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10/22

10、一生の不覚(笑

そろそろ日が暮れようとする時間。

それは電気や照明設備が無い世界では眠る為の準備をする時間帯であり、それ以外に使うのは贅沢な使い方である。

わずかな明かりを燈すだけで安くないお金が掛かるからだ。


「おぅ、ヨロズヤのニィちゃん。待ってたぜ」


「おおっ、来たか。こっちに来て座れ」


「親方さん またお邪魔させてもらうよ。今日も世話になったから少ないけど皆で飲んでくれ」


「ははは、そいつは有りがたい。おぅ、お前等、酒樽の差し入れだ。今日も飲むぞ!」


おおおーーっ


漁師たちの宴会は急激に盛り上がっていく。

かがり火も炊かれ祭りのような雰囲気だ。


大仕事の後は細々とした食事の準備を省く為に海岸に漁師の家族も集まって大雑把な夕食をとることが多い。

この港町の習慣のようなものだ。

海鮮バーベキューを大勢で楽しんでいると言えば分かりやすいだろう。分厚いステーキのような魚や貝の切り身が豪快に金網の上で焼かれていく。漁師の奥さん達にとっては一番手の掛からない調理法であり、男共がそれぞれ勝手に騒いで楽しんでいるのでその点でも気を使わなくてすむ。


ただし、


酒はそれぞれの家庭の自前なのでガッチリと奥さんがコントロールしていた。勝手に飲まれると家計が危ないからだ。分かりやすく言えばガタイの大きな男たちがコップ一杯の酒を大事に飲みながら食事を楽しむのがせいぜいなのである。

そんな場にタルで酒が差し入れられた。

お金に代えられない男たちの喜びは単なる夕食を宴会へと変えていく。


「はっはっは、相変わらず気前がいいな。今日は嬉しい事が続くぜ。ほら、若旦那も食え食え」


「ああ、ありがとう。ここで食う物は何でも美味いからな」


焼きあがった貝の身を木のフォーク?(二股)で刺して口に運び豪快に齧りつく。この食べ方がスパイスであるかのように何倍も美味しく感じる。


「おぅ、にぃちゃん。今日も飲もうぜー」


「なんだ、タクラはもう出来上がってるのか。ほどほどにしないと明日は地獄だぞ」


若い衆も次々に酒を持って集まって来る。

既に食べる事より飲む事に全力をあげているようだ。


「いいや、飲む。こんな思いっきり飲めるなんて祭りでも出来ねぇんだぞ。嬉しいねー」


「・・・何か、みんな何時もより機嫌が良いな」


「ははっ、分かるか?。いいぜ、お前さんはもう仲間だから教えてやる」


「ああ、そうだな。若旦那なら良いだろう。実はな、今日狩ったカニの中からお宝が出てきたんだ」


「お宝?。カニから??」


魔物なら分かるけどカニから?


「そうだ。見るからにお宝と言える見事な槍だ。しかも、海の生き物を狩るには最高の属性まで付いている。出て来たときは驚いたぜ」


「おっ、おう。それは凄いな」


身に覚えが有りまくる。

そうか・・普通はあのレベルでも立派なお宝なんだな。

今後は無闇に使い捨て出来ないか・・。


「あん?、何キョドってんだ若旦那。珍しいな」


「いや、そんなお宝なら良い値段で売れるだろーなと」


「ふっ、そう言えばお前さん商人だったな。

だが、お得意様の若旦那でもアレは売らねぇぞ。アレは漁師にとって値段以上の価値が有るからな」


「なるほど・・」


雷属性の武器は水生の魔物でもほんの少しだが動きを阻害する。巨大な敵を相手にした時、そのわずかなチャンスがどれほどの価値が有るのか漁師の彼らは骨の髄まで知っている・・という訳だな。


