表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

第2話 日本近代競馬の結晶

「桜花、どうしたの?」


貞樹と別れたあと、しばらくして亜弥と愛紗がやってきて、呆然と立ち尽くす桜花に話しかける。


「ねえ、どうしよう」


「な、なにが? 貞樹くん追っかけて行ったけど、なんか、あった?」


おずおずと愛紗が尋ねる。


「明日から、学校中の子から嫌われるかもしれない!」


「「なっ! なにいいぃぃぃぃいい!!!」」


二人が揃って驚きの声をあげる。


「まさか、告った!!?」


「で、付き合うことになったとか?!!」


「あ、それはない」


 即答する。


「じゃあ、なによ?」


「友達になったの」


「なんだー、友達になっただけかー」


 二人は安心したようにため息をつく。


「「…………………」」


 笑みを浮かべながら、しばらく黙り混む。

 長い沈黙をえて。


「「友達ーーー??!!!」」


 二人が同時に叫んだ。


「友達って、あの貞樹君と?! あのだれとも一緒にいるところを見ない貞樹君と?!!」


 あわあわしながら亜弥が聞く。とても平常心を保てていない様子だ。隣の愛紗もすごく驚いている。


「すごく変わっててね、貞樹君って」


 あのときの貞樹はまるで別人で目をキラキラさせながら競馬を語っていた。


「桜花」


 亜弥が桜花の肩に暗い顔で手をおく。


「な、なに?」


「頑張りなよ、周りのことと、それから……それから…貞樹君、のこと………うぅ…」


 涙目で亜弥が応援してくれた。若干、嫉妬も混じっているんだろう。隣の愛紗も、涙目だった。


「ちょ、ちょっと二人とも! 別に貞樹君とそういう関係じゃ――」


「うるさい! 友達ってだけでもう充分フラグたってるじゃない!」


「……や、やっぱり?」


「なにニヤニヤしてるの?! くー、羨ましい! もういい、愛紗行こ。桜花、また明日」


「うん、また明日」


 手を振って二人と別れた桜花は足軽に家に向かった。








 次の日の朝、教室。


「おはようございます。桜花さん」


 桜花は多くの生徒の視線をあびた。


 ………予想は、してました。


「お、おはよう。貞樹君」


 無表情のままの貞樹に、笑顔で返した。とてもぎこちない。


「さっそくですが、桜花さん」


「な、なに?」


 視線の攻撃を喰らいながら、なんとか貞樹の問いかけにこたえる。


「他の生徒に聞かれたくないので」


 と、貞樹がそういって桜花の耳元に顔を近づけ、


「競馬研究部に入りませんか?」


 視線ーー!!! 他の生徒の視線が怖いよー、貞樹君!! すごくドキドキするけど2種類だよーー! うれしいのと怖いのー!


 桜花は他の生徒の威圧に怯えているが、貞樹は気づかぬ様子で話を続ける。


「部、といっても部員は私一人なので同好会ですが、競馬についてより深く知っていただき、ぜひ好きになってもらいたいのです。どうですか?」


 ほ、本当に競馬の事だとよくしゃべるなー貞樹君。


「競馬研究部? 私が?」


「はい、調べたところ桜花さんはどの部活にも所属していないとのことだったので」


「なんで知ってるの?!」


「先生にお聞きしました」


「あ〜……」


 先生も驚いただろうなー。貞樹君が他の生徒のことを聞くなんてまずないし。


「で、でも私、競馬全然知らないし」


 控えめに答えたが、貞樹は一度「ふーん」となにか考えてから、


「ではまず馬を知って貰いましょう」


「馬? いや、馬ならサラブレッドでしょ? さすがにそれくらいは知ってる――」


「いえ、そういうことではありません」


「………え?」


 すると貞樹はにやりと笑い、


「放課後、ここに来て下さい」


 そういって、地図が書かれたメモを渡された。そしてそれを渡すと貞樹は自分のクラスに戻っていった。


 それから後は、クラスの様々な人からの質問攻めの一日だった。







 放課後、桜花は貞樹に渡された地図の場所に向かっていた。

 校舎の横にある部活棟の一番端の部屋だった。人はほとんどいない。


「つかれたなー」


 こんなに、いろんな人に話しかけられたの日など、桜花にはなかった。それほどまでに貞樹の影響は絶大なのだ。


「貞樹君、いる?」


 ドアをあけ、声をかけるが返事がない。仕方なく中に入る。

 奥にいくと、貞樹が椅子に腰をかけていた。


「貞樹君?」


 返事はない。ただ無言でいて、視線のさきにはモニターがあった。

 そしてそのモニターに移っているのは、


「競馬、か」


 呆れた感じでつぶやいた。


「……………ッ!」


 貞樹は目の前の画面を興奮するように見ている。仕方なく桜花も、画面を見た。

 

「は!」


 桜花は思わず声をあげた。

 画面には一頭の馬が大きく写される。こうやって面と向かって競馬を見るのは初めてだった。

 だが、画面に写されたレースが明らかに普通と違うのは、競馬初心者の桜花にもはっきりわかった。

 

「何? この歓声」


 画面越しにもその場の大きな歓声が伝わってきた。


 どんな数? 明らかに何万人くらいの歓声じゃん。


 どうやらレースはもうすぐでゴールのようだ。歓声が一際大きくなり、実況者も興奮しているようだった。


 そして、競馬史に残る名実況を桜花は初めて耳にしたのだった。




『先頭はディープインパクトだ! 世界のホースマンよ見てくれ! これが日本近代競馬の結晶だ! ディープインパクト!』


週末にも投稿できるかもです。


感想など気楽にどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