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シアニス・リトランティア

帰り道、馬車の行く手を塞ぐみすぼらしい男が一人。


全身はうす汚れ、手には折れた剣を握っている。


不審者以外の何者でもない。


「水と食い物を置いて行け。偉大な勇者様が魔物を駆除してやってるんだ。感謝しろよ」


「本当に居たよ、人間のクズが」


セシリィミントは瞬時に全力全開の戦闘態勢。


音も無く腰の帯剣を抜き放っていた。


「おいおい、待てよ。俺は魔物狩り継続の為に食料支援して欲しいだけだぜ。

盗賊じゃねぇよ、セセリィちゃん」


「誰かと思ったら玉無し勇者のテツオか。馴れ馴れしく私の名前を口にするなキモイ」


「ちがーう、玉は有るぞ。無いのは別のだ❕。変な二つ名付けるな、殺すぞ」


「どうでもいい。急いでいるんだ、私たちの邪魔するな。道を開けろ、殺すぞ」


「何焦ってるんだよ って おい、後ろに居るのは聖女か?。

ははっ、こりゃあいいぜ。シアニス・リトランティアだよな。

まだ俺の運も捨てたもんじゃねぇな」


「何が言いたい?玉無し野郎。お前ごときがその名を口にするな」


「言うまでも無い、聖女をよこせ。

俺のような選ばれし者にこそ聖女は必要なんだ。可愛がってやるぜ」


「はっ、言動がまんま盗賊のそれだな。落ちたものね、成りそこない勇者」


「何とでも言え、聖女さえ手に入れば・・・・俺の勇躍はこれからだぜ」



やれやれ、若い者は血の気が多くていかんな。

とは言え俺も今の肉体は若返ってたし、他人の事は言えない。

そうだよ、あの男を見た途端に怒りが蘇って血管切れそうなんだ。


男は女達にしか目が行かないのか俺を無視している。



だが好都合だ。

俺はこの男に特大の用が有る。

ここで会ったが百年目、だ!


