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冒険者登録

 

「おお……! こ、ここが王都! 魔物じゃなくて人が……人が歩いてるッ!」


 俺は今……猛烈に感動している。

 俺の育った場所は田舎も田舎、ドが何個も付くほどのド田舎でまわりに民家はなく、代わりにおびただしい量の魔物ひしめく魔境だったから、もう人が歩いている風景を目にするだけで涙が出そうになる……。



 捨て子だった俺を拾って育ててくれた師匠おばばには感謝しているし多大な恩があるけど、住む場所はもう少し選ぼうよと言いたい。



 あ、そういや師匠おばばが──


「王都に着いたら冒険者ギルドに行きな。そこでまずは登録を済ませるといい」


 とか言っていたな。


 元より冒険者になるためにこの王都まできたわけだし、ここは素直に従っておこう。

 そうして意気揚々と歩くこと二時間。目的の場所に辿り着くことができた。

 道行く人に「冒険者ギルドはどこですか?」と訊いたにも関わらず迷いまくった挙句、実は何度もギルドの前を通り過ぎていたことには目を瞑ろう。この建物の外観が地味すぎるのがいけないってことで自分を納得させた。



「ようこそ冒険者ギルドへ! ご用件はなにかな?」


 すこし緊張しながら扉を開くと、亜麻色のショートヘアがよく似合うお姉さんがカウンターから笑顔で挨拶してくれた。

 もうそれだけであのド田舎から出てきてよかったと思う。


「冒険者登録をお願いしたいです」

「おっけー! あ、わたしの名前はクロエ。よろしくね? じゃあさっそくプレートを作成するから、名前と年齢、あと出身地を訊いてもいいかな?」

「名前はトーリです。生まれはどこなのか俺にもわからなくて、育ったのは霊峰リンドヴルム。年齢は十五です」

「リ、リンド……!? プッ、あはは! 冗談が上手ね! ちょっとビックリしちゃったじゃない。言いたくなかったら大丈夫よ、そのまま手続きするから」

「え? あの、本当に俺はつい最近まで──」

「あのね? 霊峰リンドヴルムはとても危険な場所で、凄腕の冒険者でも立ち入るのを躊躇う場所よ。距離だってここから馬車で一年以上かかるのにどうやって王都まで来たっていうの?」

「それは師匠おばばの──」

「じゃ最後に君の血を一滴ここに垂らすから、ちょっとチクっとするけど我慢してね?」


 そう言って俺の許可なく指に細い針をプスっと刺してきた。いや、全然いいけどさ? ただ、俺の話は聞いてほしい。


「 ──はい、終了! これで登録完了よ! 絶対にこのプレートを無くさないようにね? それは君の身分を証明するもので、紛失すると次からお金かかるからね!」

「は、はあ……。ありがとうございます」


 そう言って渡されたプレートは俺の血を吸ったせいか淡く発光していたけど、すぐにその光は収束して黒色になってしまった。


「で、君は登録したばかりだからFランクからのスタートよ。Dランクから魔物や盗賊の依頼が受注できるようになるの。Fランクの冒険者は王都内での雑用や薬草採取がメインになるけどコツコツ実績を積めばすぐにDランクまではいけるから頑張ってね! 依頼はそこの掲示板で探していいのが見つかったらカウンターに持ってきてちょうだい!」

「はい、わかりました」



 さて、今の俺には遊び呆けている余裕はない。主に金銭面で。

 師匠おばばに一週間くらい暮らせる生活費はもらってるけど……たったの一週間分だけ。このままではすぐに底をついてしまうし、せっかく王都に来た以上は美味いものを食ったり買い物だってしたい。そのためには金が必要で、金を稼ぐには報酬のいい依頼を受ける必要があって──


「でも俺のランクはF。つまりコツコツと依頼をこなして早くランクを上げないといけないってことか……。先は長そうだな……」


 俺が王都にきた理由は冒険者になるためだ。

 でも一番の理由は両親に……母と父に会ってみたいから。両親の名前もどこで何をしているのかもわかってないけど、俺が冒険者として有名になったら……もしかすると向こうから見つけてくれるかもしれない。……可能性は限りなく低いと思うけど。

 そして俺を捨てたことをちょっとでもいいから後悔させてやる。


 というわけで、俺は今日からさっそく働くことにした。

 ザッと見た感じ王都内の雑用よりも薬草採取のほうが報酬が高いみたいだ。そこで俺はここから徒歩で半日ほど行った場所にあるカガリ山の薬草採取の依頼書を三つまとめて掲示板から剥がし、カウンターにいる先ほどのクロエという受付嬢のもとに持っていく。

 依頼は同時に三つまで受けることができるらしいから。


「あ、君はさっきの……トーリ君だったかな? もう依頼を決めたのね……って、いきなり三つも受けて大丈夫? 採取の依頼といっても期間が決まっているし、もし達成できなかったら違約金が発生しちゃうわよ?」

「はい、大丈夫です。ずっと山で暮らしていたので薬草の採取は馴れてますから。それに時間をかけるつもりもないです。すぐに向かう予定なので」

「そう、すぐに。それなら安心……じゃないわよ!!」

「え?」

「あのね、今が何時かわかってるの!? もうすぐ夕暮れよ! 今からカガリ山に向かっても着いた頃には真っ暗なの!」

「わ、わかってます!」


 あまりの剣幕にたじろいでしまうけど、きっと心配してくれてるんだろう。

 それがギルド職員としての言葉だとしても少し嬉しくて頬が緩む。

 でもそうだな……早く片付けて帰ってこよう。明日も依頼を受けたいし。

 だったら──


「ちょっとなに笑ってるの、人の話聞いてた!? はあ……デビューしたてで張り切りたい気持ちはわかるけど、夜の山は本当に危険なの。夜行性の魔物は凶暴だし、遭難する可能性だって──」

「大丈夫ですって! 山の怖さは俺も嫌というほど知ってますから。あ、もう行くので依頼の受理お願いしときますね! では行ってきます!」

「あっ、ちょ、ちょっとッ!」


 やや強引になってしまったけど、こうでもしないと行かせてくれそうになかったから言葉を遮ってそのままギルドを出てきてしまった。

 あとで帰ってきた時にしっかり謝ろう。



「よし……行くか!」


 そう呟くとともに気合を入れて、俺はカガリ山に向けて歩を進めた。





 ♢ ♦︎





 トーリが冒険者ギルドを出立して一時間後──



「お、おい、聞いたか!?」

「あ、ああ……」


 王城から一つの緊急依頼が舞い込み、ギルド内は喧騒に包まれていた。


「出たらしいぜ……あの“ 村喰い ”マンティコアが!」

「う、嘘だろ……」


 マンティコアとは、サソリのような尾に獅子の胴体をもつ魔物である。

 SからEの等級で分けたとき、上から二番目のA級に指定されているほど凶悪で、並の冒険者が束になっても勝てない強さを誇る。

 また知能も高く、大きい街は狙わずに村ばかり襲うことから“ 村喰い ”とも呼ばれていた。



「しかも現れたのはすぐそこの──カガリ山って話だ」

「なっ! そ、それで騎士団の連中も慌ててたのか……」

「いや、違う。実は騎士団が焦ってる理由ってのが──」



 偶然にもトーリの向かった先で異変は起きていた。

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