表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無罪放免  作者:
3/4

無罪放免〜秋人sid〜

 図書室の件から1ヶ月が経った。

 ずっと一緒だった相手の事を好きだと気付いた瞬間に、その相手はまた別の奴が好きだと知って。自分の好きな相手に好きな人がいる。不幸なことだとしても、別に珍しいことでもない。

 そんな珍しいことでもない事実に対して、俺は向き合うことが出来なくて。気付けば俺は、千夏を避けるようになっていた。

 距離を置く度にあいつは悲しそうな顔をしていた。俺の弱い心のせいで向き合うことが出来なくて。それが理由で避けて。そして、千夏を相手を傷付けて。


「俺は何をしたいんだろうな……」


 この1ヶ月で慣れてしまった、一人での帰り道。ほんの1ヶ月前までは千夏が隣を歩いていた帰り道。

 一緒にいるのが楽しくて、二人で話してる時間が嬉しくて。今思えば分かる。俺は千夏が好きだったから一緒にいるのが楽しかったんだ。

 別に喧嘩したわけでもなんでもないのだから、普通に話せばいいのに。別に俺の気持ちがばれて気まずくなったわけじゃないのだから、一緒に歩けばいいのに。

 頭で分かっていても、心が拒絶する。真正面からあいつと顔を合わせると自分が惨めに感じてしまう。自分の気持ちなのに、ずっと気が付かず。あいつには好きな人がいて。伝える前から叶わなかった。それが惨めに感じてしまう。


「千夏……モンブラン好きだったよな……」


 商店街に入り、最初に目がいくケーキ屋。あいつはココのモンブランが大好物だった。


『秋人!カップル限定で、2個買うと20%引きらしいぞ!』

『いや、俺は甘い物はちょっと……』

『うん?2個とも私が食べるが?』

『そっすか……』


 あの時は何も気にしなかったが、千夏は俺とカップルと思われて、気にならなかったのだろうか。あの時の俺は……今思えば、少し嬉しかった気がする。


「あと1ヶ月もすれば夏休みか……」


 学校がある今ですら、疎遠になりつつ関係。それが夏休みになんて入ってしまったら、どうなるのだろう。

 夏休みが終わり、2学期が始まる頃には関係が消滅してるかもしれない。俺の情けない気持ちのせいで。


「俺は──」

「おーい!あきとー!」


 商店街の入り口で一人考えにふけっていると、俺を呼ぶ声がした。振りかえってみると、まぁそこにはクラスメイトの一人がいた。


「なんか用か?」

「いや、秋人を見かけたから」

「そっか」


 そのまま二人で商店街を抜ける。会話といっても、内容がないものばかり。でも今は、なぜかそれが心地よくて。


「秋人が高木さんと帰らないのも珍しいよな」


 急にふられたそんな話題。

 何か意図があったわけではないだろう。ただ、俺の中ではタイムリー過ぎる話題だった。


「そ、そうか?」

「いつも一緒だったじゃねーか」


 確かにそうだったかもしれない……一緒が当たり前となっていたから、考えもしなかった。


「あいつにさ……好きな相手がいるみたいだからさ……」


 何故か口に出た言葉。


「お前……何を言ってるんだ?」


 言ったことを後悔しそうになっていると、驚きを顔に張り付けた友人がそこにいた。


「何をって、言葉通りだけど」

「いや……お前……高木さんの好きな人って……秋人だろ?」

「は?」


 こいつは何を言っているのだろうか。

 千夏が俺を好き?そんなわけないだうが。


「え、お前。本気で言ってるのか?」

「本気ってなんだよ」

「え……いやだって、秋人といる時だけ高木さんは笑ってるし……」

「あいつはいつも笑ってるだろ」


 主に俺をからかう時に。


「もしかして、言っちゃダメだったやつなのか、これ」

「さっきから何を意味の分からないことを言ってるんだよ」


 こいつに悪気がないのは分かってるから怒りはしないが、さすがに心のほうにダメージがある。

 千夏が好きだと気付いて、でも千夏には好きな奴がいて。


「高木さんの好きな人って、絶対秋人だろ……」


 千夏の好きな人が俺?あいつは俺のことは友達、もしくは親友程度にしか思ってないだろ。


「はぁ……そんない信じられないなら聞いてこいよ」

「誰に何をだよ」

「ん」


 友人が急に後方に指をさす。そこには千夏がいた。


「今度、なにか奢れよ」

「なんでだよ……」


 俺に背を向けながら、手を振り離れていく。


「お節介野郎め……」

「秋人」


 俺を呼ぶ声。振り向きたくない気持ちと、今すぐ話したいと叫ぶ気持ちと。


「秋人の友達の……佐伯さえき君だっけ?秋人に話しをつけてやるから、一緒に来いって言われて」

「はぁ……」


 もう商店街から出たのか、俺のお節介な友人──佐伯の姿はもうなかった。


「秋人」


 覚悟を決め、千夏の方を見る。そこには強気な態度の千夏はいなく、今にも泣きそうな一人の女の子がいた──

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