4、魔王城
ここは魔王城なんだとさ。
そして勇者でも無いのにそんな場所で死に掛けたオレ。
オレが召喚したらしい少女シリアは魔王を瞬殺する桁外れの戦闘力を持っているが回復魔法は使えない。
どうしたものか・・
「マスター、HPがレッドゾーンに達していて危険です。ポーションを摂取することをおススメします」
悩んでいた自分にゲーム的な解決案を提示してくるシリア。ますますRPGしている気分に成る。
しかし、ポーションどころか何一つ持っていないぞ・・
「インベントリーをご確認ください。マスターが転移の際に強く望まれましたのはオンラインゲームのプレイ継続でした。全てでは有りませんがゲーム仕様として再現できる能力は引き継ぐ事ができています」
マジかーーー?!
インベントリーを意識するとウインドウが表示された。本当に有ったよ愛しの宝の倉庫。
内容を確認していくと見覚えのあるアイテムが並んでいた。やはり超絶な性能を持った武器や防具なんかは失われている。エリクサーなんていう伝説レベルの薬は残っているから消えたアイテムはゲームバランスうんぬんでは無く、単純に再現できなかったと見るべきかな。
とりあえず上級のポーションを飲んでみる。
ゲームのポーションが現実になるとこんな感じなのか。
体全体がうっすらと輝きだし、全ての痛覚が消えたように痛みも無くなり、そして骨折していただろう腕も元通りに修復されていく。
手足が動く事を確認して立ち上がるが、ズボンが血まみれで重く非情に気持ち悪い。
とりあえず手ごろな装備に着替えるしかないな。
当然、かどうかは知らないがプレイしていたRPGには下着の装備は無かった。
装備の下はノーパンかよ・・情け無いなぁ。
装備変更のウインドウは表示されない。
普通に着替えなくてはならないらしい。
「マスターの状態を確認。湯潅の作業に移行します」
「えっ?。何それ・・うあっ」
一瞬で素っ裸にされると体中を冷たい布で清拭されていく。見た目は15歳の少女にそんな事されると恥ずかしいなんてものじゃない。
「や、やめ・・くすぐったいって。というか、消毒薬臭いんですけど・・オレって死体扱いなんですか?」
ゾッとしたお陰で彼女に男の反応をしなくて済んだ。危なかった・・
何処から出したのか白衣や棺おけまで用意しだしたので急いで戦闘用の防具を身に付ける。
ゲームスタッフの皆さん・・いくら個性的なキャラを作りたいからってこんな変なプログラムにしなくても良いと思う。
シリアさん、残念そうな顔をしないでくれ。
ソレハトモカク
良くも悪くも彼女が居なければ死んでいた。
まだ魔族の残党が居るはずだし、とりあえず片手剣と盾を装備してみる。いい年して心が躍るのを感じる。
さてと・・
死体が転がる凄惨な現場はそのままだ。
死んだ全員がRMTと契約したチート野朗とは限らないが、少なくても勇者はそれだな。
彼が持っていた光る剣、おそらく聖剣なんだろう。
美しく、それでいて恐ろしい力を秘めているのが感じられる。そう、何故分かるのか知らないが確かに感じられるほど凄い武器である。これも裏の業者が不正なプログラムを使って作り上げた物だろう。
他の死体の側に転がる武器や血で汚れている防具も一目で破格の性能を持つ装備だと感じる。
それでも魔王に負けたけどな。
「勇者パーティ・・か。なるほどだな」
「マスター、これからいかがなさいますか?」
「魔王と同じように彼らも火葬してあげてほしい。シリアにしか出来ない仕事だ」
「!!、はいっ、承りました。では遺品を回収しましょう」
「いや、この装備は彼らの魂だ、一緒に送ってやろう」
シリアは喜々として勇者パーティを燃やしていく。
何故か火葬なのに一切の炎は出ていない。
僅かな時間で彼らは塵のような骨だけ残して姿を消す。
