笑えないよ。
「ここだよ。見た感じ、ラーメン店ぽくないでしょう。」
外観は普通の家である。
ラーメン店であることは、外側の暖簾でようやく分かる。
庭には盆栽や植木が所狭しとあり、剪定もしっかりされている。
物干し竿に敷き布団が2つかかっている。
大きさからして子どもの布団だろうか。
「ここのお店のどんな所が好き?」
愛子は前かがみにしゃがんで植木を、まじまじと見る。
下着がまるまる見えてしまっている。
悠太の中で時が止まった。
もうちょっと前傾にかがめば、先っぽまで見えることってあるだろうか。
ぴったりサイズのブラでなければ。
あれが見たい。
もうちょっと角度が足りないか。
見えろ。
鼓動が高まり、呼吸も荒くなる。
うちの女子の制服は、お世辞にもかわいいとは言えないが、前かがみになると、胸元がよく見えるつくりになっている。
男の教師はテストなどの度、机間巡視をするが、きっといい思いをしてるに違いない。
妬みの様なもので彼の胸はいっぱいになる。
「お店お店してなくて落ち着くんだ」
彼女が立ち上がったことで、彼は慌てて思い出した様に返事した。
彼女の手が、彼の尻にいく。
彼は一瞬固まる。
彼女は彼のハンカチを物干し竿にかかる洗濯ばさみではさんだ。
「えっ?やばいよ。何やってんの?愛子さんて、そんなキャラだっけ?」
彼は笑う。
彼だけに見せてくれる彼女の本当の姿の一部だとしたらと思うと、本当に愛しい。
まだ付き合ってるのとは違うと思うが、時間の問題ではないだろうか。
彼女はどう思ってるのだろう。
この間まで、さえない、いじめられっ子の、自転車長距離帰宅部だった。
人生一寸先は分からないとは本当だったんだな。
「このままでいいの」
彼がハンカチをとろうとする手を払い除けた。
玄関の引き戸を開け、靴を脱ぐとき、彼女の胸元をのぞくが暗くて見えなかった。
「いらっしゃいませ」
座敷席に中高年の女性が案内してくれた。
座敷席しかないが。
笑顔で2人をしばらく見守ると、決まったら呼んでねと、障子を開けて出て行った。
室内にかかる紐にも子どもの洗濯物がいくつかつるされている。
おそらく孫の服だろう。
急に彼女が立ち上がり、障子を開けてどこかに行った。
トイレかな。
靴を履き引き戸の音がした。
一気に地獄に突き落とされる。
きっと嫌になって帰ったんだ。
俺がうまくいくわけないって。
現実。
1人でラーメン食べて帰ればいい。
涙が出そうだ。
すると、すぐに引き戸が開き、雑に靴を脱ぐ音がすると、バタバタと彼女が戻って来た。
彼のハンカチを紐にかかる洗濯ばさみではさんだ。
さっき外に干した彼のハンカチをとりに行ったのだ。
笑えないよ。
安心した彼の目からは涙がこぼれる。