タイムマシンは要らない
楽器店から少し歩いて「90度に曲がる道」の所に来た。
「ほれ」
悠太は愛子からギターケースを手渡された。
彼は、すれ違う人間に「バンドやってます」と凛々しい顔をつくった。
ビギナーの高校生にしては良いギターを持っている。
そして、かわいい愛子を連れて。
「なに格好つけてんの?」
「そう見える?」
「うん。ギター弾いてみなよ」
「ここで?俺ギター弾いたことないって言ったよね?」
「適当にかきならして、うたってみてよ」
彼女は何を言っているのか。
気付くと愛子の丁度良く肉が付いた素敵な足をみていた。
あなたの唾が欲しい。
彼女から出るものすべて。
俺の手を受け皿にするから、あなたが臭いと思う物、全部ここに出して下さい。
ねばねばは、どんな匂いで、どのぐらいのびますか?
彼のストレートな気持ちを、どんな曲に変換できるだろう?
自分は無駄にプライドが高く、体裁ばかり気にして生きてきた。
このままでは、本当の人生を歩めない。
人の評価はどうでもいい。
何の準備もせずに、一つの作品を完成させよう。
愛子が生理現象により排出する「ぶつ」は体調により様々な形となる。
一般的に屈折しているといわれる彼の様な人間にとっては「芸術作品」である。
彼は一人、下半身から発せられる信号を処理する時は、まだ見たくてもみれない、その「作品」を思い浮かべた。
彼はこの行為を「拍手」とよぶ。
2階に歯医者が入る建物を正面に、そこから直角に右折している。
急カーブは元城下町の造りの名残である。
幼児の頃いつも嫌々泣きながらそこに通院していたのを思い出す。
過去・現在、今いる道には私の色々な気持ちが。
地球の年齢と比べたら、昔も今も同じ時系列の出来事。
だから始めることに早い遅いは無いのだ。
彼女が脱糞するがごとく、創作意欲を自然な気持ちで形にしなければ彼は救われない。
結果を求めて、誰かの評価を気にするのは、もうやめよう。
悠太はケースからエレキを取り出すと、恐る恐る弦を右手の親指で弾いた。