魂の男、悠太。野に咲く花になりたい。
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「何かもう一つ二つ足りない残念な街だよね」
愛子が言う。
突風がふき、彼女のシャツが膨らむと、あたりに甘い香りが漂った。
気づかれない程度に彼女の体のラインを目で追い、裸の姿を想像してみる。
女性の下半身の毛はイメージしやすいのだが、なぜ胸の形は彼の頭の中でスケルトンに浮かび上がらないのだろうか。
2人は、市内にある観光地の一つである城を左に見ながら、目的地である陸上競技場に向かっている。
「市内の高校が甲子園に出場するとか、ドラマの舞台になるとか何かあればね」
彼が答える。
歴史の深さなど京都に比べてしまうと全くない。
人が集まらないと悪いことをする人間が外から入ってくる可能性も低くなるので、それはそれで良いと思う。
中学の時クラスの男友達に誘われて、大日本プロレスを観に行き、今は亡きハヤブサに魅了された。
ロープを越えて場外にムーンサルトで敵に技をかける姿は彼の目に焼き付いている。
今思えば、地方の興行なのに手を抜かず全力でやっていたのだろう。
「ハヤブサの空中殺法はすごいよね。運動神経がすごく良いから」
優香は目を輝かせて言った。
「ハヤブサはハヤブサで良いんだけど、やっぱ俺はグレート・ムタが好きだな。解説者が、まずいですよ、完全にムタのペースです、って言うじゃん。静と動のメリハリがあり、とらえどころのないムタのキャラクター勝ちだよ」
生まれて初めて、プロレス好きな女子と出会い、彼も興奮している。
「うちらの市は京都とかと比べるとブランド力で劣るよね。それは仕方ないけど、全力で郷土愛を持ち、旅行客を呼ぶ努力はすべきだと思うんだ」
愛子の言う通りだ。
自分そうすべきだと悠太は思った。
目の前のひとつひとつのことに全力で取り組み、前に進んでいくしかない。
奥田民生さんや武藤敬司さんみたいに、いつかはなりたいと思う。
いつかは、なれるんだぜと思う。
愛子の存在は彼の人生を変えてくれた。
ただいてくれるだけでいい。
できれば目の前で脱糞してほしいが、それはおそらく彼女に頼めないだろう。
愛子は中学の時、いじめっ子であるヒールをやっつけるヒーローだった。
いじめられっ子を救いたい。
その大我の気持ちが彼女にはある。
悠太は自分のことしか考えてない、ただの変態である。
人の役に立ちたい。
人を喜ばせたい。
悠太に足りないのは、そんなホスピタリティマインドだと思う。
彼女に自分の心の中を読まれている気がする。
悠太は自分が恥ずかしくなった。
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