無罪放免〜秋人sid〜
図書室の件から1ヶ月が経った。
ずっと一緒だった相手の事を好きだと気付いた瞬間に、その相手はまた別の奴が好きだと知って。自分の好きな相手に好きな人がいる。不幸なことだとしても、別に珍しいことでもない。
そんな珍しいことでもない事実に対して、俺は向き合うことが出来なくて。気付けば俺は、千夏を避けるようになっていた。
距離を置く度にあいつは悲しそうな顔をしていた。俺の弱い心のせいで向き合うことが出来なくて。それが理由で避けて。そして、千夏を相手を傷付けて。
「俺は何をしたいんだろうな……」
この1ヶ月で慣れてしまった、一人での帰り道。ほんの1ヶ月前までは千夏が隣を歩いていた帰り道。
一緒にいるのが楽しくて、二人で話してる時間が嬉しくて。今思えば分かる。俺は千夏が好きだったから一緒にいるのが楽しかったんだ。
別に喧嘩したわけでもなんでもないのだから、普通に話せばいいのに。別に俺の気持ちがばれて気まずくなったわけじゃないのだから、一緒に歩けばいいのに。
頭で分かっていても、心が拒絶する。真正面からあいつと顔を合わせると自分が惨めに感じてしまう。自分の気持ちなのに、ずっと気が付かず。あいつには好きな人がいて。伝える前から叶わなかった。それが惨めに感じてしまう。
「千夏……モンブラン好きだったよな……」
商店街に入り、最初に目がいくケーキ屋。あいつはココのモンブランが大好物だった。
『秋人!カップル限定で、2個買うと20%引きらしいぞ!』
『いや、俺は甘い物はちょっと……』
『うん?2個とも私が食べるが?』
『そっすか……』
あの時は何も気にしなかったが、千夏は俺とカップルと思われて、気にならなかったのだろうか。あの時の俺は……今思えば、少し嬉しかった気がする。
「あと1ヶ月もすれば夏休みか……」
学校がある今ですら、疎遠になりつつ関係。それが夏休みになんて入ってしまったら、どうなるのだろう。
夏休みが終わり、2学期が始まる頃には関係が消滅してるかもしれない。俺の情けない気持ちのせいで。
「俺は──」
「おーい!あきとー!」
商店街の入り口で一人考えに耽っていると、俺を呼ぶ声がした。振りかえってみると、まぁそこにはクラスメイトの一人がいた。
「なんか用か?」
「いや、秋人を見かけたから」
「そっか」
そのまま二人で商店街を抜ける。会話といっても、内容がないものばかり。でも今は、なぜかそれが心地よくて。
「秋人が高木さんと帰らないのも珍しいよな」
急にふられたそんな話題。
何か意図があったわけではないだろう。ただ、俺の中ではタイムリー過ぎる話題だった。
「そ、そうか?」
「いつも一緒だったじゃねーか」
確かにそうだったかもしれない……一緒が当たり前となっていたから、考えもしなかった。
「あいつにさ……好きな相手がいるみたいだからさ……」
何故か口に出た言葉。
「お前……何を言ってるんだ?」
言ったことを後悔しそうになっていると、驚きを顔に張り付けた友人がそこにいた。
「何をって、言葉通りだけど」
「いや……お前……高木さんの好きな人って……秋人だろ?」
「は?」
こいつは何を言っているのだろうか。
千夏が俺を好き?そんなわけないだうが。
「え、お前。本気で言ってるのか?」
「本気ってなんだよ」
「え……いやだって、秋人といる時だけ高木さんは笑ってるし……」
「あいつはいつも笑ってるだろ」
主に俺をからかう時に。
「もしかして、言っちゃダメだったやつなのか、これ」
「さっきから何を意味の分からないことを言ってるんだよ」
こいつに悪気がないのは分かってるから怒りはしないが、さすがに心のほうにダメージがある。
千夏が好きだと気付いて、でも千夏には好きな奴がいて。
「高木さんの好きな人って、絶対秋人だろ……」
千夏の好きな人が俺?あいつは俺のことは友達、もしくは親友程度にしか思ってないだろ。
「はぁ……そんない信じられないなら聞いてこいよ」
「誰に何をだよ」
「ん」
友人が急に後方に指をさす。そこには千夏がいた。
「今度、なにか奢れよ」
「なんでだよ……」
俺に背を向けながら、手を振り離れていく。
「お節介野郎め……」
「秋人」
俺を呼ぶ声。振り向きたくない気持ちと、今すぐ話したいと叫ぶ気持ちと。
「秋人の友達の……佐伯君だっけ?秋人に話しをつけてやるから、一緒に来いって言われて」
「はぁ……」
もう商店街から出たのか、俺のお節介な友人──佐伯の姿はもうなかった。
「秋人」
覚悟を決め、千夏の方を見る。そこには強気な態度の千夏はいなく、今にも泣きそうな一人の女の子がいた──