引き寄せ甲子園63
「安藤は、連投で行くの?」
夏の甲子園初出場を果たし、1回戦で投手として見事に勝利を飾った安藤の足裏を押して悠太は聞いた。
「監督は連投で行くっしょ。何も考えてないだけに。もうこの際、連投かどうかは気にならないね。それはさておき、気持ち良さ半端ないわ。足裏を指圧するにあたってはどういう工夫をしてるの?」
「手の親指を曲げた関節部分を足裏でゆっくり動かして、止まった箇所がツボさ」
「今押してるところ気持ちいい。ここは何て言うツボ?」
「湧泉」
悠太は甲子園のベンチで、特にマネージャーというわけではない、特殊な立ち位置に居る。
ベンチ内シンガー・ソングライター、足つぼマッサージ師、シダ植物採取家、排便研究家。
甲子園のベンチ内で急遽思い立って始めた足つぼマッサージが選手たちの間で最も好評だった。
神戸市内の我がA校の泊地であるホテル客室に持ち込んだシダ植物が冷房の風に煽られてそうろそうろと揺らいでいる。
このシダ植物は応援団長の木下が、甲子園屋外の外周でプラカードを持って便所を案内してる時に目にとまって摘んだものである。
ホテル室内の窓から下を見おろすと通りを歩く人が、次に顔を上げて正面を見ると目の前を塞いでいる大きなビルの照明が見えるだけである。
特に広範囲に夜景が見えるわけでなく、泊地用としておさえたホテル。
「宿取りはね、夜景が綺麗だとか、そういう選手のメンタルにプラスなポイントを配慮して手配して欲しいもんだな」
結構こだわる悠太には物足りなく、誰に物申したら良いか考えている。
外で採集したシダ植物を持ち込めと、それをホテル内に飾って目の保養に当てろと、そういうことだろうか。
「いや、それはさておきだ。悠太の足つぼマッサージは効くわ。自己流かい?」
「天才安藤だって、特に苦労無く県大会から投げてこられたんでしょ?」
「いやいやいやいや、そういうわけでないよ。元プロ野球選手の遠山さんやマネージャーとかいろんな人のフォローが有るからここまでこれたのでしょう」
「まあ、それもあるかもしれないけどね。俺自身のことを言わせてもらえば、甲子園ベンチ内で急遽思い立って、やり始めたら誰に教わるでもなく足ツボをピンポイントで押せてるから、才能あるってことになるね。謙虚なく言うと。それはさておき、ソニンちゃんのカレーライスの女ってのもいい曲だったね」
「うむ。あの娘はすごいよ。不思議な魅力があるよね」
「あの曲もいいんだよな 何度も聴いちゃうもん。何だっけ。あ〜ああ、いいな。彼氏がいてって」
「合コン前のファミレスにてな」
「もう、投げるとかそんなのは、あれにしかならないし、ケセラセラだから。とりあえず。足つぼを押してもらって気持ち良い思いしてソニンちゃんの曲を聴く。それだけで十分幸せな思いができることを知れただけでも、甲子園に来た意味が有ると思う」
「あと、美味しい飯食ってね。このホテルの飯ってどんなだろう。室内に運んでくれるオーダーもできるのかしら。チェックアウトする時、余計な金とられたらどうしよう」
「そんなことベイビー。考えちゃいけないよ。大丈夫だよ。辰巳さんや愛子ちゃんが何とかしてくれるよ 何かとろうよ。 出前でも」




