ダルマの裏に目があっても
ご覧頂き、ありがとうございます。
「18時になるよ。電車大丈夫?」
悠太は辺りが薄暗くなるのを望んでいた。
愛子に手を出す勇気は持ち合わせてないのだが。
彼女は電車通学である。
「どうしようかな。帰ってほしい?」
「もっと一緒にいたい。けど親だって心配するだろうし、帰り道も危なくなるから」
「最寄駅に親が車で迎えに来てくれるから平気だけど」
さっきよりますます彼女からは、つーんと良い香りがする。
彼女がかいてる汗のためか、ひょっとしたら下半身の「あれ」も、こんなにおいだとしたら。
臭くても良い。
臭いのが良い。
今日は彼女と初めてのデートで、幸せであるが、相当神経も使った。
自分をよく見せたい、嫌われたくないから、言動には気を配ったつもりだ。
だが、彼女は彼に多くを望んでいない様子である。
ただ全力で生きて欲しいと言われた。
気が付くと正面に見える城がスポットライトで照らされている。
職人が、市の名産品「ダルマ」に筆を手際よく入れているのがウィンドウから見えた。
唐突に彼女は扉を引いて、中に入って行った。
「いい仕事しますね」
愛子は玄関にあった小さなダルマを手に取って言った。
「おお。びっくりした。嬉しいね。しかもこんな綺麗な娘に。なかなか若い人が興味持たない世界だからね。こうやって道行く人に仕事してるとこ、あえて見せてるんだけど」
ダルマ職人がしゃべると
「失礼致しました」
彼女はダルマを置くと、すぐ扉を閉めた
中で職人が目を丸くして、口の形が「馬鹿野郎」と言っている。
「急にどうしたの?」
彼が聞くと彼女は
「ダルマの裏に目玉のシール貼ってきた。都市伝説であるでしょう。ピラミッドの目。心理的にあの職人の空間も私の一部になって、また行きやすくなるでしょ。何も白目に黒目を書き込むばかりが、ダルマじゃない」
「また行きやすくなるかな?」
彼は笑う。
俗にいう「痛い子」かもしれないが、見た目はクールでキレイだから、パッと見は分からない。
高校では彼女は、ある意味恐れられていて、誰かと会話という会話をしてる所を見たことがない。
だが彼には心を開いてる様だ。
彼は優越感を感じた。
彼女に対する敷居もだいぶ低くなった。
「駅まで送らせて」
彼は自販機の前で彼女に何を飲みたいか聞いた。
「なっちゃんの、りんご」
彼は、なっちゃんを彼女に、続けて自分にBOSSのコーヒーを買った。
自販機から入れた硬貨が一度も返されず、2本とも買えた。
よく硬貨が認識されず返ってきてしまうことがある。
ささやかな幸せ。
ありがとう。
自動販売機さん。
現代の自販機はsuicaなどが主流だが、昔は100%現金のみだった。
高校生活は、お金をかけずシンプルに楽しめる。
彼女は太ももをかいた。
その手つきも彼にとったら、いやらしく感じる。
とたんに彼のパンツの中は窮屈になる。
「市内の陸上競技場わかる?その隣りに体育館あるでしょう?中学2年の時、友達と大日本プロレスみに行ったんだ。明日はその辺、散歩しようよ」
軽く鼻息を荒くしながら、彼女を誘った。
目の前でみたプロレスラー、ハヤブサの空中殺法は、今でも思い出せる。
リングの外へと軽々と宙に舞う姿は美しかった。
「おう。大日本プロレスか。私もプロレス好きだよ。全力でガイドしろよ」
先日Yシャツの下に、プロレスラー西村修の「無我」という文字がプリントされたTシャツを着てきてしまい、クラスの人間にコソコソ笑われ馬鹿にされたことなど、もはやどうでもよかった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
感謝します。