最低ときどき最高彼氏
「うわ~。社会23点とか、終わったー」
彼はバカで。
「痛ったー!!」
「霧伊、ひっかかったー」
ドSで。
「ぷっ。おまえの顔崩壊してんぞ」
「崩壊なんてしてないし!」
最低な私の彼氏です。
「寺地と付き合い始めたー!?」
クラスメートの視線が、一瞬で私に集中したような。
「し、静かに! 愛結、声大きいって」
ずっと片思いを続けていた寺地 道太と念願叶ってカレカノになった私、霧伊 志乃。
親友の上坂 愛結に報告したら、一発でみんなに関係がばれてしまいました……。
「おはよ、悟司」
「はよ、道太。大変なことなってんぞ、おまえの彼女」
私の机の左隣に登場した、男子。
そこそこ整った顔立ちで、まぶしい笑顔は今日も私をきゅんとさせる。
でも……。
「霧伊!」
タイミング悪っ。
「なんで今のタイミングで来るのよ、寺地!」
「マジでつきあってんの!?」
周りのみんなが私たちを冷やかす。
私は寺地に腕をつかまれて、無理やり教室から連れ去られた。
「ごめんね、初日でばれちゃって」
「いいよ。いずればらすし」
騒ぎから抜け出すため、私たちは教室を飛び出して、屋上へと逃げてきた。(本当は出ちゃダメなんだけどね……)
「でも、俺から言いたかった……、なんてな」
「寺地……。ごめんにぇ」
あれ? 私は噛んでなかったはずなのに、おっかしいな~。
「ぷっ。変な顔」
何かおかしいと思ったら、寺地が私のほっぺたをつかんでいた。
若干あごクイになってない?
意識しすぎな私が悪いんだろうけど……。
「キスしてほしいの?」
「な、なに言ってんの!?」
私は取り乱して、寺地から逃げる。
彼は自分の言ったことに過剰反応する私がおもしろいのか、いたずらっぽく笑った。
「だって、ずっと唇突き出してるから……」
「寺地がほっぺた押すからじゃん」
「ごめん。痛かった?」
彼はいつだってずるい。
何かいたずらしてきたと思ったら、今度は私を心配そうに見つめる。
悔しいくらいに、嬉しいんだ。
「大丈夫だよ」
「そっか」
彼はもう一度私の顔をつかむ。
今度は、あまり力が入っていなかった。
何をする気かと思ったら、彼は私の予想をはるかに裏切った。
私が瞬きした瞬間、私の唇は奪われた。
甘いのかな? と、小さいころから夢見ていたファーストキス。
思わず目をつむってしまったけど、これでいいんだよね?
キスをする時に目を閉じない女は信用するな、って聞いたことあるし。
「かわいい顔してんな」
「か、かわいくないよ!!」
唇から温かみが消えたころ、寺地はまた私をからかう。
「そろそろあいつらも落ち着いたか」
「うん、きっと」
私がうなずくと、彼は私の左手に自身の右手を絡ませてきた。
恥ずかしいんだけど、嬉しすぎて……。
「寺地」
「ん?」
わざともったいぶるように間をあける。
「大好き」
はにかむ彼は私の手を強く握って、得意げに言った。
「知ってる」
もう、自意識過剰だ、ばーか。
そんな風にばかにするけど、口元は緩みまくっていた。
ああ、大好きだなあ。
私の最低にして、最高の彼氏くん。




