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15/22

15、ルボルティーニ?

敵味方の双方が震え上がったトンデモハプニングが有ったせいでたった一日で終戦となった。

本来なら凱旋する兵士達は鼻高々で万来の喝采を浴びるものだが今回の戦いには何ら達成感は無い。


それでも無事に生きて帰れた事で迎える家族は全力で喜びを表し、彼らはやっと戦勝を噛み締めるのだった。

特に目の前で巨大な鳥に襲われた敵の凄惨な場面を直接眼にした者たちにとって生きている事が全てだ。


「親方、それに皆も無事で良かったよ」


「おうっ、タイジか。そう言や店は工房区だったな。まぁ、なんだ・・とりあえず勝ったぜ」


「俺達が居れば楽勝さ。・・・それより出迎えはお前だけかよ。シリアちゃんはどうした?」


「「そうだそうだ」」


「あ?。俺の嫁だぞ。こんな興奮した男共がゾロゾロ歩いてる場所になんて出せるかよ」


「ぐはははっ、ちげぇねぇ。おらっ、おめぇら、帰るぞ。早く母ちゃんのメシを食って仕事だ」


顔馴染みになった漁師の面々は坂を下りていく。

雑多な民兵ばかりなので隊列など組んでいないが次々と凱旋してくるため団体で立ち話は嫌われるのだ。


最初から戦力外の俺は戦争に参加していないので参加した兵士をを称える為に路上で迎えていた。

路上では他にも其々の家族が勝利を喜び歓声を送っている。



「タイジか 出迎えご苦労だ。他の2人はどうした」


「フリアドスさんも良い歳してシリア目当てかよ。

知ってる奴等みんなソレばっかだな」


「当たり前じゃねぇか。

出迎えと言えば女の方が良いに決まってるぜ」


隣に住む皮加工職人フリアドスも当然無事に帰還した。

ゴツイ男共の中にあって頭一つ大きい男なので完全武装でもさせたら屈強な騎士に見えて敵がビビルかも。


「お父ちゃん、お帰り。無事で良かったー」


「良かったな、女の子のお出迎えだぜ」


「おぅ、マナリィ。ただいまだ。俺が娘を残して死ぬ訳がねぇ」


愛する娘の出迎えにトロトロな笑顔のオッサン。

既に他の事などどうでも良いのだろう。


「マナリィちゃん、俺たち勝ったぜ」


「タオレル、おかえりー。皆も無事で良かったね」


「てめぇら・・俺の娘に声かけるなら一人前に成ってからにしろ」


工房区の若い職人見習い達も帰ってきた。

年齢で言うならまだ高校生くらいの若者だが普段から力仕事をこなしている彼らは体も大きく逞しい。

俺とは違い、一人前の男として出兵させられていた。


同じくらいの年齢の女の子マナリィは彼らのアイドルだ。

やはり出迎えの女の子は嬉しいのだろう。

そんな初々しい若者にフリアドスが父親として応戦する。

俺には嫁に勧めてくるくせに純心な若者は嫌うようだ。

彼女はこの近辺では飛びぬけて可愛い容姿をしているから父親としては虫除けに気を使うのだろう。


ただし、彼女に目を付けるのは純心な男達ばかりでは無い。


「ほぅ・・これは驚いた」


「どうされました?男爵様」


不吉な声の主は10人ほどの騎士の団体だ。

あー・・これはマズイ展開だよな。



「そこな娘、光栄にもレシラシル男爵が御所望である。侍女として召抱えるゆえ即急に準備いたせ」


やはり、そうきたかい。

メイドとは言え、貴族の家に入るにはそれなりに信用が必要と聞いている。

いきなり市井の娘を迎えるなど言語道断と言える。


要するにあの勧誘はエロ目的だと言っているようなものだ。

誰も見ていなければどうとでも言える。

飽きたら娘が粗相をしたとして追い出せば良いだけだ。

貴族のオッサンも戦に勝って浮かれているのか、それとも生き延びた事で高揚しているのか知らんが見境無いなぁ。

たぶん、普段なら目にも入らない町娘だろうに・・。


まぁ、理屈はどうあれ彼らも口に出した以上簡単には引き下がらないだろうし、荒事にならないと良いが。


「貴族様、娘はもうすぐ嫁に行く事が決まっておりやす。ありがてぇが今の話は無かった事に・・」


「ほぅ、それは丁度良い。行儀作法を学べる良い機会ではないか」


「いやいや、娘が嫁ぐのは普通の平民の若者でございますので、心配には及びません」


フリアドスのオッサンも貴族の家臣相手に必死の攻防をしている。そろそろ後ろの貴族がじれて来たかな。

貴族が問答無用で命令すれば終わる。


領民を家畜程度にしか見ていない貴族も多い。

昔のフランスで大人しい民衆が革命まで起こしたのは伊達ではない。それほどに貴族の横暴は酷く、人々には嫌われていた証拠だ。


荒事になったら力ずくで助けないとならない。

せっかく力を隠して目立たないようにしてるのだが、助けないと後で後悔するに決まってる。困ったな。


カチャ☆


「あんたぁ、何を外で油売ってるんだい!。帰ってきたならさっさと仕事おし。忙しいって言っただろ」


