第三話「水の街 ミズルタ」
こんにちは、白野斬夜です
日常(?)回です
書きたいこと多すぎてちょっと長くなったかな?
楽しんでいただけたら幸いです
「ふぅ、ようやく着いたな」
「ああ……半年ぶりの人間の街です」
俺たちは森から街へと帰ってきた
今更だが俺が拠点にしているこの街の名は『ミズルタ』
豊富な水源に恵まれ、街の周りには水田や畑が多く、街の至る所に無料の水道が引いてある
食には困らない豊かな街だ
さて、まずはギルド協会に行き報酬をもらった
500G…一人であれば宿と三回の食事代で2日分持つ
だが今はローリエちゃんがいる
また明日クエストをしなければ一文無しになるが、今はそのことは考えないようにしよう
「さて……」
俺はこれからの行動を考える
出かける前までは速攻で飯を食いに行ってただろう
しかしだ……
「どうしました?ご主人様、私の顔をじっと見て」
ローリエちゃん、仕方ないとはいえだいぶ汚れてるな…
女の子にこんなこと言っていいかわからないけど正直ちょっと獣臭い
この状態で食事に行けば店の人や他の客から白い目で見られること間違いなしだ
よし、まずはあそこに行くことにしよう
ローリエちゃんを引き連れて街の東側、観光客で賑わうエリアにやってきた
「わぁ、いっぱい人がいますね……」
「みんな今から行く場所を目当てに来てるんだ」
「今から行く場所とは?」
「もう見えてるよ、あそこ」
目の前を指差す
そこには大きな煙突から湯煙を立てた建物があった
そう、銭湯である
ここ、ミズルタの水源は3つ
街の西側の地下水脈、東側の温泉、そしてその間を流れる清流の大河だ
ここの銭湯はその温泉を使った施設で、観光客に一番人気のあるスポットだ
ここの魅力はなんといってもその安さ
なんと大人たった3Gで1日自由に入ることができる
さらに施設内には格安の衣服洗濯サービスもあり、観光客はもちろん戦闘で汚れた冒険者達は大助かり
人気が出るはずだ
「お風呂ですね!ようやくこの汚れともお別れできます……」
「俺も昨日入ってなかったからな、さっさと汚れを落として飯に行こう」
二人で施設に入りそれぞれの湯に向かった
――――――――――――――――――――――――
「ふぅ、いい湯だった」
俺はロビーの椅子に腰掛け扇風機…のように風を出し続ける謎の結晶の風に当たりながら呟く
服は上がる頃には綺麗になった状態で脱衣所のカゴに入っていた
入浴の短時間で洗濯、乾燥、アイロンがけまで……流石だ
「ご主人様〜〜!」
しばらくするとローリエちゃんの声が聞こえてきた
あまり大声でその呼び方しないでほしいんだけどな…
戻ってきたローリエちゃんは見違えるほど綺麗になっていた
くすんだ色をしていた髪は鮮やかな空色を取り戻し、泥まみれだった服もピシッと綺麗に、フワフワになった尻尾を振るたびに清々しい石鹸の香りが漂う
「身体も服も綺麗になりました!」
本人も嬉しそうだ
さて……
「身体も綺麗になったことだしご飯に行くか」
「ご飯!」
ご飯というワードを聞きローリエちゃんが嬉しそうな声をあげた
尻尾もほんとに千切れるんじゃないかと思うくらいフルスロットルで振り回している
俺も一刻も早くこの空っぽの胃に旨いものを詰め込みたい
俺達は足早に施設を出て食事処に向かった
――――――――――――――――――――――――
食事処のテーブル
そこに並べられた料理を見ながらローリエちゃんは目をキラキラとさせよだれを垂らしていた
俺もほぼ一日食べてなく、腹が減っていたので宿代だけ残して残りのお金をかけて旨そうなものをありったけ頼んだ
特にメインの鶏の丸焼きは想像より大きく旨そうだった
「こ、ここ、こんなにいいんですか!?」
キラキラジュルジュルさせているローリエちゃんが尻尾をパタパタさせながら興奮気味に言う
「あぁ、遠慮せず食べて」
そう言いながら俺は鶏を切り分けてあげた
「で、では、頂きます……ハムッ」
ローリエちゃんがそれにかぶりつく
「っ〜〜!美味しいです〜!」
ローリエちゃんは耳をピコピコさせながら今日一番の幸せそうな声を出す
その光景が可愛らしくてつい微笑んでしまう
「美味しいです!美味しいです〜!」
その後も一口一口噛み締めながらパクパクと鳥を食べていたが
「うっ…美味しい……です……グスッ」
「ロ、ローリエちゃん?」
ローリエちゃんが急に泣き出し慌てふためいてしまう
「ごめんっ……なさい……ほんとに美味しくて‥‥温かくて……グスッ……うわぁぁぁん!」
本格的に泣き出してしまったローリエちゃんをつい抱きしめてしまう
「辛かったんだね、大丈夫だよ」
そういいながら頭を撫でてあげる
しばらくそうしているとローリエちゃんが落ち着いてきた
「ごめんなさい……取り乱しちゃいました」
耳と尻尾をしゅんとさせながら言う
「大丈夫、今はいっぱい食べて辛いことは忘れよう?そしてまた明日からまたいっぱい頑張ろう」
「……はい!頂きます!」
再びローリエちゃんは鶏にかぶりつき始めた
……ほんとに辛かったんだろうなローリエちゃん
……僕の能力じゃ贅沢はさせてあげられないけど
「美味しいです〜!」
この幸せそうな姿を守れるくらいにはならないとな
(思わぬところで生きる目標ができちゃったな……)
そんなことを思いながら俺も食事を始めたのだった