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11、右から左

カラン☆コロン☆♪


店のドアに取り付けられた呼び鈴が鳴った。

珍しく誰か来たのだろう。

ゲームを中断されて3人は少し不機嫌になる。


居間で偽装妻のシリア、その彼女の縁者設定の子供アイ、そしてオレはトランプで遊んでいた。

トランプはゲームアイテムとしてストレージに有ったものだ。地味ではあるが遊べるのはありがたい。



「いらっしゃい・・おや、皆さんは先日イノシシを持ち込まれた方ですね」


「ああ、ここにはギルド支部が無いから買い取ってもらえて助かったぜ」


「こちらこそ。良い毛皮も取れましたよ。今日はまた何か持ち込みですか?」


日本では営業担当だったのだ。

店番程度なら軽くこなせる。

店を訪れたのは冒険者5人のパーティだ。

それぞれ良い体格をしている。

全員男だがその方が揉め事が少なくて長続きするらしい。


そして、やはり臭い。

彼らも清潔には心がけているだろうが ろくな石鹸も存在しない世界では日々の臭いを消すのは難しいのだ。


日本で冒険者を夢見ていられるうちが幸せなのだよ。



「明日には商隊の護衛で地元に帰る事になった。今日はこれを引き取ってもらいたい」


カラカラと冒険者のリーダーがカウンターに取り出したのは青みを帯びた石だった。


「水属性の魔法石ですね。中濃度の石が一つ100コルン、低濃度の石が10コルンですので全部で350コルンになりますが宜しいでしょうか?」


「「「「「えっ!」」」」」


「ちょっと待てよ。それじゃあ いくら何でも足元見すぎだろう。中濃度なら最低は300はするぜ」


交渉しているリーダーではなく後ろの若い戦士が割り込んでくる。


「あぁ、先に説明するべきでしたね。この『アガルティアの通り道』の内側は殆どが海岸線に人々が暮らしています。ぶっちゃけ 手に入る殆どの魔法石は水属性なのです。おまけに生活に使う水の水源が豊富なのでお金を使ってまで水を確保する必要もありません。需要が無いので取引額も下がります。冒険者ギルドが存在しない理由の一つでもありますね」