「良かったな、親方。秘密は守るよ」


「ははっ、そうこなくっちやな」


「じゃあ、今日はおめでたい祝いの日だな。奮発するぞ、酒をもう一つ追加だー」


ドン☆


うおおおーーー


タルは皆で飲めるほど大きい。

それが追加されるサプライズに男達は狂喜乱舞する。

もらったカニミソが多かったから最初から今日はタル二つ提供するつもりだった。祝いにかこつけた方が違和感が無くて良いだろう。毎回期待されるのもまずいだろうしね。

まぁ、明日は仕事にならないのが決定的なので奥さん達は苦笑いしているけどね。



**************



「ねぇ、カニミソが好きな変なお兄ちゃん。あんなもの何に使うの?」


「ぬぁ、こらプロム」


宴もたけなわというタイミングで突然かわいらしい声で話し掛けられた。あまりに正直な子供の一言に百戦錬磨の漁師の親方がうろたえている。

「カニミソが好きな変な人間」というのが彼らの共通の認識なのだろう。


理解はしているが幼い子供に直接言われると少し凹む。

そのダメージが精神的にけっこう大きく不名誉を解消したい気分になる。そして、オレも酔いが回って気が大きくなっていたのが運の付きだった。


「ははは、カニミソの使い方が分からないか・・

知らないと人生の半分は損をしているんだぞ、可愛いお嬢ちゃん。ひっく」


「えーっ、分かんないよ。何が損なのーねぇ」


「そりゃあ、あんな美味いものの味を知らないなんて一生後悔するんだろー。うん、カニミソは最高だ」


酒は恐ろしい。

相手が子供なのもあって油断して余計な事まで口から出てしまう。


ガシッ☆


強烈な握力で肩がつかまれる。

レベルの高いオレじゃなければ骨が折れていたぞ。


「おいっ、ヨロズヤの・・美味いってどういう事でぃ。オレ達はもぅ仲間だ・・教えてくれるのだろうなぁ」


何時もは冷静で理性的な親方の目が完全にすわっている。

もう一度言おう、酒は恐ろしい。

止めてくれそうな奥さん達はキラキラした目でこちらを注目しているから無理だろう。彼女たちも興味津々なのだ。


諦めたオレはため息をついて小さなタルを取り出した。

これはカニミソに塩と近くで取れるハーブ?を加えて煮込んだオリジナルの調味料だ。食ってもらおうじゃないか。

こうなったら口で説明するよりも実演するほうが早い。


もうすぐ焼きあがるだろう魚や貝、ついでにカニの肉にミソをタップリとつけて再び焼いていく。

独特の海鮮らしい香りが漂いだして絶対に美味しい事を脳に伝えてくる。そう、これは美味いのだよ。


見ている漁師とその家族もそれは充分に伝わっただろう。しかし、彼らは今までの常識に止められて手を出す事が出来ないでいる。


そんな彼らに少しだけ優越感を感じながら良い具合に焼けた魚をとって齧りつく。


「ほぁぁー、うまーー。最高」


これを見て最初に常識を破壊したのはやはり子供だった。


「おしひぃぃ。何これ、すごーい」


素直に喜ぶ子供と2人でバクバク食べていると大人たちも恐る恐る手を出してきた。

そして一口食べた彼らも・・・




「今までの人生、食べていなかったのが悔やまれる」


「お前等はまだ良い。ワシなんぞ人生の半分以上で損をした気分だわぃ。くそー」


酒を飲みながら食べているので余計に美味しい。取り出したカニミソ調味料は瞬く間に無くなってしまった。



「おぅ、若旦那。今日やったカニミソ返してもらおうか」


「やだね。あれはもうオレの物だ」


今までタダだったカニミソの値段が大暴騰した瞬間だ。



結果、15タル手に入れたカニミソのうち2タル取られた。

彼らは長期保存する方法が無いので使う分だけで済んだのは幸いだった。

今後はカニが獲れるたびに彼らも食べる事になるだろう。


味が知れわたれば今後は町中で食べられるのは間違いない。

漁師町に新たな収入源が生まれた日と言える。


あぁ、一生の不覚・・



まぁいいけどね。










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