「み・つ・け・た」


バキャッ☆


「はぎゃああああああああああああああ」


瞬時に男の後ろに移動し膝を横から薙ぎ払う。


軽く蹴ったつもりだったが膝は有り得ない方向に折れ曲がり、骨が飛び出したのかズボンは見る見る血に染まっていく。

足を払われた状態の男は体を一回転させて頭から地に落ちた。


「やあ、野田哲夫(のだ てつお)くん。元気だったようだね。

良かったよ、死んでなくて。おかげであの時の借りを返せるからさ」


そう、この男こそ前世の地球で会社の後輩だった野田哲夫だ。

こいつがラノベの主人公よろしく勇者召喚の契約を違法業者としていた犯人だ。

その召喚に俺も巻き込まれ惨殺された・・・らしい。

さらに召喚された後はボロボロにされてゴミとして捨ててくれた怨敵である。


「ぐああっ、てめぇ何しやがる。俺はてめぇ何て知らねぇぞ」


「おいおい、あんなに熱烈な送別会(ゴミあつかい)をして捨ててくれたのに忘れたのかよ。

俺は営業部の田中 泰司(たいじ)だ。思い出したか?クソやろう」



***********





ザッザッザッ


痛みでかろうじて保っている意識が足音を拾っていく。


何故だ。


俺は選ばれた存在だったはずだ。


人生というゲームに参加する事が抽選で決まってからリアル世界の全財産を裏組織に課金して特別(チート)な能力を手に入れる事が確定していたはずだった。


当然だろう人間と言うキャラクター個体でゲームに参加できるチャンスだぞ、奇跡的なほど低い確率の抽選で引き当てなくては得られないのだ。

二度と無いかも知れない最高の時間を楽しむために手を尽くして何が悪い。


そうだよ、リアルマネーを課金する事でつまらない人生(プレイ時間)から抜け出せてスリルと栄光の世界に転生し勇者として華やかな一生を終える予定だった。


人間界にログインした俺は野田 哲夫というキャラネームを付けられて一般人として成長した。

そこそこ裕福な環境に生まれて何不自由ない生活だったが特別な人生と言えるものでも無い。

勇者契約していた記憶が有るため学生時代も平凡でつまらないものだった。


日本では召喚されるまでの待ち遠しい歯がゆい時間を過ごした。




大人になって父親キャラのコネで会社に就職した。

だがクソ真面目に仕事なんてしていられるかよ。

もう少しで待ち望んだ勇者召喚が行われるのだ。

幸い会社の上役共は親父の顔色をうかがって俺を特別扱いしてくれた。


ただ一人、直属の先輩になる男だけは口うるさく指導して来やがる。

この日本で一生生きていくなら必要なスキルだろう。

だが召喚が確約されている俺にとってはウザくて迷惑そのものだった。


そいつの名前は田中 泰司・・・


「ぐぎゃああああああっ、いっ、いてぇ、何だ、なにが・・・」


「気が付いたか?クソ野郎」


思い出した。俺の栄光に満ちた華やかな人生はことごとく予定が狂った。

予定されていたパワーレベリングが事実上不可能になり、不本意だが地味なレベルアップをしていた時にこの男のパーティと出会ったのだ。


「いてぇ、いてぇっつってんだろが、止めろ。何処に連れて行くつもりだ、クソが」


一歩歩くたびに手足が骨折している事を知らされ、悲鳴を上げたいほどの激痛がドクドクと心音のように響いて来る。


「遠慮するなよ。後輩の哲夫君が俺に対してしてくれた歓迎をそっくりそのままお返ししてるだけだぜ。

残っているのは最後の仕上げに絶望できる場所にお前を捨てれば完了だ」


「俺が何したって言うんだ、なぁ頼むよケガを治療してくれよ」


「おいおい、忘れたのかよ。この世界に転生したとたん俺の手足の骨を砕いて、そのうえゴミとして魔王城に捨ててくれたじゃないか。今思い出しても怒り狂う熱烈歓迎だったぜ」



グオオオッ


バキャ☆ドゴッ☆


何の音だ?


時たま魔物の吠える声が聞こえているが打撃音一つで静かになる。

一撃で魔物を無力化しているらしい。

田中は勇者じゃないはずだ。なのに何故そんな真似ができる?。

相手はゴブリンだろうか・・・それなら可能性は有るかもな。


背中を掴まれ背中合わせに担がれているのか魔物を見る事が困難だ。

何とか目に入ったソレは人間より大きく太い体、オークだ。

嘘だろ、パワレベしてない人間なら何人ものパーティで戦う相手だぞ。


そんな戦いの起こる間隔がだんだん短くなってくる。

オークの数が増えて来た証拠だ。


まさかだよな・・・おい。


「さてと、このあたりで良いかな。これ以上進むと俺がオークの巣を潰してしまうからな」


ドサッ☆


「ッガーーーッッッ、イデェよぉぉ」


鬼かよ、手足の折れた俺を地面に放り投げやがった。


パシャーッ


冷てぇ。何だよ、今度は何をした。


「この匂いは香水か?」


「良く分かったな、日本のそれとは違って少し臭いだろ。こっちの世界の女性用の香水だ」


水かと思ったが香水とはな。

この世界の香水はバカみたいに高額なはずだぞ。

それを派手に振り掛けやがって、ズホンが気持ち悪いじゃねぇかよ。

血の匂いを消すならもっと別の方法が有るだろが。


「この世界の香水には異性の性欲を高める為に魔法で抽出したホルモンが入っているらしいぞ。

つまりだ、今の野田 哲夫は色気タップリな女の魅力を撒き散らす発情したメスだと思われる訳だ。

特に鼻の利く魔物(オーク)にとっては最高のメスだな。さぁ、最後の絶望を味わってもらおうか」


「・・・・お、おいぃ、それって!ここはオークの巣の近く何だろ。待てよ、冗談はやめろ」


「人生の最後にオークの男たちにモテモテだな。可愛がってもらえよ」



グホホッ、グホ

グキキキッ


複数のオークの近寄る鳴き声が聞こえてくる。

襲撃して来た時の声とは明らかに違う嬉しそうなものだ。


「田中先輩ごめんなさい、ゆるして。助けてくれぇぇぇぇ」


俺はオークに運ばれる手足の痛みに意識を失った・・・・




人生を終えて本当のリアル世界に戻った(ログアウトした)時、笑い者にされ最大級の屈辱を受けたとだけ追記しておく。





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