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再来の兆し

 男が去ってから、村には段々と平和が戻ってきた。もっとも、ナビリ以外でその()()()()に気づける人は居なかったのだが。



 そして大きな変化も無く月日は流れ、四年が過ぎた。十二歳になったナビリは背が随分と伸び、顔つきも子供っぽさが無くなり、全体的に大人びてきていた。


 ナダネス村は、その日は特別星の綺麗な夜だった。夜風に当たりながら窓辺で暫く星を眺めていたナビリに、外から話しかける者がいた。


「こんばんはお嬢さん。今夜は一段と夜空の輝く夜だ」


 男は深く被っていた帽子を脱ぎ、空を見上げた。癖のついた長い金髪があらわになる。


「そうですね。私も見とれていたところです」

「お嬢さんも同じだったのか。実は、こんな素晴らしい夜に失礼だとは思うが、我輩を一晩泊めて貰いたい。つい空ばかり眺めていて、宿を探し忘れていたのだ」

「あら、旅の方?余っている部屋は無いからリビングで寝てもらうことになってしまうけれど、それでもよければどうぞ。玄関は向こう……」


 ナビリは身を乗り出して指差そうとしたが、男が片手で制した。


「折角窓があるのだし、ここから失礼してもよいかね?」

「えっ?」


 窓から離れて困惑するナビリをよそに、帽子を被り直した男は、窓枠を軽く飛び越えるようにして窓から入ってきた。


「驚かせてしまったかね。すまない」


 ナビリには、男の声はあまり反省していないように聞こえた。ナビリはキッと睨み付けて言った。


「今度また何かしでかしたら出ていってもらいますよ」

「いや、怒らせる気は無かったのだ。本当にすまない」


 それにしても何処かで見たような格好の人だとナビリは思った。目が見えないほど深く被られた帽子に、黒く長いマント。全身黒で統一されたこの目の前の男に会ったことがあったのか。ナビリが記憶を辿っていると、軽い頭痛に襲われた。思わず頭を押さえる。


「どうした?頭でも痛いのかね」


 男はナビリの方へ寄ってきた。


「大したことは無いです。あの、失礼ですが、前にお会いしたことありましたっけ」

「我輩にか?人違いではないかね」

「そうですか」

「まあまあ、そんなことより……」


 ナビリの目の前にまで迫っていた男は、両手で肩をギュッと掴み、グッと顔を覗き込んだ。鋭く尖った犬歯を見せ、ニヤリと不気味に笑っている。突然の恐ろしさに、ナビリは背筋が凍ったようだった。男は口を大きく開け、今にも噛み付かんばかりに歯を剥き出しにしている。

 ところが、男の息が首筋で感じられるまで近づいた時、ナビリの脳内を電流が走った。今日まで一度も頭をよぎりすらしなかった、目の前の男にそっくりな人との二度の会話が鮮明に思い起こされる。


「あなたはもしかして()()キュ()()さんではないですか?」

「何故我輩の名を知っておる?」


 狼狽したのか、男はナビリを突き飛ばした。ナビリはその勢いのまま座りこんでしまう。

 ナビリが立ち上がって男を見上げると、先ほどの男が目の前から忽然と消えた。くっきりと見えていたの身体の輪郭が一瞬の内に無に変わったのだ。ナビリは部屋をぐるりと一周見回し、窓を開けて外をみるが、ナビリ以外の人影すら何処にも認められない。


「ドラキュラさん何処に行ったんですか?」


 ナビリの問いに返事は来なかったが、代わりに母親が様子を見に来た。


「ナビリ、どうしたの?誰かと話してたみたいだけど」

「……ううん。話してないよ」

「そうかい。夜も遅いし早く寝るんだよ」

「はい」


 今でも首筋に残るような感覚に首を振り、きっと夢でも見てたんだと思うことにして、ナビリは眠りに就くことにした。

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