3、ダストシュートから地獄へ
オレは今 醜悪な男たちに引きづられている。
騎士どもに散々容赦の無い殴る蹴るの暴行を受け、顔は腫れ上がり 手足も動かせない。痛みは有るので失ってはいないのだろうが骨折は確実だろう。
かろうじて見える片目の狭い視界に暗い石造りの廊下が流れていく。地下なのだろうか?荒削りの床はゴリゴリとオレの背中にダメージを与えている。
この場に居るのはオレの両腕を掴んで引きずる男2人と諸悪の根源である野田哲夫だ。
奴はニタニタと気持ち悪い顔をしながら満身創痍なオレを見下ろしていた。心底ゲスな性格をしている。
せっかく異世界に来たのにこのまま処刑だろうか。
雰囲気的には拷問でもされそうだが、どちらにしても悲惨な結末になるだろう。
ログアウトして本当のリアルに戻ったらこのガキの本体を探し出してブチ殺してやろう。
どうやら目的の場所に着いたらしいのだが、何やら酷い臭いがする。鼻血まみれの鼻でも分かるほどだから強烈な臭いのはずである。
「うはっ、クッセー。まさに田中セ・ン・パ・イにはピッタリな場所だぜ」
キサマの頭の中よりはマシだろうぜ。
言い返したいが口が腫れ上がって動かせない。くそっ
「ここはこの城のゴミ捨て場だよ。見えないだろうけど、今居るその場所は転移魔法陣の上なんだよね。ゴミは魔族の国が有る地域に捨てられる仕組みなのさ。無能なセンパイは要らないからゴミと一緒に捨ててしまおうと思ってね」
この世界の人間は最低だな。
いや、たぶんこの城の奴等が最低なのだろう。
ゴミを他国に投げ捨てるのかよ、そりゃあ魔族じゃなくても怒り狂うだろうぜ。
「感謝して欲しいね、即刻処刑でも良いのに生き残るチャンスを与えてあげるんだからさ。ははは。
ラノベで流行ってたじゃん、追放されて伸し上がる物語。主人公に成れるぜ、良かったな クソ先輩」
なるほど、だから生き残れないようにボロボロにしてくれた訳か。魔族の国と言うからには五体満足な体でも生き残れる可能性は殆ど無いだろう。こんな体では無事に?生きて転移出来たとしても動く事も出来ず殺されるだけだ。むしろ生きたまま食われる可能性すら有るか。
「くやしいだろ♡。雑魚プレイヤーの末路なんてそんなものさ。ボクはそんなのごめんだね。
チートな立場を得る為にリアルのボクがどれほど散財したことか。この城の人々はそういう向上心の有るプレイヤーをサポートしてくれるプロなのさ。とりあえず勇者にでも成って魔王の財産でも手に入れてハーレムでも作ろうかな。きゃはは」
何が向上心だ、クソヤロウが。
オレの悔しそうな顔が嬉しいのか野田哲夫は爆笑している。
そして、オレは二度目の転移をする事となった。
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ドスッっと尻から落ちた。
横から落ちて頭を強打しないだけマシだが、力が入らないからダメージがストレートに体全体に浸透する。マジで泣くほど痛い。
で、落ちて直ぐに尻に湿った感触が広がる。
別に漏らしたんじゃ無いぞ。
あたり一面はまさに血の海状態で 近くには切り裂かれた新鮮な男たちの死体が横たわっている。
しかも、今まさに目の前で手に光る剣を持った男の首が切り飛ばされる瞬間だった。
切り口から盛大に血の噴水を上げているのは『勇者、ヒデオ』。
あーー・・こいつもかぁ。
鑑定の魔法?スキル?なのか、ご丁寧に小さなウインドウが出てきて教えてくれる。
ゲームかよっ!て・・うん、ゲームだった。
そんで、崩れ落ちる勇者の向こうには魔王が居た。
鑑定にはそう出てるけど、何処が魔王なんだろう。
普通の人間の男性にしか見えない。ツノすら無い。
「また1人来たのか・・ゲスな侵略者どもが。
1人も生かして返さんぞ」
何故か血の涙を流しつつ 禍々しい黒に近い紫の炎を纏わせた長剣を横に構えて歩いてくる魔王様。
あっ、これ死んだわ・・。
よりによって勇者と魔王の戦う修羅場に転移させてくれたのかよ!。しかも勇者全滅してるし。
動けないし、魔法なんて使える訳が無い、誰か助けに来てくれー。ウルトラ○ンでも何でも良いからぁ召喚、召喚、召喚・・ナムナム。
醜くても不細工でも何でも良いから悪あがきをしてしまう。死にたくないんだよ、ゲームがしたいんだ。
そんな願いは天には届かない。だってGMだもの。
特定のキャラに手助けなんてしないと言われてる。
ただし、それがゲーム仕様に準じていればシステムが自動的に作動する事も有る。
〔シリアルナンバー『S*****』ニュウリョクカクニン。コタイメイ『シリア』ノ ダウンロード ニイコウシマス。〕
死ぬ間際なのにゲームアナウンスが聞こえる・・。
ここまでゲームに未練があったのか。
ゲーマーとは業が深いものだ。
〔ダウンロード カンリョウ。データーノカイトウニイコウシマス。〕
突然 暗い室内が虹色の光で満たされていく。
「!!」
魔王と自分の間に光で構成された人型が浮かび上がる。
それを見て魔王は焦ったように武器を振りかぶり攻撃して来た。
『ダ・ビ・・・』
それは一瞬の事だった
コトッ。カサッ、カシャ、カサッ
機械的な声がした瞬間、大迫力の殺気で迫っていた魔王は野球のボールほどの石と僅かな骨に変わって崩れ落ちていく。
虹の光が収まると目の前にはゴスロリ服を身につけた美少女が社交界の挨拶のようにスカートをつまみながら頭を下げていた。
「URナンバー38、サポートキャラクター葬送姫シリア。設定年齢15歳。ジョブは葬儀マイスター。これよりマスターのサポートに入ります。末永くお供致しますよ」
シリア・・そう言えばそんな名前だったな。
戦争が絶えない物騒な名前だから憶えてる。
シリアルナンバーをもらう時、「今までに無いキャラですから」とスタッフが自慢げに言ってたな・・。
いや、問題はそこじゃ無いか。
「何で前世のゲームキャラが有効で、しかも実体化してる訳?」
「少し御待ち 下さい マスター。
メインデーターにアクセスしてみます。
回答出ました。
いわゆる勇者特典という事ですね。
転移時にランダムに備わる特殊なスキルが関係しているようです。前世のゲームに対する未練が強くこの現象を引き起こしたとのこと。一種のイレギュラーです」
「さっきの魔王を倒したのもシリアなんだよな。いきなり魔王を倒せる勇者特典って、ムチャクチャだな」
「マスターが助けを求めていたので荼毘に付しました。
あの・・いけなかったでしょうか?」
「いや、助かったよ。これで人生の続きが楽しめる」
どういう仕組みなのか理由なのか分からないが、どう見ても人間にしか見えないシリアは僅かに笑顔になる。彼女の使うスキルが特殊な名前なのだけが彼女の出生を特殊なものと感じさせた。
などと暢気に話をしている場合では無いな。
魔王が倒されて怒り狂った幹部達が襲ってくるぞ。
未だに体のケガは治っていないし、血だまりに座り込んでいるのでズボンは黒く染まってきた。
大変に悲惨な状態である。
そして、唯一頼りの彼女はヒーラーじゃ無い。