引き寄せ甲子園71〜「ええ」〜
吹奏楽部は甲子園大会初出場でスタメン全員にヒッティングマーチを作成していた。
「これは驚くべきことだぞ。そして我々、首脳陣が望んできたことなのだ。まずは吹奏楽部による強制的な応援をなくした。だからと言って、吹奏楽部から楽器を演奏する権利を奪ったわけではない。そう。あの子たちは、やりたいことを自主的にやったまでなんだよ」
辰巳は、そう言って後方のチアリーダーや吹奏楽部員を見た。
元プロ野球投手の遠山は、感極まって涙を流している。
甲子園の屋外でプラカードを持ち、トイレの案内をしていた応援団長の木下や、以前までイヤホンをして周囲の音を拒絶していた、あなーしゃ野村と坂元は、アルプススタンドに戻ったことを、辰巳と遠山に報告した。
「僕たち、何の目的でプラカードを持ってたんだろうって。お客さまにトイレの場所の案内をしていたのですが、悠太さんはシダ植物を探しに僕たちの元から離れてしまうし、僕ら何を目的にやってたんだろうって」
木下は、うつむきかげんで言った。
「あなーしゃたちが何をしていたかって?トイレの場所案内さ。難しく考えるな。プラカードを見て助かった人も中にはいる」
辰巳は黒光りした顔で、木下の背後にいる、あなーしゃ野村に語りかけた。
「すいません。そうでした。僕たちは、イヤホンをして人とコミュニケーションをとるのを逃げる 口実にしてきました。根性をつけようと看板を持ちました」
そう言って、あなーしゃ野村も泣いている。
「悠太をみてみろよ。女子が脱糞した後の残り香を嗅ぎたいという下心があって、a高の男女共同仮設トイレの便所掃除をしていたんだぞ。 それはそれで、すごいことと思わないかい?それでもあいつは道に外れて犯罪には手を染めていない。ただの変態なのだ」
「ええ」
夏の甲子園大会3回戦も、ピッチャー安藤が絶好調で9回表まで 0行進で進んだ 。9回裏、a高の攻撃 で、バッター山辺はバックスクリーンにサヨナラホームランを放った。




