある島の上にやってきた
ここにはギルド協会をはじめ、武具屋や道具屋と言った冒険者に必要な施設が多く建てられている
通常の買い物であれば西側や東側でも問題はないが
武具やクエストに持っていく道具などを揃えるならこちらの方が手っ取り早い
俺たちは早速街の案内板で武具屋を探した
「えーと、一番近い武具屋は……」
「あ、ここですね、エドワード武具店!じゃあ早速向かいましょう」
張り切るローリエちゃんに続き武具店へと歩き出した
しかしそこで近くにいた冒険者の声が聞こえてくる
「おい、エドワード武具店行ったか?武具が一つも無くてがらんどうだったぞ…」
「あぁ…まぁ今は新しい冒険者が増える時期だからな、若いのが大量に買っていったんだろうよ」
「今まともに武具が買えるのはクロハ武具店ぐらいだろうな」
「えー、あそこかぁ……あそこのねーちゃん苦手なんだよな、喋り方独特すぎてたまに訳わからないし」
うーん……出鼻を挫かれてしまったな……
「武具、無いんですね……」
「クロハ武具店ってとこにはあるみたいだけど」
「どうします?あんまり評判良くなさそうですけど」
「うーん……背に腹はってやつだな、とりあえずは行ってみようか」
案内板で場所を確認し俺たちは噂のクロハ武具店へと足を運んだ
――――――――――――――――――――――――
目的の場所は苦労せず見つかった
「見た感じは普通ですね…」
「とりあえず入ってみようか」
意を決して武具店の扉を開ける
「いらっしゃーい!」
店に入った瞬間目の前で元気のいい挨拶が炸裂した
目の前にいたのは赤い長髪を後ろで束ねた女性、狐を彷彿とさせる糸のように細い目が特徴的だった
「お!兄ちゃん彼女連れか!?ええなぁ、青春しとるやん」
まさかの関西弁!?特徴的な喋り方ってこれか!?
……ん?というか今ローリエちゃんのこと
「わわ!私とご主人様はそういう関係じゃありません!」
俺が気付くより先にローリエちゃんが否定する
「え、なんや兄ちゃん……ご主人様って……?」
う……あからさまに引かれると流石にキツイ……
「いや、ご主人様ってのは彼女が呼びたいって言って呼んでるだけで俺が呼ばしてる訳じゃ無いんです……」
「ほーん……?」
眉を潜めて俺の顔をじっと見てきた
「うーん、まぁ兄ちゃんそんな極悪人には見えんし!信じたるわ!あっはっはっ!」
大笑いしなごら背中をバシバシ叩いてくる
すごい勢いがあるというかグイグイくる人というか……
こういうところが苦手って言う人がいた原因なのかもしれないなこの人
俺はさほど嫌いでは無いが
「おっと、自己紹介しとらんかったな、ウチはクロハ、このクロハ武具店の店長や!まぁ、店員ウチ一人しか居らへんけど……」
「あ、俺はカイ、でこっちはローリエちゃんです」
「よろしゅうな!カイくんにローリエちゃん!まぁ、ゆっくり見ていってや」
そう言ってクロハさんは店の奥に下がっていった
「思ったより悪くなさそうな人ですね、確かに喋り方は独特ですけど」
「だね……さて、武具選びを始めようか、気に入ったのがあったら持っておいで」
「了解です!」
嬉しそうに尻尾をパタつかせながらローリエちゃんは武具を物色しはじめた
「さて……俺も探すとするか」
俺の目的は武器だ
と言ってもそんなに強い武器などは必要ない
自分の身が守れる程度のものか、できることならローリエちゃんのサポートができるようなものがいい
「と言ってもどれが良いのか・・ん?」
杖のコーナーを見ていると、端の方に大きく『8割引』と書かれた箱に入った杖を見つけた
白い材質でできており、杖の先端にはどう言う原理なのかわからないが緑色の宝玉とそれを囲むように交差した二本のリングが浮いていた
「8割引って……」
「お、兄ちゃん、それに目をつけたかー」
急に後ろから声をかけられる
「うわぁ!?」
「そんなびっくりせんでもええやん」
いやいつのまにか後ろにいたらびっくりするだろ!
