9、アイの受難
異世界の現実を初体験した転生者アイにさらなる試練が
「はい、これ。さっきのイノシシの肉を焼いたものだよー」
「焼肉?・・何これ、臭っ!!」
「ははは。日本のスーパーで売ってる食肉を基準にするの止めようね」
「だって、こんなの無理よ、食べれないよぅ」
そうだね・・肉の焼けた匂いに雑じって獣臭い臭いが無視できないレベルで漂ってくるね。うんうん。
日本の店頭に並ぶ食肉は野獣では無く家畜だ。
しかもエサから管理されて肉に匂いが無いように改良され育てられた家畜だ。
むこうの世界でも野生動物の肉はかなりクセが有る。
以前、テレビで海外のサバイバル番組を見た。
レポーター?の男性が「スカンク」を狩って焚き火で焼いて食べるという冒険?に挑戦をしていた。
彼は泣きそうな顔で焼けた肉を無理やり一口食べた。
いや、口に入れただけでキラキラーとリバースしていた。
無理も無い。
スカンクの肉は完璧に処理してもウン○の臭いがするらしい。
ウ○コを口に運ぶ恐ろしさ・・・なむなむ。
回想終わり・・と
「これでも死んだ直後に血抜きして処理は完璧だぞ」
「信じられない、・・異世界のお肉は美味しいっていうのが常識じゃないの。ドラゴンとかオークとか」
「うん、それって たぶんコレより酷い匂いだと思う」
「・・・・・・・・・・・・」
とうとう言葉も出なくなったアイちゃん。
夢を壊して可愛そうなんだけどね。
しかし、この世界なら子供でも知っている常識だ。
知らないで冒険に出てしまっては悲惨な事になる。
うんうん。
「ついでに教えておくけど、物語では野外で調理するときに山菜を集めてきて使うだろ。でも山菜っていきなり調理なんてしたら苦くてシブくて食べられたものじゃないからね」
「えーっ、・・そっちもなの」
いや、驚く事か?。日本の山菜だって同じだぞ。
食べるまでにアク取りなど大変な手間隙がかかってやっと美味しく食べられる。
(例外も有る。まだ若いフキとかタラの芽、ウドの若葉なんかはテンプラとか油炒めなら美味しい。しかし、冒険してるのに野外でそんな調理法は困難だろう)
野菜ですら改良する前の品種はクサさ、エグさがものすごかった。昔のビーマンなんて臭いのなんの・・。
「という訳で冒険者になったら野外の食事は(運が良くて獲物が手に入っても)この臭い焼き肉だ。しかも解体している間も虫がワラワラと集ってくる」
「ぐすっ、冒険者嫌い」
じぃーーーーーーーーっ
いやシリアさんや、冷たい目で殺気を向けないでね。
苛めている訳じゃないんだよ。
冒険者になれば護衛もある。
アイに人殺しなんてさせたくないだろ。
オレ達は沢山殺したけどな。
ゲームオーバーさせただけと理解しているから少しは気が楽だけど以前の自分だったら出来なかった。
「もう一生美味しいお肉は食べられないの・・転生なんてしなきゃ良かった」
「あっ、街の中ならその点は心配無いぞ。
肉屋が臭みやアク取りのスキルを持ってるから」
「ひどーい!。この焼肉は嫌がらせなのね」
「いや、冒険者はそんなスキル持ってないって」
まぁ、ソレハトモカクだ。
「オレが冒険者にならない理由分かっただろ。冒険者は キツイ、汚い、臭い、危険 という4K職業だ。せっかく生まれ変わったのにそんな仕事に就きたく無いよ」
「でも・・最初はヒノキの棒から伸し上がって最後は最強装備で魔王討伐じゃないとロマンが無いもん」
「魔王?、もう倒したし」
シリアがだけど。
魔族の都市に暮らす人々を全滅させてレベルを爆上げした勇者一行を殺した魔王、さぞレベルも高かっただろう。それを瞬殺したシリア、まじパネェ・・だな。
ちなみにその時の経験値は全てオレに振り込まれた。
今のオレって最強レベルらしい・・寄生虫です。はい
「・・・・・驚いた、本当の話だったの?。
でも、装備は欲しいよね、ねっ!」
「最強装備・・たぶん持ってるよ、ストレージに。多すぎて整理してないけど」
「むうぅ・・じゃあ、それ売って大金持ちになろう」
「お金なら有るよ。国家予算レベルで」
「おのれー・・・・・・・・・・・」
「あー確かに、こうして考えるとコンプリートってやつだ」ははは
「こっ・・」
「こ?」
「この、チート野郎ぉぉぉぉ」
テンプレで理不尽なコメントいただきました。
チートと言うよりは運が良かっただけです。
「お金持ちなら豪邸に住もうよ。日本人の夢だよ」
「言いたい事は分かるけど、実行はしない」キリッ
その点は同意する。ほんと日本人の夢だよ
狭い日本の国土に欧米並みに豪華な豪邸など夢の中の夢だからね。
しかも下手にお金持ちに成ろうものなら税金でガバガバ取られるから維持費を用意するのも大変だ。
ちなみに日本の大金持ちは目立たない豪邸を作るのが上手だ。
「えーっ、成りあがろうよぅ。どうして貧乏してるの」
「そりゃあ、いかにも大金持ちだなんて見せびらかしたらロクでもないのが集まって来るだろうが。王族とか貴族とか領主とかアウトローな職業の人とか。平穏な生活なんて有り得ないぞ」
「んー、それは分かるけど・・せめて日本にいた時の便利さは欲しいよ。この家は新しいみたいだから少しはマシなんだろうけど、トイレとかお風呂とかチートで何とかして」
「まぁ、そう慌てるな。今日生まれたばかりなんだぞ。
まずは色々な情報、だろ」
「そっか・・そうだね。でも、これだけは言わせて」
「ん?」
「お腹すいた・・」
この後 アイはシリアが用意していた穀物で作ったお粥を食べて朝まで眠りについた。
不安や緊張などから来る疲れと急なレベル上げで体が休養を求めていたのだろう。
「ねぇ、タイジ・・・。
母さまに奥の本宅のこと教えなくて良いの?」
「まだダメだよ。あの子が夢を追って他に行く可能性も高いからね。もう少し様子を見ようか」
会話を聞いて分かるように我が家には秘密が有る。
簡単な事だ。
王侯貴族よりも贅沢な生活をしていても良いのだ。
そう見えなければ良いだけだ。
人々の目に「我が家が庶民の生活をしている」ように見えさえすれば何の問題も無いのだ。