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無常観

山本悠太が、進学校であるS高校に入学できるとは誰も思っていなかった。


中学2年から、クラスの女子に、いじめられた経験が、きっかけで自暴自棄となり、故意に勉強せず成績を下げた。


こういう時、教師は思った様に心配してかまってくれないものである。


美術の時間、課題の作品を完成させず、廊下の流し台でパレットに付いた絵具をタワシでおとし続けていた記憶もある。


同窓会で当時のクラスメイトに会うと「悠太、お前あれはヤバかったよ」と大笑いされるエピソードが結構あるのだ。


本気で取り組んだこともある。


美術の授業で定規をつかってポップ文字を作成したことを応用して農協か何かの米食促進のポスターを描く課題があった。


背景は紫色にして、青色の茶碗に山盛りの米粒の輪郭を黒で表現したため、うす汚れた白になった。


キャッチコピーは「ほんとに、うまい」にしたが、「まずそう」とクラスの人間の笑いをとれたことは、彼にとって結果成功だった。


物心ついた時から発症している強迫性障害の影響で、牛舎の風景画を描く課題では、数日、何時間もかけてトラクターのタイヤを完成させるため、絵具を塗り続けていた。


どれだけタイヤに絵具を上塗りしても彼にとって不完全で納得できないまま提出期限がきてしまう。


結局、牛や小屋は下書きのまま、タイヤのみ色を付けただけだった。


意外にも学校内のコンテストで銅賞をとれたことは彼自身もそうだが、周りを驚かせた。


「相当試行錯誤しないと、こんなに絵具で厚みのあるタイヤにはならないわよね」


当時の美術担当の女教師、菊田は今思えば唯一、彼の良き理解者・恩人であるに違いない。


彼は日本史が好きで、織田信長が噂通りの「うつけもの」ではなく、豊臣秀吉の「下克上」は痛快なので、誰も予想しない進学校入学を目標にするのだった。


2年の3学期、英語は1年の基礎からやり直し、独学の猛勉強で、3年になると外部業者のテストによる希望校の合格判定はBも増えてきた。


彼はいじめられなくなり、加害者の女子の1人に好きだと告白されることもあった。


高校入学試験の前日、定期的に彼の家の飼い犬に吠えに来る野良犬を金属バットで叩くために、自転車に乗って追いかけ実行したが空振りに終わり転げ落ち、擦り傷で数ヵ所、血だらけになる。


当日は自信か開き直りからくるのか、井上陽水奥田民生の『ありがとう』が頭の中でエンドレスのまま楽しんで受験した。


結果は「合格」で親や身内、周囲の予想を覆すのである。


高校に入学すると、なぜか人気者になり、「かわいい」「天然」ということで、その年の文化祭で『山本一座』として彼が主人公のショート映画を撮った。


「山さんがしゃべる時の言葉選びってセンスあるよね。間も良いんだよな」


担任の男教師、佐久間によると、そういうことだった。


2年になると担任はかわらなかったが、文系か理系かによるクラス替えをした。


彼の人気を面白くなく思う者もいるだろうし調子に乗らず、おとなしくいこう。


悠太の強迫神経症の症状が悪化し、他者の目を気にする被害妄想による慎重な判断だった。


それが裏目に出てしまい、まさか、高校でもいじめられてしまうのである。


周りから見るとクラス替えが面白くないとうつった様で


「山さんて無常観か?」


担任の佐久間にそう言われて辞書で調べてみる。


無視されたり、陰口を言われるだけだったが、彼の神経症のフィルターを通すと何倍にもなって被害被るため、休んだり、リストカットするまでになった。


「自己紹介って大事だよね。最初、佐久間がみんなに自己紹介の時間くれたじゃん。山本君のは、酷かったな。あれはないな。時間戻れば、やり直したいって思ってるでしょう。」


彼の窮地に話しかけた女がいた。


1年から引き続き同じクラスとなった尾城愛子である。

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