巨大な湾と平地を取り囲む峻険な山々。

エベレストもかくやと思える山脈の比較的低い位置に一本の谷が存在し外界と唯一往来を可能としていた。


それは不思議な谷である。

まるでナイフで垂直に切り取ったように真っ直ぐ滑らかな断面?の谷は山の地層を一目で楽しませてくれた。

その不思議な谷を人々は風の神アガルティアの通る道として感謝しながら生活していた。

幅50メートルほどの広さは馬車の往来を妨げず、唯一外敵を防ぐ要塞が存在するのみである。


タイジの店、万屋ニッポンが立っているのは谷の入り口であり街の最もハズレに位置している。



「そんな訳で 明日食べるためのお金が無いなら別だけど、こいつはお客さんの地元で売ったほうが良いよ」


「なるほどな・・イノシシが思ったより高く売れたんでコレも高くと考えたが・・そう聞けば納得だ」


「オレには今の話は全然ワカンネェよ」


「ん?。まぁそうだな・・同じ石でも場所によって高くなったり安くなったりする事が有るって事だ」


「ふーん・・じゃあ安い所で買って高い所に持って行くだけで金になるんだな」


「まぁ単純に言えばそうだな。そしてそれをやるのが商人ってやつだ」


「なんだか楽そうじゃん。オレもやってみようかな」


若者の言葉を聞いて古参の冒険者たちは一斉に笑い出した。

人生経験からか彼らは商売の難しさを知っているようだ。

得てして他人の仕事は楽に見えるものだ。


「笑う事ねぇだろ。オレだってそのくらい・・」


「ははは。まぁ、商人になるのは自由だな。

くっくっく、安心しな、飢え死にしたら穴を掘って埋めるだけはしてやるからよ」


「何だよ、それっ。ひでぇな」


「はぁ・・、お前さん、この前も騙されてナマクラの剣を掴まされたばかりだろう。商人はな、そんな騙し合いの中で生きて行くんだぞ。出来ると思うか?」


「・・・・無理だ」


若い冒険者をからかっているように見えるが立派な教育になっている。気が付かないうちに人は多くの事を教えられ人に成っていくものだ。




「無理とも言えませんよ。

彼のおかげで思いだしました。

良かったらコレを買い取っていただきたい」


「ん。いきなり何だ?。この袋は」


三つの取り出した袋。

それを買い取れとの提案に冒険者たちの雰囲気が変わる。

すっかり警戒されてしまった。

当然だな。

彼等からすればこちらは騙すかもしれない商人なのだ。

まず、袋を開いて中を見せる。


「・・こいつは水の魔石だよな。自分は買わないのに俺達には売りつける気か?」


「えぇ、その通りです」


「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」


この話、商人なら直ぐに飲み込めるのだが やはり彼らにとっては畑違いというところか。


「この魔石は先ほどと同じ値段で買い取りました。低濃度が10コルン、中濃度が100コルンそして高濃度が希少なので2000コルンです。皆さんにはコレを低濃度20、中濃度200、高濃度3000でお譲り致しますよ」


「はぁぁっ?。何でオレらが高く買わないとなんねぇんだよ」


「そりゃあ、こちらも手数料くらい貰わないと生活出来ませんから」


「あのなぁ、テメェ」


「いや、まてっ!」


リーダーの男は手を振ってメンバーを抑えてくれる。

かれはこれが商売の取引と気が付いたようだ。


「聞いて置きたいんだが、こいつを俺達の地元で売った場合いくらになる。例えば冒険者ギルドだな」


「魔石の価格は普通なら安定しているのでギルドなら低濃度50コルン、中濃度400コルン、高濃度なら7000コルンで買い取ってくれるでしょう。商会に持ち込めばもっと高くなる可能性もあるけど冒険者相手なら足元を見られるので止めた方が良いですね」


「マジか・・」


商人志望だった若者が驚愕している。

値幅の大きさに素人なら驚くものだ。

前世の日本でだって取引価格は・・・まぁいいか。


「あんたも若いが商人だ、この取引自体が足元を見てるんじゃないのか。

素人目にもかなりの儲けだろ、何故自分で売らない?。おかしいだろ」


「自分で売らない理由は簡単ですよ。商人である自分が直接売りに行けば大赤字になる。ところが、冒険者である皆さんが売れば大儲けになる。分かるかな?」


「???商人ですら赤字になるものをオレたちが売って儲かるはず無いと思うが・・」


「まぁ良いか、種明かしをしよう。

外の街道はとても危険だから護衛は多く必要だ。

皆さんは冒険者だし今は商隊の護衛をしているから他にも冒険者の護衛は居るだろ。ほら、魔石を運ぶのに護衛はタダになる」


「!なるほどな。儲けよりも護衛代のほうが高くなるのか」


「そうだね、他にも色々とお金がかかるから無理なんだよ」


ただし、普通の商人なら、だけどな。

自分ならシリアと2人で走って行けば護衛なんて必要ないし馬車よりも早い。

めんどくさいからやらないけどな。


「コレくらいの量なら分散して持てば荷物にならないだろうし、護衛の仕事にも影響は無い。ついでの仕事だけど護衛の依頼料よりはるかにお金になるよ。どうかな?」


「分かった、信用しよう。あんたがこの取引で得る金額はビビたるものだし、それに命をかけるとは思えねぇ」


「よし、商談成立だな。全部でこの金額だから魔石の数を確認して計算が合ったら書類にサインよろしく」


「「「「「・・・計算??」」」」」


「ほらほら。確認と計算こそ商人の仕事なんだし、これが出来ないとギルドの職員にも成れないよ」


そう、どんな仕事でも表に出るのはほんのわずかなものだ。商人だから店番だけで終わると思うのは愚か者である。


「オレには無理だーー」と商人志望だった若者が早々に泣きが入ったのは良い勉強だと思って欲しい。



「確認した。かなり面倒だが これで収入が大きくなるのは嬉しい。こっちに来るだけで二倍の金が手に入るなら何度でも来たいものだな」


「そこが都合よく行かない所なんだ。これだけの数が集まる時間が分からないから次も同じにはならないと思ってくれ」


「なるほどな・・また来たら立ち寄らせてもらうから、運良く集まってるのを期待してるぜ」


「その時は是非たのむよ」


お互いに苦笑いで握手を交わす。


金額は少ないが物資を右から左に流して収入を得るのは楽しいものだ。











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