とりあえず跳ね上がった心臓を落ち着かせる
「これ、随分割引してますけど…なんなんですか?」
「これはな、『施しの杖 キュアリリス』っちゅー代物でな、こことは違う大陸で出土した古代遺物なんや、振ると魔力を持たない人でも中級回復魔法と同じだけの癒しの効果を発揮してくれるんやで」
「へぇ、結構良い杖じゃないですか、なんでこれが8割引で?」
クロハさんは腕を組んで困り顔になる
「それがなぁ、これ効果はすごいんやが攻撃性が皆無やねん……これで攻撃魔法を唱えると威力が半減どころか3分の1まで落ちるんや、道具として使うにもかさばるしなぁ」
なるほど……
俺の身長が大体175cmほどなのだが、その俺より少し大きいぐらいの長さのあるこの杖を、回復のためだけに持ち歩いてまで使おうとするやつはいないだろう
「補助魔法の効果範囲を広げるっちゅー効果もあるんやな補助魔法だけ強化されてもなぁ……」
あれ……この杖俺にぴったりすぎない?ちょっとご都合すぎる気もするけど……
「あの、クロハさん、俺この杖買います」
「え!?ほんまに!?助かるわぁ、正直不良在庫やったんよ」
不良在庫かぁ…遠い未来で掘り起こされてその言われようは杖なのに少しかわいそうに思えてくるな
「ほんなら、今日初めて来てくれたお客さんやし、おまけしたるわ!」
そう言ってクロハさんはそろばんを取り出す
「元の値段が5500G、8割引……いや、今回は9割引にしたって…さらに端数もとったる……よし、500Gでどや!?」
「そ、そんなに安くで良いんですか!?」
こっちとしては助かるけど、儲けがあるのか心配になるレベルで安いぞ!?
「ええのええの、ウチは金儲けやのうて商売が好きやから、初めてのお客さんは大事にせな、まぁやばくなったときのあてもあるしな」
まぁ……そう言うことなら……
「じゃあ、遠慮なく買わせてもらいます」
「おおきに!」
クロハさんにお金を渡し早速手に持ってみる
「あ、意外と軽いし、なんか手にしっくりくる」
低ステータス故に非力な俺でも軽々と振り回せるほどの軽さに少し驚く
「ええやん、兄ちゃん似合っとるで」
うん、良い買い物だったかもしれないな
「ご主人様〜」
そうこうしてるうちに武具を選び終えたローリエちゃんが戻ってきた
「良いのあった?」
「はい!この二つでお願いします!」
どれどれ…一つ目は……
なるほど、籠手か、まぁ格闘スタイルのローリエちゃんには必要だよね
さて二つ目……ん?んん!?
えーと……なんだこれ……鈴のついたベルトのように見えるけど……腰に巻くには随分小さいし……
え、これアレか!?いや、まさかアレじゃ無いよな!?
「あの、ローリエちゃん……これは何?」
「何って、首輪ですけど…?」
うわー!予想外れてなかったーー!!
まずいって!ご主人様呼びだけでもヤバいのに首輪のコンボはまずいってぇ!!
「ろ、ローリエちゃん、これは流石に……」
「ダメですか……?前のご主人様の時に絆の証ということでつけてて今回もと思ったんですが……」
いやそれ騙されてない!?
「い、いや、そんな無理してつけてまで絆の証を作らなくても……ね?」
「え?無理なんてしてませんよ?むしろつけてると落ち着くので好きです」
あー……そういえばこの子ちょっとズレたところあるんだった……
「その……ご主人様が嫌なら我慢します……」
う……そんな耳と尻尾をしゅんとしながら目を潤ませた状態で言わないでよ……
あー…….だめ、罪悪感に勝てない
「わかった……ローリエちゃんがつけたいなら買おうか」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!ご主人様!!」
うん……やっぱり嬉しそうにしてるときのローリエちゃんが一番良い
ローリエちゃんが幸せならそれでいっか
「兄ちゃん、話聞いとったけど…ほんまにええんか?」
クロハさんがローリエちゃんに聞こえないよう小声で話しかけてくる
「良いんです、ローリエちゃんが元気ないと俺も落ち着かないですし」
「兄ちゃんええやつやな…最初疑ってすまんかったわ」
「アレが普通の反応ですので気にしてませんよ」
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「ほなまた来てなー」
見送るクロハさんに手を振りながら武具店を後にする俺達
「〜♪」
ローリエちゃんは買った首輪を早速つけ、鈴をいじりながら鼻歌を歌い上機嫌に歩いている
「ご主人様、本当にありがとうございます!私明日からもまたいっぱい頑張りますね!」
「うん、よろしくね」
ローリエちゃんの頭を撫でてあげながら帰路に着くのだった
関西弁ちょっと自信ないので間違ってるとこあったら誰か教えてください(^^;)