第四話「異常遭遇」
こんにちは、白野斬夜です
書きたいことの選別しながら書いてたら遅くなってしまいました
今回も楽しんでもらえると幸いです
「ご主人様〜朝ですよ〜」
「ん……んぁ……」
ローリエちゃんに揺さぶられて俺は目を覚ます
ここは宿屋のベッドの上、久しぶりのまともな寝床で熟睡することができた
おかげで少し寝坊したけど
「おはようローリエちゃん」
「おはようございます!朝ごはん、もうできてるみたいですよ」
「わかった、すぐ行くよ」
今日の朝食のメニュー
ハムエッグセット
主食をご飯かパンから選べる
ローリエちゃんはパン、俺はご飯だ
……町の周りの水田から米があることは予測できてたけど
問題はそれぞれの主食と一緒についてくる汁物
パンはコンソメスープがついてくるがご飯には……
「味噌汁だ………」
驚いた、味噌まであるとは
席に元からあったカトラリーの中には箸も入れてあったし
ミズルタの食文化は日本に近いらしい
「ふぅ……この世界に来てまでこの味が食べられるなんてツイてるな」
ほっこりと朝食を楽しんでいた俺だが、ここで違和感に気づく
ローリエちゃんがやけに静かだ
「…………」
パンをもぐもぐ食べながらもどことなく元気がない
「ローリエちゃん?どうかした?」
「あ……いえ、ふと妹のことを思い出しまして……」
「ローリエちゃん、妹がいたんだ」
「はい…あの森に行くまでの間にはぐれてしまって……まぁ……あの子は私より賢いし器用なので大丈夫だとは思うんですが……やっぱり心配で……」
耳と尻尾をしゅんとさせ不安げにしているローリエちゃん
「そうだね……よし、だったら探そうか、もしかしたらクエストで行く場所なんかにいるかもしれないし、ローリエちゃんみたいに誰かに拾われてるかもしれない、俺も手伝うから探してみよう?……ね?」
「はい……ありがとうございます…」
「とはいえ、まずは俺たちの生活も安定させないといけないから……まずはいっぱい食べてクエストに行こうか」
「……はい!」
ローリエちゃんがいつもの調子で食べ始める
少しは不安が和らいだならいいんだけど……
――――――――――――――――――――――――
さて、朝食をとり終えた俺たちは真っ直ぐにギルド協会へと足を運んだ
今日も冒険者でごった返している
「さて、どのクエストに行こうか」
俺は採取クエストをはじめとした所謂お使い系のクエスト板に目を通す
「あの……ご主人様?」
ローリエちゃんが不思議そうな様子で話しかけてきた
「あっちの方がお金いっぱい貰えますよ?」
あっちの方、というのは討伐系クエスト板のことだ
そういえばローリエちゃんに言うの忘れてたな
「あのね、ローリエちゃん、俺実はすっごい弱くてね、ああいうクエスト受けると死んじゃうんだよ……」
我ながら言ってて情けない……
「あ、あの、でしたらご主人様、もし良ければなんですけど、私に任してくれませんか?」
……ん?
「どういうこと?」
「私、力仕事や戦闘は得意なんです!私に討伐クエストを任してくれませんか?」
う、うーん………流石に女の子一人に任せるわけには……
「ローリエちゃん、気持ちは嬉しいんだけど……」
「お願いします!」
こちらの意見を押し退けズズイっという感じで懇願してきた
「ご主人様の役に立ちたいんです!一宿一飯以上の恩を返させてください!」
「えーと……」
――――――――――――――――――――――――
結局俺はローリエちゃんの押しに負け討伐クエストを受けてしまった
場所はミズルタから少し離れた小さな村の近くの森
依頼内容はゴブリン10体の討伐だ
「来る前にも言ったけど、危なかったらすぐ逃げるからね?」
「了解です!」
ルンルンと歩きながらローリエちゃんは答える
まぁゴブリン程度であれば1体ずつならなんとか対処できるだろう
……ふと最初の頃に世話になったゴブリンを思い出したがとりあえず今は忘れることにする
ガサガサ!
「!?」
ふと近くの茂みが揺れる
「来ましたね……!」
茂みからナイフを持ったゴブリンが現れた
下卑た笑みを浮かべこちらを伺っている
「一体だけならそう強くはない、これなら……」
ガサガサ!
セリフの途中で別な茂みが揺れる
四方八方の茂みからゴブリンが続いて4体現れた
「い、いきなり5体・・!?これはやばい!」
流石に5体相手には多勢に無勢
そう判断し俺はローリエちゃんに声をかける
「ローリエちゃん!一旦ここは……」
逃げよう、そう言おうとした時だった
「……あれ」
視界からローリエちゃんが消える
その一瞬後
「ギャァ!?」
「ゲブッ!?」
「ガァハ!?」
と言う声が響いた
周囲を見渡すと先ほどのゴブリンのうち3体が喉を切り裂かれ倒れていた
先ほどの声はゴブリンの断末魔だろう
おそらく3つ目の声を出したであろうゴブリンの死体の前にローリエちゃんの姿を確認する
え?もしかして、今のローリエちゃんが!?
そう思っているうちに残り2体がローリエちゃんに一斉に襲い掛かった
「はぁ!そこです!」
一体のゴブリンが振り下ろしたナイフの手を冷静に弾き腹に正拳突きをかます
次にもう一体のゴブリンのナイフを蹴りで弾いた
「すぅ………せぇい!」
そのまま深呼吸と共に後ろ回し蹴りを腹に入れ
「止めです!」
前に倒したゴブリンの頭とそのゴブリンの頭が重なったタイミングで大きくかかとを落とし地面とぶつけさせた
「…………」
ゴブリン達が動かないのと周りの安全を確認すると
「やりましたご主人様〜!」
と僕の方に向き直り手を振った
………嘘……ローリエちゃん……強すぎっ……!?
「ローリエちゃん……強いんだね」
駆け寄ってきたローリエちゃんに声をかける
「はい!ですから言ったでしょう?戦闘は得意なんですって!」
想像以上だよ本当に……
でもこれなら残りの5体も簡単に済ませられそうだ
「よし、ローリエちゃん、このままクエスト完了まで頑張ろう!」
「はい……っ!?」
返事をしようとしたローリエちゃんが一瞬硬直する
「ご主人様!危ないっっ!」
唐突に全体重を乗せた飛びつきでその場からローリエちゃんごと吹っ飛ぶ
と同時に元いた場所に巨大な倒木が落ちてきて地面を抉った
……いや、倒木じゃない……木でできた巨大な棍棒だ
そしてその棍棒の持ち主を目を向ける
そこには巨大な体躯と赤い肌を持ったゴブリンが居た
ボスゴブリン……上級モンスター………
「そんな……異常遭遇っ!?」
ギルド協会から出されているクエストは事前にギルド協会の人間がクエスト現場の調査をしており、出現モンスターなどをある程度調べてランクを決めている
しかし危険度の高い現場では、調査が深くできず予測外のモンスターが出現する場合がある
それが『異常遭遇』である
この異常遭遇、極々稀に低難易度の比較的安全な現場でも発生することがある
原因は個体の急成長や突然変異等だ
しかしその確率は天文学的な数値であり、一生に一度あるかどうかと言ったぐらい
その確率を俺達は引いてしまったのだ
「グゥアアアア!!」
ボスゴブリンが雄叫びを上げる
その声に反応し周囲から他のゴブリン達が現れ囲まれた
「そんな……これじゃ……」
………生きて帰れないかもしれない