引き寄せ甲子園1
「前田の投球はまとまりすぎてるね」
愛子は彼のピッチングをフェンス越しに眺めている。
「だから中盤ぐらいから打たれちゃうんだろうな」
ダルマ店主の辰巳は腕を組みガムをくちゃくちゃ音立てている。
プレハブの野球部室の扉が開くと安田は目をキラキラさせている。
「どうした?」
辰巳が安田を睨みつけた。
「辰巳先輩。オリジナルのダルマこんなにつくっちゃいましたよ。いやあ楽しいですね。水よ、ありがとう。ありがとう」
野球部監督安田は辰巳が大量に持ってきている売り物にならないダルマに色塗りをしている。
「今日一日お前は水に感謝して生きているんだな。良いことだ」
「作業続けさせてもらいますによって」
扉を大きな音を立てて閉めた。
「扉は静かに閉めなさい。美しく響く音はキャッチャーミットやバットが放つ音で十分ですさかいに」
すかさず辰巳は扉を開けて注意した。
「すみません」
安田は辰巳がこの高校で野球部だった時の後輩である。
愛子に注意されてから辰巳は言葉遣いに気を付け彼なりに精一杯ユーモラスな言い方をする様になった。
このやりとりを見ていた周りの野球部員から笑みがこぼれている。
「あいつは教鞭とるよりモノづくりの方が向いてるんじゃねーか」
「確かに。あいつが監督としてバリバリやってた頃の野球部は全く機能してなかった。スピリチュアル的に出来事には良いも悪いも無いって言うから。彼らなりに野球部は学びの場だったのかもしれないけど」
「あいつ投げさしてみるか?」
「誰?」
「安田にキツく絞られてたのいるだろう」
「ああ。安藤ね」
「ああいう不器用で素直な奴に可能性感じるね」
「前田とは真逆のタイプだからね。前田もういいよ。投げるのやめて」
前田は少しふてくされた顔をみせたが辰巳がいるので帽子をとって軽くペコリとした。
「あんちゃん。悪いけどクローザーになったつもりでもう一回投げてみせて」
「はい」
安田がいる部室に入りかけた前田は渋々マウンドに戻り滑り止めを手にして白い粉がまった。
「全力ってことですよね」
「ああ。コントロールなんか気にしないで思いっきり投げてみろ」
さっきとはスピード感が断然増した。
「3回ぐらいは持ちそうな球威だね」
「ああ。そうだな。あんちゃんもういいよ。ありがとう。ごくろうさん。悪いけど安藤呼んできてくれねーか?」
「あいつだったら悠太とどこかに出かけてますよ」
前田は帽子をとり一礼すると部室に戻っていった。
「2人にお使い行かせてるの、すっかり忘れてた」
「悠太って頼りない感じするけど大丈夫かよ」
「あいつは何かと『持ってるヤツ』だよ。今頃全力で安藤のメンタルフォローしてると思うよ。力を抜く子ではないからいろいろ任せて平気だから」
2人は野球部費を持たされ徒歩で市内のホームセンターへ来ている。
まだ愛子に頼まれた物を探しておらずペットコーナーに寄り道していた。
「安藤君。安田に厳しくやられてて辛かったろう」
「できない僕が悪いんですから」
「野球部ちゃんと続けてて偉いな。俺なんかここ入学して入部した吹奏楽部3日でやめちゃったよ」
「ははは」
「俺はカワイイ女子の臭い部分や外部に出たものを想像して自宅でシコシコしてる方が楽だな」
「悠太君て真面目な印象だったけど面白いんだね」
2人は外国産のカエルが入ったケースを中腰で観ている。
水草が見事で悠太はそのエネルギーを取り入れるイメージをすると鼻から深く吸い込みネガティブな重い空気を細くゆっくりと吐き出した。