そして、本来なら決して破壊されないであろう聖剣も他の武器、防具も見事に焼かれて煤けたガラクタに変わっていた。
おそらく売ればとんでもない値段だろうが、逆に凄すぎて値段が付かないだろう。むしろ売り出すことで敵にオレの存在が知られてしまうから最悪手だ。
破格の装備だけに 勇者パーティが失敗しても装備だけは無事に回収できるシステムすら有るかも知れない。
ここで処分してしまうのが最善だろう。
RMT業者にとっては大損害だ。ザマァ
火葬が済んで少し静かだったシリアだが、急にキラキラした目でこちらを見てくる。
「凄いです、マスター。この城には私たち以外では1人しか生存者が居ません。死体だらけです。葬儀しまくりです」
「それを調べてたのか。しかし、マジかよ」
勇者達が殺しまくったのか?。
いや、いくらチートでもそんな事したら本命の魔王討伐の前に疲れ切ってしまうだろ。そもそも城に入る前にだって城下町は有るし魔族は居ただろうに。ゲームとは違うんだ、どうやって此処までたどり着けたんだ?。
「とりあえずこの城から・・いや、魔族の勢力圏から脱出しようか」
「でしたらマスター、その前に城の宝物庫から遺産分与してもらいましょう」
そんな事にまで変な用語使わないで欲しい。
しかし、宝物庫か・・ゲーム的にワクワクするな。
あっ、でも・・
宝箱にアイテム一つだけ、とかは止めて欲しい。
シリアが先頭に立って迷い無く宝物庫までの案内をしてくれる。
その途中ですら多くの魔族が死んでいた。
全員が人間にしか見えない姿をしている。
そしてどの死体にもキズらしきものは無い。
戦った痕跡すら無い。何故死んだのだ?
明らかに非戦闘員であろう子供の姿には思わず手を合わせてしまう。犯人ではないのに罪悪感が半端無い。
その全てをシリアが丁寧に荼毘に付していく。
宝物庫には簡単に入る事ができた。
カギらしき仕掛けが見当たらないし、魔法で封印されていたのかも知れない。
開いたのは術者が死んだからだろう。
「これは・・さすがに城の宝物庫だな」
まさに宝の山である。
考えてみれば、国家を支える資金なのだから多くて当然だろうか。
貨幣だけでも箱で積み重ねられているし、見ただけで宝物と分かる武器防具やアイテムがキッチリと整理されて収められている。
「マスターはそちらの貨幣を回収していただけますか。その間に安全なアイテムだけを選別させていただきます」
「と言う事は、危険なアイテムもあるのか?」
「はい。正確には魔族と呼ばれている人々以外の者では使用に耐えられないアイテムと言った方が正しいでしょう」
聞きたい事は山ほど有るがとりあえず保留にした。
金貨、銀貨の詰まった重い宝箱をオレの宝物庫、ストレージに収納していく。
この中の全てが人間社会で使えるか不明だが、それでも遊んで暮らせるだけの資金は有るだろう。
でだ、バカな奴はいい気に成って大金を使い、権力者や商人、裏社会から目を付けられて遊んで暮らすどころか命がけで逃げ出す羽目になる訳だ。
シリアが選別した安全なアイテムは全体のほんの一部でしかないが、それでもかなりの量になる。
これらをどう使うか難しいところだが後で考えるとして全て収納した。うん・・楽しい・・
「ところで、俺達以外で生きている1人って何処だ?。魔王の娘が定番だけど・・」
「どのような存在かは分かりかねますが、もう直ぐ見えて来るでしょう。・・・アレですね」
巨大な石の柱にもたれかかってグッタリとしているのは宗教的な純白のローブ?を身に付けた少女。
豪華な杖を大切に抱きかかえて苦しそうに呼吸をしている。どう見ても勇者パーティのヒーラーだろう。
ということは、勇者達はヒーラー使えないのに魔王に挑んだのかよ。大バカだろ。そりゃあ全滅もするさ。
オレとシリアが近づいたのに気が付いたのか少しだけ怯えたように動くが弱りきっているのか後ずさる力も無いらしい。