突然の大音声に その場の全員が驚いて身を竦ませた。


ドアを開けるなりフリアドスのオッサンを怒鳴ったのは恰幅の良い体をゆらして出てきた彼の奥さんだ。

その迫力に道行く兵士たちも立ち止まり、全員が麻痺したかのように動けない。最強だな・・。

絶対に勝てない魔獣が突然出てきて吼えたかのようだ。


「マナリィも、男共の相手なんてしてないで手伝いな」


そう言うなり 娘の手を引っ張って家に入ってしまった。

残されたのはただ唖然とする男たちだ。

いち早く我に返ったフリアドスはコソコソと付いていく。

見事にあのデカイ尻にしかれているらしい。


空気を読まないがゆえに見事な急襲で娘を助けた母は強し。

ここは助け舟を出して場を穏便に済ませますか。


「レシラシル男爵様。戦いに勝った時は女より酒で祝ったほうが縁起が良いと聞いています。極上の酒が有るので一杯いかがですか?。英雄である皆さんに飲んでいただきたいです」


俺はコッソリと酒と金属製のカップを取り出し、小者臭を漂わせながら貴族にすすめた。


「何だァ、キサマ。身分を弁えろ」


「いや、待て。

小僧・・その手に持っている酒はまさか」


「さすが男爵様。これの価値がお分かりになる。

こんな機会でも無ければ私の酒など受けて頂けないと思い 取って置きの一本を用意していたものです。

この国になって初めての戦に勝利したのですから記念に受けていただきたく」


「初の勝利・・なるほど、建国して初めての戦いで勝利したのであったな。確かに記念すべき日であった」


「自分はこんな子供なので戦いに参加できませんでしたので、参加された英雄の皆さんと一緒に祝いたいと用意していた物です。どうぞ、お毒見をされる御付の皆さんも一杯」


彼らの関心を女から酒にシフトしていく。

戦いに勝った祝いを別方向に誘導すればマナリィの事は忘れるだろう。ちなみに酒は王城から失敬してきた本当に良質な酒である。たぶん男爵も飲んだことが有るのだろう。


御付の騎士達が最初に酒の匂いを確かめ口に運ぶ。

カップは小さいので飲み足りない顔をするが主人の手前お代わりを要求できない。


「これは、王城で一度だけ飲んだ事がある。初勝利の祝いにふさわしい酒であるな」


「ありがとうございます。まだ大分残ってますので宜しければ献上させてください。いずれ子供に自慢ができますので・・」


はぁ、商社時代の接待術が役に立つとは・・。


「ふむ、良い心がけであるな。その申し出、受けるとする」


「お邸で心配されている奥様へのお土産には美女よりも美酒でございますよ。男爵さま」コソッ


酒を手渡す時に男爵に事実を突きつける。

ただの甘い献上品と思われてナメられないように釘を刺しておくのだ。言葉通り、心配して待っている奥さんの所に浮気目的の女を連れ帰ったらどうなるか・・。男爵もその事に気が付き若干顔色が悪くなった。


「まて!。

その酒、私にも飲ませなさい」


突然、男爵の後ろから声がかけられる。

貴族に対して上から目線な言い方な上にこの声は女性?。


見ると、こちらも騎士の団体だ。

声の主であろう先頭の人物は全身を甲冑で固めていて顔も見えない。背丈は俺と同じかやや小さいかな。

男爵はすぐさま礼節を取り手を胸元に掲げ、腰を折った。


その行動で相手がどんな立場の人間か予想ができる。

なんか・・ますます面倒な展開になってきたな。


兜を脱ぎ、顔を見せたのはどう見ても少女。

姫騎士というイメージそのままの姿である。


またも湧き上がったイベントに俺たちの周りは立ち止まって見物している野次馬でいっぱいだ。


少女は素早く男爵から酒をかっさらうと 使い終わったカップを気にすること無く酒をなみなみと注いでいく。その姿を見る男爵の目は少しだけ悲しそうだ。

どう見てもキツイ酒精の酒を少女は一気に飲み干した。


「ふむ、やはり ルボルティーニの12年物は美味いな」


心底 幸せそうな顔をして一言。

そんな名前の酒でしたか。知らなんだ。


「さて、どうして平民の子供がこの酒を持っているのだ?」


「ジュリアナ殿下、それはどういう意味でございますかな」


胡乱な目で俺を見る少女。

やはり姫殿下でありましたか。とほほ


「男爵の卿でも知らぬか。無理も無いが今後は必要に成る知識だ、知っておけ。この酒はな少ししか作られぬのだ。しかも、この上なく美味い。結果として言うなら王家だけが手にする事を許されたご用達の品である。各王家に数本だけ割り当てられる貴重品なのだよ」


おおおーーっ、と周りから歓声があがる。


そんなレアものだったのかよ。

不本意ながらメチャメチャ目立ってしまったぞ。


「さて、もう一度だけ聞く。この酒を何故持っている?」



思いがけず追い詰められたのは俺でした。










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