2章(2)・出会い
数秒後――――。
ドゴッ。ズザッ、ガガガッ。
不思議な衝突音が森の中に響き渡った。
「あっ!?……痛っ!いたいっ……痛いっ!!」
ズザアァァァァァァ。
僕は軽い衝撃の後、ざらりとした坂道の上をされるがままに転がっていた。
ぐるん、ぐるん。
その感触は柔らかだったが、肩や背中がこすれて痛い。
ザァァァァァァ。
「痛っ!いたいっいたいっ!!」
そんな風に回転しながら、どうやら螺旋状に転がっているみたいだった。
ズザアァァァ。
しばらくして、ようやく体の回転が止まる。
「痛ってぇ……、どうなってるんだ一体……」
僕は髪の乱れたおかしな体勢から、無理やり体を起こそうとする。
無茶な回転のせいで視界はグネグネとしたまま。
と、今度は茶色い地面がにゅるりと動く。
「うわっ!」
ちょっとした段差の上から、僕は再び落下した。
「きゃあっ!?」
自分の声のすぐ後ろから、少し高めの可愛い声が追いかけてくる。
ドサッ。
どうやら僕は、結局誰かの上に落ちてしまったみたいだった。
ハァ、ハァ……。
何が起きているのか、自分でも全く分からない。
しかし……、人間はあがく生き物らしい。僕はこんな時でも必死だった。
「何なんだよもう……」
クラクラした頭で、反射的にもう一度手を付き、起き上がろうとする。
ムニュ――。
「ひゃッ!?」
!?
ムニュリ。
あっ……、これってもしかして……。
僕は両手に掴んだその柔らかい弾力を感じながら、今度は一瞬で今の状況を把握した。
あぁ……何だかすごく嫌な予感がする……。
人間には、未知の状況下でも本能的に分かってしまう事があったみたいだ。
ムニュリ。
恐る恐る、ゆっくりと視線だけ下側へ向ける。
…………。
女の子――。それは小さな体の女の子だった。
民族衣装のようなマント。
そしてマントの切れ目から、お腹や足がはみ出している。
僕が上から押し倒したような体勢だ――。
…………。
ゆっくりと視線が交わる。
「えぇぇ……」
彼女は涙目になってこちらを見ながら、困惑した声を発した。
何が起きているのか全く分かっていない感じ。
なるほど……、そりゃあそうでしょう。僕もこんな状況になれば、きっとそんな表情と声になる。
僕の右手と左手は、それぞれ彼女のあんなトコロとそんなトコロを、ガッツリと鷲掴みにしていたのだった。
なんてことだ……。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
僕は驚きの余り悲鳴を上げて、後ろにのけぞり尻もちを付く。
が、さらにその手を滑らせて、でんぐり返しのように後ろ向きに転がった。
ゴロン。
そして、そのでんぐり返しの途中で何かにぶつかり回転が止まってしまう。いわゆる、大股開きみたいな格好――。
僕は自分の両足の間から、ぶつかってしまった後ろの何かを見上げてみた。僕の後ろにあった、その大きな何かを――。
「ぎゃああああああああ!」
僕はその不気味な存在自体に驚いて、さらなる悲鳴を上げてしまう。
何だ、この生物……。
その大きな何かは茶色い泥の塊で、こちらをじっと観察するように眺めていた。
不思議で奇抜な見た目の生き物――。
「そなだ…との……約束ば、果たされた。そなだと…また良き縁ぐぁ……あらんこと…ぼ……」
そういって、不気味な顔の何かがぬるりと消えていく。
「約束……?」
意味が分からず、大股開きのポーズのままポカンとした顔をしていた。
乾いた泥のかけらが、パラパラと僕の頭の上に降りかかる。
…………。
おそらく、僕はとびっきり間抜けな表情でその泥の塊を見送っていたのだろう……。
「フフ……、フフフ……。大丈夫?きみ……」
しばらくしてクスクスとした笑い声と共に、さっきの女の子が声を掛けてきた。
僕はチラリと視線を向ける。
少女の方を見ると、さっきの驚いた顔とは違ってとても緩んだ表情だった。
可愛い――。16歳くらいかな……。
背は低いけれど、雰囲気でそれくらいの年頃に見える。
緑がかったアッシュっぽい茶色の髪が、太陽の日差しでキラキラと輝いて見える。
「フフッ……どうにかね」
僕は何が何だか分からないまま、そのままのポーズで返事をする。
女の子の様子にホッとしたのか、僕もつられて笑ってしまった。
どうやら、僕に悪気が無いこと、悪人では無いことだけは伝わったらしい。
ゴロン。
起き上がって、改めて自分の怪我を確認する。
奇跡的なことに、どこにも痛みは無い。
「怪我は……、そのっ……そっちは大丈夫?」
僕は少しドギマギしながら、その女の子に聞いてみる。
「私……?フフフ、ありがとう。私は、ボビさんが守ってくれたから」
「ボビさん?」
「さっきの茶色いおっきな子」
彼女は、女の子座りになって、人差し指をすっと僕の頭上に向けた。
「あぁ、あれボビさんっていうんだ」
例の泥の塊の名前らしい――。
「知り合い……なの?」
自分でも変だと思ったが、よく分からないままよく分からない質問をした。
「えっ……?フフ、まぁ、そんなところかな」
よほど変な質問だったのか、彼女はコロコロと笑いながら答えた。
妖精みたいな、元気で優しい女の子だ。
「ねぇ、ところで君はどこから来たの?君は空から落ちて来たよね?」
女の子は不思議そうに僕に尋ねた。




