無罪放免〜千夏sid〜
私が放課後に、男子生徒に告白をされてから1週間が経った。
あの日、あの時、図書室には私と告白してくれた男子生徒と……秋人がいた。私を教室に迎えに来る秋人。その秋人に何も言わずに図書室に来て、それをクラスの友達に秋人が来たら伝えてくれるように頼んだ。
直接目で確認したわけではないが、図書室の入り口の方から秋人の声が聞こえた。私の目の前にいた男子生徒は緊張で気付いてなかったようだけど。
私だって、放課後の図書室に呼び出されれば要件ぐらい想像は出来る。悪いと思ったけど……それを利用して、秋人の本心を知りたかった。
私の好きな人。別に好きになったきっかけがあるわけではなく、気が付いたら好きだった。私の性格、口調が男らしいのは自覚してる。だから……どうせ私なんて、って思うようにしてこの恋を見ないようにしているのに、秋人は何かにつけて私が……もしかしたら秋人も私のことが……とありもしない期待を私の心に植え付ける。
そんな時に秋人が私にした、罪の話し。
こいつは自虐癖があるのか?と本気で思った。でも、私の中で一つのチャンスが起きた。それが『重罪人』のあだ名。お前は無意識に期待させてるんだぞ、と伝えるチャンスが来たのだ。
でも、現実は想像通りにはいかなくて。私の秋人に向けたメッセージは伝わることはなかった。だから秋人の本心を知りたかった。
でも……その行動の代償は、2人の距離だった。
「お、おい。秋人」
「ごめん……今日は用事があるんだ……」
最初の異変は、朝の待ち合わせの時だった。いつもは私より早くに来ている秋人。だが、図書室の件の翌日、待ち合わせの場所に秋人が姿を現すことはなかった。
「あ、秋人っ」
「っ……!」
最後にまともな会話をしたのはいつだろう。
後悔の念ばかりが募る。なんで、あんな風に秋人の本心を探ることをしてしまったのだろう。
確かに……もし秋人が私と同じ気持ちなら、と期待した。期待して、想像して、もしかしてと嬉しくて……泣いた。秋人の心を知ろうとした代償がこの距離なのだとしたら……何もしなければよかった。距離が開いたせいで、秋人の本心を知る機会もなく、ただ幸せだった時間を手放しただけだった。
図書室の件からどのくらいが経っただろう……1ヶ月は経ってないとおもうけど。
自分でも知らず知らずの内に楽しみにしていた、朝の待ち合わせ。そこからの学校までの道のり。学校で顔を合わす時。放課後に迎えに来てくれる時。別れる時に「気を付けろよ」と言ってくれるとき。全てがなくなった。
世界の色なんて、私の心境一つで変わる訳もないけれど……でも、あの日から確実に世界が色褪せた気がする。
「た、高木さん」
「うん?……あぁ、君は……」
夏前の雨が多い時期。ただでさえ色褪せたと感じているのに、空は一面の曇り空。
そんな空を教室の自分の席から眺めていると、私を呼ぶ声が。顔を向けてみれば、図書室での彼だった。
「なにか用かい?」
彼は何か悩んだ様子で、少しずつ口を開く。
「最近……高木さんの様子がおかしくて……思い返すと、僕が図書室に読んだ日の後からだったから……僕が原因かな、って思って」
「あっ……いや、すまない……君に変な気を遣わせてしまったようだな」
自分で言うのもあれだが、彼は私のことを心から心配してくれているようだった。せっかくの告白を、私の勝手な理由で利用してしまった私のことを。
「大丈夫だ。それに君のせいじゃない……全部私が──」
言いかけて口を閉ざす。
そう。全部自分が悪い。はっきりとした理由は分からないけど、私のあの行動で秋人は私から距離をとった。理由は分からないけど原因は私だ。
「高木さん?」
「すまない……心配してくれるのは純粋に嬉しいが」
──ほっといてくれ。
そんな突き放すような言葉が出そうになる。
悲しい感情が醜い言葉を吐き出しそうになる。
「ありがとう。心配してくれて」
「あ……うん」
目の前の彼に少しながらも罪悪感を感じながらも、彼から目をそらす。純朴な彼を見ていると自分が小さく見えてしまうから。
「ほんとうに……すまない」
あと1ヶ月もすれば夏休み。
何か約束でもしなければ会うこともなくなる夏休み。ここ最近ですら距離があいてしまっているというのに。
このままいくと、私達の友情ですら消えてしまうような気がする。私の余計な行動のせいで。
「さようならは、嫌だなぁ……」
気付けば、私の頬に暖かいものが流れていた──。