スペースローリングエルボーからのフェイスクラッシャー
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「お前愛子と付き合ってんの?」
サッカー部の橋本だ。
初めてちゃんと会話をする。
悠太はメジャーリーグに昇格した気分になっている。
何人かの女子にも同じ様な事を聞かれた。
友達だよと答えておく。
悠太は心の中で女子たちに語りかける。
普段どんな「くそ」を便器に出してる?
愛子は机に突っ伏して寝ている。
彼女に話しかける者は見なかった。
中学時代、彼女が、男子を泣かせた伝説は悠太も知っている。
彼女はプロレス好きで、何人かのいじめっ子の男子に強烈な技をかけ、中には不登校になってしまった者もいる様だ。
なかなか近寄りがたい女である。
今日の放課後も悠太と会う約束をしている。
彼は奥田民生さんの様に自然体で、すごい事ができるわけではない。
何事にも全力で謙虚に取り組もう。
新しい男になったのだから。
「先に行ってて。校門のとこで待ち合わせね」
授業が終わり、彼女は彼の所へ来てそう告げると、トイレに向かった様だ。
悠太は机の中の荷物をリュックにしまうと玄関へと向かった。
「じゃあお先です」
笑顔で丁寧にお辞儀する。
男子だけでつるんでる者たちは気の毒だと思った。
いやそんなこと思ってはいけない。
人は人それぞれで、男グループが心地良いのだ。
自分は全力で生きることに集中すれば良い。
新しい男になったのだから。
愛子は脱糞してるのだろうか。
彼は全力でクソフェチのままで良い。
彼は彼女の「臭くても良いモノ」を想像しながら、鼻息を荒くして「こうもん」へと向かう。
何かの花並木から モアっと濃い香りがする。
おそらく愛子の糞の香りに近い。
校門で数組の同じクラスの女子の帰りを見送った。
「愛子とデート?」
「そう」
彼は笑顔で手を振り返した。
数日前までは無視され、いじめられていたが、彼が変われば周りも変わるのだ。
そうです。
私は女性の臭いものが好きです。
目の前で出されたら嫌かもしれません。
臭くても良い。
手の上に出されて後悔してみたい気持ちです。
プライドを捨てて自分の弱さを認めた新しい男はとことん強いのだ。
校舎から愛子が歩いてくるのが見える。
今日はサバサバしてなく笑顔だ。
「お待たせごめんごめん。悠太プロレス好きだったんだ。話せるのがいて嬉しくてさ。みちプロとかよく来るさ、陸上競技場の所まで歩こうよ」
「こっから結構歩くでしょう」
彼が言うと
「全然大丈夫」
そう言うと、愛子は学校前の道路を横切り斜向かいにある文房具店の扉を開けると彼にも手招きし、来いと言っている。
「友達が言いたいことがあるそうで」
彼女がそう言って彼を見た。
「儲かってますか?いい仕事しますね」
「おかげさまで。ほらみんなに買ってもらうだけじゃなく、周りの学校にも商品おろさせてもらってるからさ。なんとかやっていけてますよ。ありがとう」
店主の50過ぎの男は笑顔で出て行く二人を見送った。
「私は武藤が好きなんだけどさ。武藤の技って人にかけにくくて。本当はスペースローリングエルボーからのフェイスクラッシャー決めたいけど、実際は橋本真也キックからの首にしょうていして相手がひるんだところへ金的蹴りが多かったな」
彼女は中学の頃に自分がした事を言ってるのだろう。
「武藤の技は芸術的だよね。見た感じシンプルなんだけど」
彼は愛子の言葉にはあまり深く触れない様にして言い返した。
「そうそう。ムタはムタでいいよね。独特の世界観があって」
そう言うと彼女はしばらく歩いた所にあるクリーニング店を指差した。
「さあ飛び込もう。アドリブで気の利いた面白い事を言ってみよう。高田純次力を磨こう」
悠太はクリーニング店の引き戸を開けた。
新しい男はひるんではいけない。
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